征士とみどり
トロイメライ
#2
Traumerai



「人の姿になればいい」
 と言ったのは確かだ。小動物に比べると色々面倒な事もあるが、人の姿をしている限り、それに話し掛ける行為を異常とは思われない。「ペットは家族の一員」と言う者もいるように、トラウメンを家族として扱うなら、人の姿をしている方が都合が良かった。
 今、局地的な豪雨が通過したようなマンションの一室で、征士は得体の知れない生暖かい『物質』を抱えて立ち尽くしている。彼の金糸の髪から零れる雫が、見上げている柔らかな面差しの、艶のある頬の上を次々と流れている。顔の輪郭に沿って、細い顎を伝って落ちて行ったそれは、淡く影成す鎖骨の窪みに一時溜まって、鼓動に小さく上下する胸の上を濡らしていた。
 そんな様子を暫く観察していて、征士は今頃になってやっと、
「…男だったのか?」
 その人の姿を正確に認識した。
 しかしどうだろう、触れている腕からは変わらず、細やかで優しい波動が伝わって来る。その性質を表すように、薄茶色の髪は柔らかく波打っている、緑の瞳は新緑の若葉の色を思わせる。血色の良い、健康的な皮膚は滑らかに潤い、小さな唇とそれぞれの端部が、朝露に濡れた花を連想させた。性別は確かに男に間違いないが、それは中性的な要素を多く持っていた。征士が暫く気付かなかったのも無理はない。
 そのふたつの瞳が、穏やかな静寂の中でずっと征士を見上げていた。そう言えば当麻は、
「メシも食わないし、鳴きもしない」
 と説明していたが、今自分の腕に抱えている人の、体温や量感、呼吸の振動、何を取っても「生きていない物」とは、とても思えなかった。けれどどんなに待ち焦がれても、その唇は「物言わぬ唇」であろうことは、無言で立ち止まっている時間が続けば続く程、明らかな事実となっていった。
 静かな夜の、静かな交感が続いた。時を忘れて見詰め続けている、特に意味を為さない行為が至福の時間に感じられる。人の長い世紀は誰かの一昼日だと言うが、今見詰めている、見詰め返している時間は無限に続くように思えた。
 この体から生まれた心が君に届く、それは君の心となってまた帰って来る。そうして時計の針のようにずっと、同じ法則を繰り返し回転しているような気がした。回転することは、決して不毛ではない。雨は土に染み落ちて川となり、やがて海に辿り着いてまた天へと昇るように、回転する幸福は生物に与えられた最大の慈悲なのだから。
 時計。征士はふと壁に掛けられた時計の文字盤を見た。既に深夜二時に達しようとしている。そしてはたと我に返った。
「…とにかく!、この惨状をどうにかしよう」
 取り留めのない場に敢えて区切りを付けるように、征士は景気良く自分に声を掛ける。そうでもしなければ、翌朝仕事に出掛けるまで続きそうな、只管な安楽から逃れることができないと思った。
 契約している清掃ヘルパーは、丁度明日来る予定になっていた。が、幾ら何でも、天井の照明から雨漏りの如く水が滴る、この状態をそのままにしておきたくはない。家具などは構わないが、電気製品は故障する可能性も疑えた。
 否、それより後が恐いのは壁と天井のクロスだ。乾燥すると染みが現れそうに思えた。月三十万を超える家賃のマンションに於いて、敷金をその倍以上払っている身としては、それが戻らない事態は考えものだった。
 しかしこの部屋には、清掃道具らしきものは小型の掃除機と小型のダスター、あとは車体用の洗剤とスポンジしか存在しない。かなり面倒な掃除になりそうだった。
「立てるか?」
 と言って征士は、ずっと抱きかかえていた人を初めて床に下ろす。そう声を掛けたのは、元は小さな玉であるトラウメンが人型になったとして、まともに動くかどうか判らないからだ。大体形が変わるとは当麻にも、売人達にも聞いた覚えがない。そしてその容姿は、今ひとつ存在感が薄いような、征士にしても非人間的なものを感じさせていた。
 だが彼の疑問はすぐに杞憂に終わる。床に降り立った物体は何事もなく歩き出し、部屋の様子を見回すように一周すると、征士の横に戻って来た。そのまま立ち止まって、また征士の顔をじっと見上げているので、
「わかったわかった、今はとにかく掃除が先だ。掃除、…っておまえに理解できるのか知らないが…」
 と聞かせてみたが、案の定彼は無反応だった。けれど、それで寧ろ征士は機嫌を良くして、タオルなどが置いてある洗面所に足を向けていた。
 何故征士は上機嫌になったのか。それはこの奇妙な物体「トラウメン」の何に、人は魅力を感じるのか知れたからだ。もしそれが生物なら必ず、己の身を守る能力、即ち危険を回避する本能を持っている。無条件に相手を受け入れることは、命の意味を失うことでもある。しかし持ち主がどんな性格で、どんな容貌をしていたとしても、人格だけの物質は全てを受け入れるからだ。
 恐らく征士が彼を気に入る前に、彼は征士がとても好きだった。彼の世界は主人無くして始まらないのだから。
 そんな事を考えながら、洗面台の下のキャビネットを探っていた征士は、ふと背後の存在に気付いてギョっとした。別段おかしな行動をしていた訳ではないが、トラウメンは征士の後を着いて来て、その一挙一動を具に眺めていた。
 先刻、音もなく軽やかに歩く様を見たばかりで、着いて来たことに気付かなかったのは仕方ない。それは言わば形ある空気、征士の行動や呼吸にぴたりと合わせて動いていた。そう言う性質の物らしい。彼に掃除をさせようとは考えなかったが、着いて歩くばかりでは退屈そうだと、征士は棚から取り出したタオルをその手に持たせてみた。そして、
「はい、戻る戻る」
 と、彼の骨格の細い体を反転させて、水浸しの居間に戻るように促した。その時手に触れた、彼の肩はひんやりと冷たかった。部屋の北側にあるこの場所は、居間に比べるとかなり肌寒く感じられる。浴室の換気口の方から、闇夜に冷やされた空気が流れ込んでいるのが判る。
「いや、ちょっと待て…」
 向けられた方へと進もうとした彼の腕を取って、そこに掛けてあった自分のバスローブを征士は、彼の体に羽織らせてあげた。恐らく風邪を引くようなことはないだろうが、裸で歩き回らせておくのも忍びなかった。そこで、征士はひとつの問題に気付く、
『ヘルパーにどう説明するかな』
 今からまともな格好をさせようにも、こんな時間に開いている衣料店は無い。自分よりふた回りくらい小さな体格に、丁度良さそうな服はここには無かった。「人になればいい」と安易に言ってしまった、結果を後悔するものではないが、考えねばならない事は次第に増えて行った。

