疑うか疑わないか
Passenger
#4
パッセンジャー



『まさかな』
 と呟いてしまうのも無理はない。征士は今、再び横浜来福軒のテーブルに着いていた。無論伸も一緒にそこに居た。と言うより伸の希望で今日もやって来た訳だが。
 結局午前中からずっと、脇目も振らずレポートに取り組んでいた征士は、その努力が実ったのか、夕方六時には提出できる形に纏められた。否、彼ひとりではこの時間に上がらなかったかも知れない。伸が昼食の世話などを皆買って出たからだ。そうまでして来福軒に行きたいのだろうか?、と思えば間に合わせざるを得なかっただろう。
 そしてやはり三十分ほど待つ羽目になっていた。店には八時前に着いたのだが、席に着いた時、店の時計は丁度八時半になろうとしていた。普段の夕食時間よりかなり遅いこともあり、ふたり共昨日に比べ食欲旺盛な状態だった。
 伸は宣言通り「フカヒレラーメン」を注文し、他に中華粽とデザートセットも付けていた。征士はまずビールを頼み、一緒に点心盛り合わせを注文しようとしたが、伸が「水餃子」をしつこく勧めるので、ビールと水餃子と上海蟹セット、と言う組み合わせになっていた。正味二人前の量があったが、まあこの時は食べ切れなくもなかったようだ。美味しければ尚文句はないだろう。
 そうしてテーブルの上が、大皿、小皿でいっぱいになる。家庭では後で誰かが片付けることを思うと、大量の皿が並ぶ光景はあまり気分が良くない、と考える人もいるかも知れない。だからこれはお客様である特権だと思う。伸はそんな状態をも楽しんでいたようだ。何にせよ、彼の気を紛らす状況になっているなら、征士はそれで良いと思っていた。
 そんな折、伸はふと自分達のテーブルの前に立っている男に気付く。店員にしては何を長々と立ち止まっているのか、麺をすっかり食べ終えた箸を置き、伸はそろりと頭を持ち上げてみた。その前に征士は、既に気付いて男の様子をじっと見ていた。
「…旨そうに食ってるな」
 伸は彼のことを確と憶えていた。最初の事情聴取を受けた際に、昨日会った警部と一緒に居た刑事だ。しかし伸の意識は、怯えるばかりだった以前からは少々変化していた。恐らく一度この状態で見過ごして貰えたからだろう、征士が傍に居る時は大丈夫だと。
「あのー。いくら警察でも、人のプライベートなところに、ズカズカ入って来ていいもんじゃないと思いますが、僕は」
 伸は不服そうな顔を作ってそう言う。しかし勿論秀には言い分があった。
「入って来て悪イか、ここは俺ん家だ」
「あ…?」
 そう、伸が千石大学に入学した年には、秀は全寮制の警察学校に居た。拠って伸の知っている小田原来福軒に、秀の姿は見られなくなっていたと言う訳だ。
「ええ?っ!?」
「うかつだなー、おまえ」
 しかし秀は、意外にも元気そうな彼の様子を見て笑った。
「ま、会えて良かったぜ。真田君から言付けがあるんだ。っと、こっちは何もないから安心してくれってよ」
 そしてそれを聞くと、また偶然秀に鉢合わせてしまったことも、強ち不運とは捉えられなかっただろう。
「遼…、あ、彼は今、どうしてますか?」
「別に普通だろ、さっき博士の葬儀に来てたから、それで少し話したんだけどな。おまえの代わりに来たんだって言ってたぞ?。後でちゃんと礼を言っとけよな」
 秀はそう嫌味でない調子で答えてくれた。
 その時伸も感じたことだが、横でこの遣り取りを見ていた征士には、この刑事は警察関係者独特の嫌な印象がなく、何となく好感が持てる人物に感じられていた。それから、話に出て来た伸の友人についても、逃げている彼に対して印象の良い思い遣りを感じる。こんな機会のお陰で、これまで以上に安心して伸と居られるようになった、と征士は思った。