 結局その日は、午前四時にもなって漸く眠りに就くことができた。勤務先がフレックスタイムを施いているので助かった、と言うところだ。しかし企業回りの予定はきっちりと決まっている、明日一日に処理する件数も既に決めてある。出勤が遅くなれば、退社も遅くなるだけである。
 だがそれでも、最早征士は不平を言う気にならなかった。寝室のベッド以外に寝具が無いので、やや窮屈ではあるが、セミダブルのベッドに一緒に寝ることにした。その窮屈さすらすぐに忘れていた。大人しく布団を被った彼はまだ、その緑の瞳をぱちりと開けて征士を見ていた。気になるものでもなく、穏やかに見守られている感覚だった。そして心地良い眠気に微睡みながら、今日この数時間の内にどれ程、乾き切っていた心が慰められたかを、征士は思い返していた。
 常に自分に着いて来る、自分がする事を同様に真似て、「よくできました」と笑い掛けると、嬉しそうに笑顔を返した。一度覚えた事はすぐに一人でできるようになり、煩わしく思うこともなかった。声はしなくともよく笑う、笑っている表情ばかりが思い浮かぶ。彼が喜びに満ちて笑う時、見ている自分をも幸せな気持にさせるのが判る。そうして自分が満たされると、彼はより一層の充足を、態度に、微笑みの上に表現した。
 何も言わなくても、してほしくない事はしない、傍に居てほしい時には傍に居る。何もかもを自分に合わせる彼には、些末な不満すら思い付かない。それではあまりに都合が良過ぎると、自分で批判したくなる程に彼は、ひた向きに自分だけを見詰め続けている。卑屈にもならずに、ただ真直ぐにその眼差しを向けてくれる。
 征士は眠りに就く前に、
「緑にしよう、おまえのことをこれから『みどり』と呼ぶからな」
 と、今も自分に向けられている瞳に呟いた。みどりと呼ばれることになった物体は、その目を細めてとても幸せそうに笑った。

 翌朝征士は出勤する前に、玄関の、見える所に張り紙をして出掛けて行った。

『ヘルパーの方へ
 事情があり、心の病を患った弟を部屋に置いています。
 凶暴な面はないので、構わずにおいてください。
 医師に決められた食事しか許されていないので、食物を与えないでください。』



 征士はその日、夜の十一時を過ぎて帰宅した。出だしの遅れが響いたかと言うと、実は違う理由だった。
 明日は日曜で、一応仕事の予定がない休日となっている。久し振りに何処かに出掛けようと思い立ち、大急ぎで今日のノルマをこなすと、「みどり」に必要な衣装や道具を買いに、つい先刻まで銀座の町を歩き回っていた、という訳だ。
 部屋の玄関を開けると、今朝から征士のパジャマを着ていたみどりが、待ち構えていたように玄関に飛び出して来た。が、大荷物を抱えているその姿を見て、キョトンとしてそこに立ち止まった。
「やあただいま、驚いたか?」
 オートロックのドアが勝手に閉まる音を聞いてから、征士は荷物を床に下ろして、
「おまえの服を買って来たのだ。明日は天気も良さそうだし、外に出ようと思ってな」
 とみどりに言った。すると彼はその意味が解ったのか、弾むようにして征士にぺたりと張り付いて来た。これだけなら犬や猫でも一緒のような気がする。しかし、
「何事もなかったか?」
 と尋ねると、みどりは持ち上げた頭を縦に振って見せた。返事ができるようになっていたのだ。
 征士の中で再び疑問が首を擡げて来る。自分はそれを教えた覚えがないからだ。それとも自ら会得するのだろうか?、トラウメンに元々ある知識だろうか?。体の側面にへばり付いている彼を半ば引き摺るようにして、征士は考えながら居間へと足を運んだ。
 するとそこに在るサイドテーブルの、ミラーガラスの天板の上に小さなメモが乗っていた。

『伊達様
 いつもこちらに来ているヘルパーの者です。
 お言伝の内容、拝見致しましたが、
 申し訳ないことに弟様に清掃を手伝わせてしまいました。
 幼い子のように私の真似をするので、結果そうなってしまい、困っております。
 今後どうしたら良いのか、御指示くださればと思います。
 宜しくお願い致します。』

 それを読み終えると、事情は大体理解できた。やって来たヘルパーの仕種を真似ている内に、返事の仕方を覚えたのだろう。それにしても愉快な内容だ、と征士は拾い上げたメモを眺めて笑った。昨夜そうしていたように、恐らくヘルパーの仕事を間近で眺めては、同じ事を楽しそうに繰り返していたに違いない。
 その所為か、今朝は湿気で居心地が悪かった部屋も、殆ど元の状態に戻っていた。壊れた物や、後に心配を残した物も無く、征士もホッと胸を撫で下ろすことができた。
「そうか、おまえは余程掃除が好きなのだな」
 安堵してそんなことを言った征士は、先程からくっ付いたままのみどりを引き剥がすと、自分の右腕の上に持ち上げるようにして彼を抱える。袖捲りと裾捲りをした、だぶついたパジャマに埋もれた小さな顔が笑っていた。彼は子供のように、嬉しいことを嬉しいと素直に表す。自らの幸福の中に在る彼は、特別に愛らしいと征士は感じた。ぼんやりそんなことを思っている内に、首に巻き付いていたみどりの腕は変わらず優しく、心地良く征士を包んだ。
 こんな安らぎの中になら、いつだって帰りたいと思う。殺伐とした職場に逃げなくても良い。この部屋はもう「何も無い部屋」ではなかった。

 ソファでコーヒーを飲んでいる征士の横で、みどりはひとつひとつ紙袋の中身を広げては、テーブルの上に並べたり、身に着けて見せたりしながら喜びを露にしていた。言葉がない分判り易く単純な感情表現だが、それに触れていると釣られるように、頑に仕事人としての形を崩せずにいた征士も、徐々に己が変化していく経過を感じられた。自然な方向へ、楽な方向へと、みどりを通して己を解放しつつあるのを知る。
 だから彼は、トラウメンは、人を執着させるのだと判る。
 みどりが最後に取り出した水色のシルクのスーツ。張りのない滑らかな素材が、彼の細身の体に良く似合っていたので、
「明日はそれを着て行こう」
 と征士は言って、中に着ているスタンドネックのシャツの、縒れている襟を直そうと手を伸ばした。するとみどりはすっと征士の横に座って、彼がするのと同じように、相手の襟元を弄り始めた。用もないのに同じ事をしようとする様が可笑しくて、思わず、
「はっはは」
 と声を立てて征士は笑う。そしてそれを見ていたみどりは、更に幸せそうに笑い返して、そのまま征士の首を取って、彼の頭部を自分の腕に抱き締めた。
 頬に押し当てられたみどりの体の奥から、正確に時を刻むような音が聞こえている。そして暖かい。紛れもなく彼には、状況によって変化する人並みの体温がある。これが血も無いただの『物』だなんて、誰が判断できるだろうかと思う。
 やがて、征士の頭は彼の膝の上に下ろされて、求めるように見上げた征士の瞳をみどりは、愛しむように見詰め返した。それが始まりの合図。征士はまた、終りのない至高の回転に流れていくのを感じた。求められるままに与え、愛しむ心を同じに返す。ただその繰り返しで、人はこんなにも幸せになれる。このまま他の何処にも行きたくない、と思わせる。
 ところが、自我が薄れて来た征士の頭の片隅で、大切な事を思い起こさせようと不意に瞬きをさせた。
「…いかん、ここで眠ってしまう。ちゃんと向こうで寝よう」
 人が完全に幸福になれない理由。
 理性が本能に負ける話はよくあるが、人が人である限り、理性を捨て切れるものでもない。生き物と言うだけの感情で、何の障害も持たない思考をしては、何が幸福で何が不幸かも見分けられない。だから、これで良いのだと征士は思う。ずっと繋がって居たいという夢を見ながら、醒めてはまた夢見ることに憧れる、それで希望を失わなければ良いのだと。
 眠りに入ろうとしていた体を征士は、重苦しい動作で起こすと、変わらず自分を目で追っているみどりの肩を揺すって、今日を終わらせるようにと促した。明日も、明後日も、一日の中に永遠の時間が在るのなら、そう慌てて事を詰め込まなくても良い、とも思った。