 半分は信じる、半分は信じないと言った彼だが、伸のみを見ている限りは、自ら殺人を考える人間には思えなかった。しかし彼の様子がずっと不安定なのは、周囲に原因があるのでは?と考えることもできた。いくら直感的に伸を助ける征士でも、危険に対し無防備な訳ではない。現状をある程度確認できない内は、自主的な行動は何もしないつもりでいたのだ。
 そこに来て、今耳にした伸の友人の様子、又それを認めている刑事の様子を知り、伸の環境的な問題は少ないと教えられると、己がここに身を置くことの危険性はほぼ無い、と征士は考え着いていた。
 これからはただ友人のように、疑問を解くことに協力して行こうと。

 と、その時。店に入って来た男がツカツカと歩み寄って来た。見たことのない顔だが、明らかにこのテーブルに向かっているのが判る。伸にはまた緊張が走っていた。背広姿の見知らぬ男には、まず警戒心を持ってしまうようだ。そしてすぐ近くまでやって来ると、その背広の男は口を開いた。
「金剛?…、会いたかったぞ?!」
 そして伸は、妙な男が刑事の肩に摺り寄っているのを、 えも言われぬ緊張感の中で見ていた。
「あぎゃーーーーーーーーー!!」
 途端切り裂くような雄叫びと共に、秀は一目散に店の奥へと逃げてしまった。それを楽しそうに追い掛けて行く会社員らしき男。店の奥からは「うるさい!」と怒鳴る従業員の声が聞こえた。ふたりにはさっぱり訳の判らない光景だ。
「何なんだ?」
 訝し気な顔をしたまま伸はぽつりと言って、けれど漸くまた夕食の続きに戻れることに、ほっとしたように溜息を吐く。伸が刑事と話をしている間、征士は特に食事の手を止めなかったが、今になってふと箸を止めてこんなことを言った。
「今の男、『耀者会出版』の奴だな」
「…何それ?、会社?」
 すると征士はおや、と言う顔をして伸を見る。
「本を見たことがないのか?。有名な学術系の出版社だが、私の大学には論文書とか、資料用の書籍が山程置いてあるぞ」
 伸は粽の笹を広げながら暫し考えている。
「えー…、記憶にないなぁ。うちでは扱ってないかも知れない。それがどうしたの」
 彼の記憶が当てになるかどうかは甚だ疑問である。そして彼には関係のなさそうな話題と見て、征士は話自体を切り上げようとした。
「いや、バッジが見えたから、あそこの社員かと思っただけだ」
 しかし、話が何か面白いものに繋がっているような、野次馬的な興味を伸は既にそそられていたらしい。
「その何とか出版の社員だったら、何かある訳?」
 と更に話を続けることになった。
「…私の通っている大学の前に、サラ金会社の店鋪があっただろう」
「ああ」
「あれが耀者会出版だ」
 伸が征士の住む町に来て丸二日以上経過していたが、その間彼等は何度かその前を通っている。だからサラ金の店鋪は勿論憶えていた伸だが、
「何でサラ金が出版社なんだよ」
 そこが繋がらないのは当たり前だった。学術書の出版とは縁遠い業種に思われる。
「さあ。社長が変わってから経営が変わったと聞いている。以前あそこは出版社の直営書店だったそうだ。それで大学関係者が、元に戻せと苦情を言っている」
 そんな状況は伸にも容易に想像ができた。付近は一応大学の町である。大都会の真ん中にある訳ではないので、町の雰囲気を損ねる物を配置してほしくはないだろう。又、学生を相手に金貸業を展開されても困る。
「変なのー」
「私もそう思う」
 普通に考えて妙な話だと、ただ聞いているだけの者にも思えた。ところがそこで、
「バッジって…、そう言えば、お城みたいな絵のやつ?」
「そうだ。正確には天守閣の絵だな」
 伸はその、サラ金店鋪の入ったビル壁面に付いていた、企業マークのモチーフを思い出していた。
「あー、そう言えばあのマークは見たことあるような…」



 二日間の週末を比較的平和に過ごした、翌朝のことだった。
「今日は止めようよ」
 この数日征士の部屋のテレビは、朝はいつも伸の見ているニュース番組がかかっている。今朝もぼんやりそのブラウン管を眺めていた彼だが、朝食を終えて持ち物を纏めていた征士の、行動を遮るように横からそう言った。
「と言われても…」
 今朝は通常通り大学に行こう、と考えていた征士だが、
「ひとりで居るのは恐いんだ、また僕は知らない内に、何処かに出掛けてっちゃうかも知れないだろ?。そう思うと不安なんだよ」
 伸は突然怒濤のように訴え始めた。
「レポートを提出しなければ」
「わかってるよ!、提出すれば問題ないんだろ!?。それだけならすぐ帰って来られるじゃないか。…もし僕が出てった先で、ホントに人を殺したりしたらどうするんだ!。そんなのは嫌なんだ、頼むよ…」
 月曜の朝、これまでの様子を観察した限りでは、特に心配はなさそうだと征士は判断していた。無意識に妙な行動をした事実もなければ、周囲に気掛かりな何かが現れたとも感じない。だから今日はここに留守番させておいて、征士は二日振りに大学に出るつもりでいた。
 しかしそれまで全く静穏にしていたようで、伸はまだ常に何かを恐れていると知る。否、己に対する疑いを己が消せないことに、今もずっと悩み続けているのだろう。何も言い出さないけれど、だからと言ってすっかり忘れられる筈もない。自ら手を下した可能性を否定できないことは、今を以っても変わらない現実だった。
 虚と実、真偽を判断する基準とは皆、存在する個人の視点から生まれるものだと思う。その中心である個が曖昧な存在であれば、全てが信用に値する価値を失うだろう。己を信用できない不安とはそういうものだと理解できる。理解はできる征士だが、
「ここに居る間は何でもするから!。掃除もするし、洗濯もするし、御飯も作れるし…」
「いや、そんなことはいいんだが…」
「お願いだ、お願いします、ひとりで置いて行かないで下さい」
 そこまで必死に訴えるようでは、最早心配でないとは言えなかった。
「…わかったよ」
 まあ、伸の言う通りレポートを提出しさえすれば、他にはあまり重要な事はなかった。征士は既に足りない単位を計算上取得しており、それ以上の心配をする必要は今はない。まだ就職活動や卒論を心配する時期でもない。拠って、伸には温情ある返事ができた。
「ならば、大学には少し寄る程度にして、それから本屋に行くつもりだが着いて来るか?」
「うん、そうする」
 否、温情だの親切だの言う前に、征士は自分の勘を信じる以外になかったが。

 そしてふたりは征士の通う近所の大学へ行き、二時間程経って外の町へ戻って来た。「少し寄る」という時間にしては長いが、それにはこんな経緯があった。
 征士がレポートを提出しに行っている間、伸は暇なので大学の図書館で待つことにした。彼の専攻する伝奇学はこの大学では扱わないが、日本史に関する文献は様々あり、それどころか千石大学に無い書籍が多く揃っていて、退屈するどころではなくなっていた。二、三十分で征士がそこに戻ると、伸は机の上に本を山積みにして、すっかりそこに落ち着いていた。それぞれがどんな内容の本かを調べていたのだ。
 そして紙にタイトルなどの目録を作り、取り分けた二冊の本を借りてくれと征士に頼んだ。その手続きを終えると、既に昼時に差し掛かっていた為、昼食は大学の学生食堂で済ませることにした。そんな経過を辿り、今伸は二冊の本を持って歩いていた。
「本当に沢山あったねぇ!、耀者会出版なんて知らなかったけど、こんなに色々出てるのに、何でうちの大学にはないんだろ」