 晴天、と言っても何処か濁ったような淡い色の空。そろそろ冬に入る時期としては妥当な空色も、都会の下では年中変わらない色彩に感じる。神楽坂の周辺はそれでも、アスファルトとコンクリートの街中よりは、季節感を感じる景色が見られる方だ。
 戸建て住宅の庭の木々や街路樹、稀に擦れ違うことがある東芸者の着物の装いなど、何気なく毎日を過ごしていても、季節は確実に移り変わっているのが判る。同じ顔をした時は二度とやって来ないことが判る。
 八階建てのマンションの、七階に在る征士の部屋からはそんな、十月の終りの静かな町が一望できた。窓の外を見ながら衣服を整えた征士は、寝室の隅のコーナーボードから、普段持ち歩いているダンヒルのキーホルダーではなく、F1の欧州GPで記念に作られた、金のチェッカーフラッグの付いたキーホルダーを取り上げた。そう、今日は久し振りに愛車に乗ってのお出掛けだ。
 大学に在学中にライセンスまで収得していた、征士は小学生の頃から、実家の在る仙台で割に盛んなカートに興じていた。将来はカーレースに関わる仕事をしたい、と他の子供と同じように思いながら育った。けれどそれは、親の反対に遭って敢えなく挫折してしまった。彼が他の高級車より、スポーツカーを愛するのはその名残りなのだ。
 そして今日は更に、ダーク系のスーツに幅広のネクタイ、と言う普段のスクエアな出で立ちもやめた。勿論車に似合わないからだ。彼にしてはかなりラフに感じる、襟の詰まったチャコールのスーツに緑の縞のネクタイ、昔ヨーロッパで流行したモッズ系のイメージだった。

 何処かの部屋の窓から、テレビ番組の時報が耳へと届く。丁度十時を示している時計をそれとなく確認し、征士のボクスターはガレージから、外の世界へと発進した。
 大人しく助手席に座っているみどりは、初めて見る外の様子を面白そうに眺めていた。思えば当麻のトラウメンも、外に連れて行ってもらうのをとても喜んでいた。しかし球体のままでは、人の目で見るように景色を見ることはできないだろう。可哀想なことだと、ふと征士は思った。
 人間がふたり居れば、共通の想い出を持つ人ができる。今車窓を流れる、秋の景色を同じように見ている者が居る。同じ記憶を共有すればする程、ふたつの心は深く繋がれる。そしてその人は自分が手放さない限り、ずっとここに居てくれるだろう。こんなに幸せなことはない。
 特に目的を決めずに、征士の車は大久保通りを曲がって、港区の方向へ向かっていた。港区と言えば、六本木や赤坂の大人のナイトスポットの他、地下鉄が通ったことで、麻布十番に旅行客が集まるようになったと言う。しかし人間の世界を知らないみどりには、それらはやや難解で不向きな場所に思えた。そこで暫し考え、征士はお台場方面に向かうことにした。お世辞にも綺麗とは言えないが海も見えるし、新しくできた湾岸の街を歩いてみることにした。
 山手線の線路を渡り、車が芝浦一帯に差し掛かると、立ち並ぶビルの隙間にチラチラと水平線が見え始める。
「あれが海だ、見えるか?」
 と、征士はみどりの横顔を見た。すると彼は既に幽かな潮の匂いを感じて、在る筈なのに見えないものを探している様子だった。辺りをキョロキョロ見回す彼の、探し物はもうすぐ視界に広がって来るだろう。

 埋め立て地域の道を走る間、みどりは食い入るように海や運河ばかり見ていた。余程それが気に入ったのか、それとも元々ある性質の内なのか。なので青海に着いてからも、何処かそわそわとして、海のある方向を気にしている様子だった。
 前途の通り東京の海は、征士には良い景色とはとても思えない。ならば午後には、もう少しマシな海が見える所に連れて行こうと考えた。取り敢えず征士はここで食事をしなければならないので、駐車場で彼を下ろして歩き出した。
 日曜と言うことで、アーケード状に連なる近代城壁のような街は、ざわめく人でごった返していた。こうした状況を征士は余り好まないが、みどりの方は逆に生き生きとして楽しそうだった。ショーウィンドウに並んでいる、色とりどりの服飾やアクセサリー、まだ見たことのない珍しい商品、それらを彼はひとつひとつ眺めては、「面白い」という顔をして、征士を振り返って笑った。
『みどりが楽しめてるなら、構わないのだが』
 と、考えた時の征士の視界に、ふとガラスのドーム状の建物が映る。みどりの進みに合わせて近付いて行くと、やがてその中に見えて来たのは、新車の展示会をしている様子だった。そしてそれに気を取られている内に、横に居た筈のみどりが消えてしまった。
「!?」
 慌ててその姿を人混みの中に探したが、見付けると征士は苦笑していた。何のことはない、彼はもうそのドームの入口へと向かっていたのだ。主人が関心を示す方向に共感するように、自ずと自分を向かわせる、トラウメン。
 それにしても、みどりはまるで人波を渡る魚のように、スイスイと前へと進んで行く。体腔の差もあるだろうが、上手く人の間を擦り抜けられず、中々目的地に辿り着けない征士とは対称的だ。こんな場所では寧ろ、みどりに着いて歩いた方が良いような気もした。

 さて、何も食べないみどりを前に座らせて、征士はひとりで食事を済ませた。マンションに居る時もそうだが、彼はいつも不思議そうな面持ちで、征士が物を口にする様を見詰めていた。否、食べる行為でなく、口に入る物に関心があるようだ。皿の端に付け合わせに乗っていた、プチトマトをフォークで差して、みどりの目の前に差し出してやると、その小さな野菜に彼の瞳がきゅっと寄って、「何だろう」という表情になるのが征士には面白かった。
 昼の書き入れ時で、一人分しか注文をしないのは少々気が引けたので、夜はバイキング形式の店に行こうと決めた。店を出るとみどりは、アーケードの更に奥の方へと行こうとするので、征士もそれに付き合って歩き出した。
 店先に並んでいる商品をひやかしながら歩いていると、向かいからやって来る家族連れが、リードに犬を繋いで歩いているのに気付く。その家族も、周囲を歩く人も、特にそれを気にしている様子はない。この辺りは動物を連れ込んでも良いらしい、と征士が理解した矢先、みどりはたたたっと小走りになって、アーケードの最奥の一角へと急ぎ出した。
 何事か、と思えばそこには広大なスペースのペットショップがあり、各種ペット用品と小動物の他に、何故か山羊なども柵に入っていて、有料で遊ばせてくれるサービスもあった。店内も動物持ち込みができるので、レジの前には首輪をしたダルメシアンが、じっと主人の勘定が済むのを待っていたりする。これだけの企画や商品数を備えた店は、ちょっとした動物園と言って良い。みどりは生きて動いている、動物達に強く惹かれるようだった。
 人が足を止めて集まる場所には、子犬や子猫、フェレットなどが陳列されていた。ショーケースの中で愛嬌を振り撒くコーギーの子犬、アメリカンカールの子猫は見物人などそ知らぬ顔で遊んでいる。籠の中の透明なチューブにぎゅうぎゅうに詰まって、安心顔をしているロボロフスキーハムスター。その横でやはり同じように、ジャンガリアンもぎっしり小屋に詰まって眠っていた。
 ケースに分けられた犬や猫達は、見せ物のようで何処か悲し気に見えるが、大勢で群れている小動物は、状況が何であれとても幸せそうだ。そんな中、やはりみどりが最も気に入ったのは、店の奥にずらりと並べられた水槽を泳ぐ、熱帯魚や水生動物だった。彼は先程海を見ていた時と同じ状態になった。水槽のガラスにぴたりと張り付いて、泳ぐ魚達を一心に見詰めていた。なので、
「じゃあ折角だから、好きなのをみどりに買ってやろう」
 と征士は言って、振り向いた彼の頭に手を乗せると、はしゃぐように破顔した様が、酷く可愛らしく征士の目に映った。
 マンションで動物を飼うことは禁止されているが、水槽を置くくらいなら文句は言われない。自分が出掛けている間、みどりも退屈しないだろうと思った。その日注文したクマノミと水槽のセットは、六日後に部屋に届けてもらうことにした。
『水槽の魚にもあれだけ興味を示した』
 と考えていた征士は、それなら美しくない海より、水族館にでも行った方が良いと思い付く。ここからなら、テレビドラマのロケで有名になった、しながわ水族館にはすぐに行ける筈だった。