 洋々と歩いていた伸が、丁度例のサラ金会社の前を通り掛かった。一見何の変哲もない普通のサラ金店鋪のようだが、そのビルの側面に掲げられたプレートには、確かに出版会社の名前も列記されている。と言うよりビル自体が出版社のビルなのだ。
 不釣り合いだな、と思いつつ伸は更にこんなことを言った。
「うーん、学長が潔癖だからかな。こういう変な経営の会社は認めないのかもね」
「は?、千石大学の学長が?」
 何故伸がそんなことを知っているのかと思えば、
「そうだよ。大学ではみんな知ってる。だから時々いきなり解雇される職員がいたり、学園祭なんかの規制もうるさいんだ。でも厳しいけど、すごくよく考えてる人でもあるよ」
 学長の高潔さは既に周知の人物像のようだ。そんな伸の意見に対し、
「まあ、それくらいでも良いとは思う。最近教職者の事件も多いからな」
 征士は他人事のような感想を述べていた。特にそれが問題とは思わなかったので。
「そうだね」
 そして伸もそれ以上何を気にすることなく、至極簡単な返事をしていた。

 大学前の通りを暫く歩いた先に、目的とする大型書店は在った。これが都心の街中なら、鮮やかなカバーの新刊書が並んでいるところだが、専門書中心の書店の外観は些か地味である。
 征士はそこに、自身の勉強に必要な本を求めると同時に、もうひとつ探し物をするつもりだった。予め調べておいた買い物を済ませると、彼は早速、自分にはあまり馴染みのない、心理学系の書籍のコーナーへ足を運んだ。伸の方はその書店に置かれている、見慣れないタイトルの本に再度夢中になっている様子で、店内を移動した征士には気付かなかった。
 ところで「心理学」と一口に言っても、その分野は非常に多岐に渡っている。所謂神経症や精神病を扱う病理心理学、最近映画やテレビでもて囃される犯罪心理学、あらゆる人間の活動に応用される社会心理学など、それぞれが専門的な分野でありながら、その基礎となるフロイトやユングの著書は、心理学でなく哲学に分類されている。そして一部は占いなどのオカルティズムにも影響している。
 そんな知識を持ってしても、これと言う目的の本を探すのはなかなか難しかった。征士はその前に、たまたま隣の棚が医学のコーナーだった為、そちらで思い当たるタイトルをざっと漁ってみた。そしてすぐに見付け出せたのは、『神経症から夢遊病は発生しない』と言う内容の記述だった。夢遊病、ナルコレプシーなどの異常な眠りについては、かなり独立した精神病のようだった。
 つまりこれまでに予想していたことは、見当違いだったと征士は気付く。
 と言うのは、亡くなった博士のノイローゼ傾向から、同様のストレスを伸が受けている可能性を思ったからだ。それで彼に無意識の行動が出るものと考えたが、それは有り得ないと書籍が示していた。
 勿論彼が本格的な病気だとも考えられなかった。精神病と判断される者は、明らかに辻褄の合わない言動を普通にすると言う。本人がそれをおかしい、或いは自分が病気だなどと気付くことはないと言う。征士はこれまでにそうした異常性は感じていない。あくまで常識的な範囲で話をし、又本人が、自己の不安の理由を大体判っているからだ。
 では伸に起こった現象は何だと言うのだろう?。
「あ、こんな所に居たのか」
「ああ…」
 そこまでの答に至った時、丁度征士を探しに来た伸が、所狭しと並ぶ本棚の陰から姿を現した。そして如何にも安心した顔を見せる彼に、ここに居る理由をまず説明しておこうと、
「記憶にない行動とはどういうものか、調べてみようと思ったのだ」
 有りの侭の状況を征士は話した。すると、伸はその発言を拒否する様子もなく、むしろ自ら乗り気な態度で返していた。
「…それは名案だ。そうか、客観的に見ることはできるのか」
 内面にばかり意識が集中していたせいか、伸は症例を探すような行動は思い付かずにいたらしい。言われてみれば、自分の身に起きる現象が、自分だけに起こると思い込んでいたようだ。
 そして、そうと知れば幾分気持も前向きになった。この店の何処かに、自己の不安を解決する鍵が存在するかも知れないと。
「僕も探してみるよ」
 自らそう言った彼を考えても、やはり病気の可能性は薄そうだと征士は思った。又、本人が直接探す方が、明らかに効率が良さそうにも思えた。



 同じ日、小田原署では二回目の調査報告があった。
 秀はギリギリまで鎌倉に居た為、駆け込むようにして捜査本部へとやって来た。今日の報告会は特に重要なものとなる。これで殆どの被害者周辺の人物が明らかになるのだ。

「これより第二回の調査報告、並びに新しく出て来た事実関係について報告を行う。昨日行われた被害者の葬儀については、全ての者が解散するまで、特に問題はなかったことをまず先に伝えておく。
 さて、注目していた柳生一族の様子だが、疑わしい報告が幾つか届いている。即ち被害者の母親と義理の妹の関係、被害者の叔母である山野洋子の話だ。このふたりは元々仲が悪いと親族は口を揃えていた。
 母親は祖国フランスでは、豊かな一族のご令嬢だったそうだが、被害者の父と結婚し日本に帰化した際、フランスの家に於ける財産権を放棄している。事実は放棄ではなく、長兄のピエール氏がそうするよう説得したそうだ。フランスの家族はこの結婚をあまり歓迎しなかったらしく、それを条件に諦めさせようとした結果だと言う。現在両家の間の偏見はなくなっている模様。
 しかしやはり、被害者の母は結婚後も庶民的な生活に馴染めず、華美で贅沢な暮しを続けるのを見て、夫の妹である山野洋子とは、彼女が結婚して家を出るまで口論が絶えなかったと言う。別に暮らすようになっても、何かで会う度に雰囲気が悪かったそうだ。
 被害者の父は、死亡時にはまだ財産贈与を受けていなかった。現在入院中の柳生博士が今も権利を持っている。そしてある時博士は、嫁、妹を飛ばし、孫に全てを相続をさせたいと提案したことがあったそうだ。正式な相続でなくとも、遺言さえ残せば可能なことだ。
 つまり被害者はその発言により、血縁者から羨望の眼差しを向けられることになる。母親の場合は仲の良い実母であることから、娘が相続するなら恩恵を受けられる立場だ。しかし叔母は完全に蚊屋の外である。それ以外の親類は、このふたりより相続に近しい者は居らず、博士のふたりの子供の内のひとりである、自分に分与がないと知れば、山野洋子は面白くないだろう。
 この叔母には強い動機があると見ていい。ある程度条件を満たした人物でもある。大学にパートに来ている為、大学の中の様子は勿論知っている。自宅も比較的近い。そして夫は食用植物の実験農場に勤務し、毒物の入手も可能である。
 但し息子の山野純と言う少年は、被害者を実の姉のように慕っており、自分の母親と被害者に確執はないと話している。双方の身近に居た少年の目からは、被害者と母親は仲が良いと映っていたようだ。自宅でも被害者を悪く言うことはなかったと話している。
 それからこの夫妻は、犯行時刻には自宅に居たと話している。夫が前日の午後十一時頃帰宅した後、ふたり共十二時半に寝たと言う。だが、彼等のその後の行動を証明する者は彼等のみだ。息子は十時には寝てしまっている。無論実行役は夫の山野弘の可能性もあり、どちらにしても有力な候補者であることは間違いない。
 またもうひとり注目されていた被害者の親友、千石迦遊羅についてだが、この人物は大学との関連が深く、これからの調査をより進めて行く必要がある。葬儀の当日の様子は青褪め、酷く疲れた様子だったと報告されている。