 しかし日曜日は何処も混んでいた。水族館の館内に入るまで、横の駐車場に伸びた列の中で、三十分程待たされてしまった。今は長期休暇のシーズンではない為、これでも楽な方なのだろう。
 そして待った甲斐あって、みどりはそこに居る間、正に狂喜乱舞したような状態だった。お陰で四時間も時間を費やしたが、そんなに気に入ってくれたなら、征士はそれでちっとも構わなかった。
 ペットショップとは違い、普段は見ることのない珍しい魚達が、本来あるべき環境を模した水槽をゆったり泳いでいる。海亀や海月の類も面白いが、深海魚や肺魚などグロテスクな見かけのもの程、よく見ると愛嬌があって可愛い。と征士は思っているが、みどりが何を思ってそれらを見ているかは解らない。魚と彼の双方を見ていた征士には、言葉なく会話しているようにさえ見えた。
 否、本当にそうなのかも知れない。目を失うと聴覚が増すことがあるように、言葉を持たないからこそ、解り合える面もあるかも知れない。
 だからトラウメンには、すぐに心が通じるのかも知れないと思った。
 それからイルカのショーを観て、アシカのショーを観て、この水族館の名物「トンネル水槽」に足を運んだ。
 成程ドラマに採用されたのも解る。そこは本当に、海中に作られたガラスの通路のようだ。作られた施設と言うよりは、幻想の世界に居るような心地がした。左右から天井から見渡す限り続くような、明るい南洋の海を思わせる水の中に、自然な状態を振る舞う魚達が行き来している。自分が恰もその水中を歩いているように、魚の動きに合わせて歩くこともできた。
 後の客がつかえるので、本当はあまり立ち止まってはいけないらしい。けれど、天井のガラスに休む鮫の、白い腹側を観察する機会は滅多にない。みどりがずっと上を向いて止まっているのを、無理に前に進ませたくもなかった。ところがその時、通路のゴミを拾っていた用務員らしき女性が、下を向いたまま歩いて来て彼にぶつかった。全く意識していなかったらしく、みどりは蹌踉けて後ろに倒れそうになった。
 そうなりそうだ、と征士が気付くのが早かった為、床まで倒れ込みはしなかったが、
「すみません!、見てなくって…」
 と、謝って来た中年の用務員は、口をパクパクしているみどりを見て変な顔をした。
「…あの、どうかなさいました…?」
 もしや自分が原因かと、心配そうにみどりを覗き込むので、彼を後ろで支えていた征士が代わりに、
「あ、いえ、気にしないでください。声帯の手術をしたばかりで、声が出せないのです」
 咄嗟に思い切ったホラを吹いた。どうせ判りはしないと思う。
「そうなんですか、ああ良かった、私のせいかとびっくりしちゃって。いえ、不注意ですみませんでした、どうぞお大事に」
 そして女性は明るく丁寧に言って、また作業の続きに戻って行った。何も疑われはしなかった。今後こうした場面に出遭った時は、同じ事を言って逃れようと征士は安堵した。
 そんな、ちょっとしたアクシデントもあった。しかしみどりは一向に気にせず陽気だった。それからは、天井に張り付きながら動く鮹の、吸盤の様子を楽しそうに見入っていた。
『彼は海からやって来たのかも知れない』
 そう考えた時、フッと征士の口元にも笑みが零れた。何故なら彼に限らず、生物は皆海からやって来たと言うだろう。自分が『人』であり、彼が『物』であったとしても、元を正せば同じ、この星に生まれた心に違いなかったので。
 それぞれの違いを、もう考えるのは止めようとも思った。

 午後六時を過ぎると、水族館の周りは流石に暗くなっていた。昼間よりやや強くなった海風が、秋も終りを告げるように冷たく肌を打った。征士はこれから横浜の方に出て、橋の電飾と船の灯が見える湾岸を走るつもりだ。今日はまだ終わらない、ふたりの時間は終わらない。否、みどりがこの世から消えない限り、永久に続く時間も存在するのだけれど。