 この千石迦遊羅は学長の孫だが、両親は彼女が六才の時に心中に因って死亡している。この件についてはまだ調査中だが、その後学長が彼女を引き取り、以来養女として籍を置いている。つまりこの千石大学は彼女の家のようなものだ。そして附属高校で被害者と知り合い、自他共に認める親しい友人となった。それに異を唱える情報は全く出なかった。双方の家族もふたりについて悪印象は持っていない。
 被害者と同程度に優秀な生徒だったと言う。拠って高校時代のふたりは他の生徒から一目置かれ、むしろ浮き立った存在だったと言われている。大学では医学部に学び、被害者とは違う道を歩みながらも、両者の交流はずっと続いていたらしい。
 現在は病院に正看護婦として勤務しており、そこでの評判も非常に良い。仕事面で悩みを抱えている様子もなかったと言う。何故同大学の附属病院に行かなかったは、甘えになるからと言う理由らしい。己を厳しく律する性格が窺える。但し前の調査にあった通り、被害者がノイローゼに陥った頃から、突然避けられるようになったと話している。その所為か最近は勤務中も沈んだ様子だったと、同病院の医師も話していた。嫌われた現実が相当辛いものだったと推察できる。
 ただ、例え被害者がノイローゼであったとしても、嫌われるには原因があっただろう。千石迦遊羅がそれを知っていたか否かに拠って、状況が大きく変わる可能性がある。注意深く捜査を進めてほしい。

 後の人物については、一昨日の通夜、又は昨日の葬儀に出席していた者から報告する。
 婚約者の朱天童子だが、彼は通夜と葬儀両方に参加していた。半分は家族扱いだったらしく、場合に拠って喪主の側に立っている時もあった。その間悲しみに伏した様子ではあったが、非常に落ち着いていたと報告されている。訪れる慰問客を案内するなど、積極的に働いていたそうだ。
 彼に関してはここに来て、相続の話も絡むと考えられる。つまり彼に対して恨みや羨望を向ける者が居る可能性がある。彼の婚約者が資産家の著名人であると知る者を、これから調査する必要が出て来た。
 ただ朱天童子本人については、周辺の状態は非常に良いことが判って来た。未亡人である被害者の母親には相当頼りにされており、前出の山野純少年の信頼も厚い。更に千石迦遊羅も非常に良い印象を持っており、被害者の良縁を羨ましく思ったそうだ。又職業柄か、怪し気な行動を極力しないよう努めているそうで、大学の学生も彼の人柄を良く知っていることから、殺人の動機はやや弱くなったと見ている。
 その次に、この朱天童子の友人犬山孝だが、彼も通夜と葬儀両方に出席していた。彼の様子は婚約者とは正反対と言っていい、その場に居る間、隠そうともせず延々と泣いていた。葬儀の際に、朱天童子の所に彼がやって来た際、「泣きたいのは私だ」と怒鳴られた程の悲しみようだった。
 婚約者の話では、彼は神か仏のように被害者を崇拝していたそうだ。理由は彼が顔に負った傷が原因、大概の者には初見で敬遠される彼に、婚約者の友人と言うだけで、始めから信用して付き合ってくれたからだと言う。一部の学生にもその話は知られていた。
 又、彼は大学によく顔を出していた為、彼の人間性を知る者は意外に多かった。大方単純明解な性格で、見かけに拠らず子供のような所のある人物、とのことだ。しばしば遊び相手をしてもらったと言う、被害者の従兄弟にも疑われていなかった上、警備員も彼を知る者が多かった。つまり大学内では、悪印象の人物ではないという意味だ。