 それから一週間後。丁度征士のマンションに熱帯魚セットが届いた頃、当麻は一度大阪の実家に戻って、また帰って来ていた。元々長期滞在をするつもりはなかったが、思わぬトラブルに遭い、逃げ帰るように戻って来たのだ。
 と言うのは、人に救いを齎してくれるトラウメンの、友人としての価値を大いに見い出しつつ、当麻の科学者としての興味も専ら、それひとつに注がれていた。その玉がどんな元素で構成された物質か、又どんな技術で作られた物か、と言う基礎的な面から彼の関心は離れることがなかった。そしてそれを調べる為に、彼の故郷である大阪に出向いていた。
 尚、当麻は科学者だが、科学と化学は別物である。また彼の専門は情報科学なので、構成物質を云々するような設備は、彼の研究所には全く置いていなかった。卒業した大学は近くに存在するが、化学の分野には知り合いが居らず、私的な依頼を『破格で』受けてくれる場所を探して、思い出したのが彼の父親だった。
 大阪に在る私立の理科大学で教鞭を振るう、当麻の父親の専門は有機化学だった。
 嘗て「加工し易く変質し難い、原材料も生産コストもとびきり安い、これぞ化学の産業革命、プラスチック万能世紀の幕開け」、と言う時代が過去にあった。そう、当麻の父が学生であった頃は、有機化学は理科の中でも花形分野だった。今現在の生活を見ても、プラスチック製品は当たり前に溢れている。それがその、「プラスチック黄金時代」の成果であることは言うまでもない。
 しかし時代の移り変わりに対し、殊に理科分野には流行り廃りがあるものだ。昨今では「有毒物質が溶け出す」だの、「不燃ゴミとして廃棄する場所が無い」だの、どちらかと言うと悪者扱いされる化学製品。なので今は、土に還るプラスチックの研究を地味に続けている羽柴教授であった。
 そんな訳で、当麻は父の在籍する大学を訪ね、トラウメンの分析を依頼した。
 例え人格を持つとしても、トラウメンは生物ではない。その球状のコンパクトなボディには、命を支える臓器や、神経系なども存在しない。なので物理的には何をしても、トラウメン自体が不快に思うこともない。ない筈なのだが、大切な親友を預ける当麻としては、
「物凄く高価で珍しい物なんだ、慎重に扱ってくれなきゃ困る」
 と念を押してもまだ、不安でおちおち遊びに行く気にもなれなかった。そして、悪い予感とは得てしてよく当たるものだが、危惧していた事が三日目に起こった。実験に直接関わっていない学生が、トラウメンの一部を切り取ろうとしたのだ。
 とは言っても、実は切り取ることは出来なかった。普通の刃物では傷ひとつ付かないので、解剖用のメスを入れてみたが、浅く切れはしても、すぐに切り口が元通りに塞がってしまう。そこで、素早く何かで抉り取るしかないと、先の鋭利なピンセットで摘み取ったらしいのだ。
 しかし取れた筈の物質の一部は、「蒸発するように消えてしまった」と、その学生は話していた。当麻の手に戻されたトラウメンには、針穴程の小さな穴が開いていた。
『済まんっ!、俺が悪かった!!』
 心の中で泣き叫びながら、彼は悲嘆に暮れて東京に戻って来たのだった。

 それでも、全く収穫が無かった訳ではなかった。昨日ファクスで届いた分析結果報告の、最後に父である教授からこんな一文が添えられていた。

『この物体は、これまで発見されている何にも類似しないことが判明した。
 構成元素には、特に不明な物質は見当たらなかった。
 しかし非常に特殊で複雑な分子構造を持つ物質である。
 更にこれがひとつの巨大な細胞状の機能を持ち、塩基配列に似た情報セクションもあり、
 アメーバなどの無生物ではないか、とも考えられる。
 もし気が向いたら、是非とも引き続き分析をさせてほしい。』

 最早最後の一行に賛同する気にはなれない。好奇心から掛け替えのない親友に傷を付けてしまった、当麻は後悔と悲しみに落ち込んでいた。しかしながら、彼のオレンジ色のトラウメンは至って元気だ。それがせめてもの救いだった。
「もうすぐ完成だぞ〜、日吉丸〜」
 当麻がそう呼ぶと、彼のトラウメンは机の上で楽しそうに跳ね出した。
 知られる通り、『日吉丸』とは豊臣秀吉の幼名であり、当麻がトラウメンに付けた名前だ。一応羽柴の血を引く彼なので、敬意を持ってその名前を選んだようだ。数ある秀吉伝説の中に、「日輪の玉を呑み込む夢を見て秀吉を身籠った」、と言う母の逸話もある。その真偽はともかく、彼のオレンジの玉は太陽に例えられなくもなかった。常に明るく活動的な様を形容して、そう命名したのだった。
 当麻は今朝から研究室の作業机に着いて、火の見櫓の模型のような物をせっせと作っていた。それはトラウメンの休息所だった。完成したらその天辺に寝床を作るつもりだ。まあ、彼の心情としては罪滅ぼしのつもりなのだろう。
 その後、午後四時頃になり、当麻が完成間近のそれを眺めていると、玄関の呼び鈴が鳴った。
「すいません、真田ですけど、羽柴さんいますか?」

 訪ねて来た真田遼君は、すぐ向かいのアパートに住む大学生だ。某大学で史学科に在籍しているそうだが、実は歴史自体より、不可思議な伝承や奇妙な事例、呪術などのオカルトにも詳しい人物で、以前からしばしば面白い話を聞かせてもらっていた。当麻は大阪に向かう前に、彼にも史学的なトラウメンの研究を依頼していたのだ。そして彼は今日それを報告にやって来た。
 研究室に通された遼は、奥に飲み物を取りに行った当麻に、
「大阪に行くって言ってたから、いつ帰るかと思ったけど、早く帰ってくれて良かったです。丁度報告がまとまった所で」
 と話した。研究室に戻った当麻はコーヒーカップを両手に、明るい顔をした彼をどう理解すべきか迷っていた。わざわざ大阪まで出向いて大した成果もなく、親友も己の心も傷付いて帰った。そんな状況下に、何か明るい話題があるのだろうか?、と。
「何か判ったのか?」
 一応冷静にそう言って、来客用のテーブルセットにカップを下ろすと、当麻は彼に合図して席に座らせた。そしてその後、初めて耳にする話を聞かされることになる。
「それが、あのトラウメンって奴、この世の物ではないらしいですよ」
「はあ…」
 その出だしからは、オカルト雑誌等によくある想像話が連想された。もし『宇宙から飛来した謎の物体』、とでも説明された日には、依頼主を間違えた自分に呆れるしかない。しかし、
「うちの大学に柳生博士って人がいて、たまたま文献調べを手伝ってくれて、その博士が実は、その辺りの事情を良く知ってる人だったんです。お陰で色んなことが判って、」
 と、遼は至って誠実な様子で続けたので、当麻も漸く「聞こう」という姿勢に変えていた。
「元々この地球には、太古から平行して在る世界があって、大昔の文献には、両方を行き来して戦ったり、物を流通したりして来た証拠が、数々残されてるって話なんです。その世界のことは、人間界に対して『妖邪界』と言うらしいけど」
「恐ろし気な名前だな」
 妖邪などと呼ばれていた者達と、友好的に付き合って来たとはとても思えないが。
「いやそうでもなくて、例えば江戸時代辺りでも、外国人は鬼だと言われてたのと同じです。始めは余所者を悪霊みたいに扱うけど、歴史が進むと間違いに気付く人も出て来て。って言うか、近代に近付くに連れて、滅多にこの世界に姿を現さなくなったんで、彼らを異世界人だと見抜く知識が、現代からは消えちまってるらしいです。何で彼らが現れなくなったかは、聞いてみないことには分からないですが」
「成程、それで?」
 当麻は話の先を急かすように尋ねる。それなりに興味をそそられる内容だった。
「うん、それで、羽柴さんの話から『相当奇妙な物体だ』って、ゼミ内の意見も一致したんで、雑誌社に連絡取ったりして、トラウメンの情報を集めたんです。そしたらどうも、それを売ってる奴らが怪しいと言うか、それが異世界人じゃないかって話になって。どう思います?。それと、柳生博士はトラウメンに似た物を見たことがあって、やっぱり妖邪界の物だったんで、十中八九同じ出所だろうって言うんです」
 遼は真剣そのもの、といった顔をして当麻の顔を覗き込んでいた。
 無論、真面目にそれを研究する者も居るのだから、彼の話を全てお伽話とは思わないが、正直なところ、それが事実とも思えない当麻だった。けれど、そもそもトラウメンが説明できない物体で、人間の理屈では対応できないかも知れない、と思うと、遼の持ち込んだ話も恐らく、解明への手掛かりにはなるだろうと考えられた。
 あまり軽く扱うべきでもなさそうだ、と。
「…売人の居場所なら知ってる。そうだな、今度は少し突っ込んだ話を聞いてみるか。もし君の役に立ちそうな話だったら、これのお礼に教えるとしよう」
 当麻はそう言って、テーブルに置かれた詳しい報告書を指差す。ところが、
「あ、だったら俺も連れてってくださいよ。俺秘密は守りますから!」
 と、遼は熱意を示して食い下がっていた。関心事には酷く熱心に打ち込む性格らしい。なので断るにも忍びなく、遼の都合に合わせて明後日に、例の新宿の雑居ビルを訪ねることに決めた。

 しかし同じ日の同じ頃、西新宿のアパートの一室では思い掛けない事件が、そこに居る人々の前に明るみになっていた。
 カユラがいつもの仕事着に着替えようと、その古びた仮住まいへと戻って来た時、部屋でせっせとトラウメンを製造する男が、
「先刻ナアザから連絡があったぞ。何か大変な事があったらしいんだが、よく調査してから戻ると言って、慌てて電話を切っちまった。何なんだかなあ」
 とカユラに伝えた。
「…ナアザが慌てる程の事となると、心配ですね」
 言いながら、カユラの顔つきも不穏な方へと変わっていった。すると部屋に居た男、即ちラジュラは作業の手を止めて、手許に何かを思うように溜め息を吐く。
「そろそろ潮時かも知れぬ。元々大量にばら撒く性質の物ではない」
 淡々とそう聞かされると、カユラは何処か淋しそうに窓の外を眺めた。今日も秋晴れの良い一日だった。この世界にはいつも、拾い切れない程の恵みが降り注いでいる。多くの者はそれを意識していないが、ここは愛された世界だと感じられる。何気なく、気付くこともなく、その恩恵に与れる人々が暮らしている。同じ星の上に存在して居る人間達…。
「おい!、大変な事になったぞ!」
 その時部屋のドアが音を立てて開き、飛び込んで来たナアザは蒼白な面持ちで叫んでいた。
「事故だ!、おまえら『会社社長がめった刺し』ってニュース見なかったか?、あれはトラウメンが主を殺そうとしたんだぞ!」



つづく





加筆校正後コメント)言葉を喋らないキャラを書くのは難しい、と、初回upの時には書いたけど、校正段階ではむしろ、キャラの話し方(の癖)が今現在と微妙に違ってて、それをひとつひとつ直す方が大変でした。



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