 但し動機は考えられなくない。婚約者に隠れて被害者と通じていた可能性は否定できず、ふたりの間でトラブルがあったとも考えられる。或いは犬山孝本人の妄想的な犯行も考えられる。彼の住むアパートは大学の目と鼻の先にあり、西校舎が比較的見え易い場所だ。犯行可能な条件はかなり揃えていると言っていい。
 千石迦遊羅の通う千代田区の病院に、犬山孝は九ヶ月前に入院している。その時の担当医が蛇口悌一郎だ。路上の喧嘩か、トラブルに巻き込まれた事件として記録があるが、加害者は逃亡で未解決のままだった。目撃情報では会社員のような男達だったと言う。その事件から顔に傷を負ったが、その他に打撲と骨折等で二ヶ月入院、一ヶ月リハビリをした。巻き込まれたにしては重傷だったらしい。
 その間に犬山孝と蛇口悌一郎は親しくなり、退院後もしばしば会う仲になったそうだ。蛇口は私立大学の医学部卒だが、犬山も過去に私立大学の獣医学部にいた。会った当初から話題の合うところがあり、又、犬山はこの医師には信用を置いていると言う。しかし蛇口には多少怪しい噂があり、ある種の犯罪組織に便宜を計っているのではないかと、病院内で疑われているそうだ。
 その辺りから蛇口悌一郎と犬山孝は、事件に関わるとすれば連携している可能性が高い。だが蛇口に関して動機はあまり感じられない。千石迦遊羅ともトラブルはなく、被害者とも特別な交流はなかった。更に毒物の件を調べたが、トリカブトに含まれるアコニチンなどは、一部の薬の成分として使用されるが、αアマニチンは病院で扱う物ではないとのことだ。
 ただ、今上がった三人は暴力事件、犯罪集団、両親の心中と、何れも事件性のある事柄に関わっている。それと犬山が大学を退学した前後、彼の両親は借金苦から自殺している。それぞれ周囲に怨恨が生まれ易い環境と言えるだろう。過去に起きた事件との関係、そして周辺の事情を詳しく洗い出すことが急がれる。
 次に大学の教職者達だが、大概の者が通夜と葬儀、双方かどちらかに出席していた。
 犯行当時に同校舎に居た一人、山上教授の方だが、通夜葬儀の間は特に妙な印象はなかった。列席していた他の教授達、学長にもきちんと挨拶をし、慎ましく礼儀正しい様子だったと言う。
 事件の後、周囲の親しい人間にしばしば、同校舎に居て気付かなかったことを嘆く内容の、告白めいた話を始めたらしい。その中に、最近になって夜の大学構内に、学生らしき者がうろついているのを見たと言う話がある。警備員からも同様の報告が二、三出ているが、依然この教授の夜間の行動は証明されていない。目撃談については今後詳しく調査する予定だ。
 そしてもうひとりの凍流助教授だが、彼も通夜葬儀共に出席していた。取り乱す様子もなく終始静かだったと言う。ただ過去にトラブルがあったと聞く、被害者の婚約者に対しては、妙に済まなそうな態度で挨拶していた。それが心情的なものなのか、或いは別の理由があるのかは判らない。
 そのトラブルについては報告があった。まだ被害者と婚約する以前に、朱天童子と凍流鬼丸は、釣り船の予約を巡って喧嘩になったことがあるそうだ。結果的には業者がダブルブッキングを謝罪し、見合う対処をしたと言うからそれきりになったが、朱天童子が大学に現れるようになり、顔を見て思い出した程度のことだと言う。業者もその時の様子は憶えていた。故にこれが直接の動機とは考え難い状況だ。
 しかし前出の山上教授と同じく、犯行時刻頃の行動は何も証明されておらず、被害者との関係も明白な事実らしき報告はされていない。今後は助教授の個人的な人間関係に調査を進めてほしい。
 そして、後から注意人物とされた剣舞講師だが、彼は葬儀にだけ出席していた。例の柳生博士とのトラブルは、博士個人との遣り取りだったらしく、喪主親族の者は誰も彼に面識がなかった。その所為か特に不愉快そうな様子もなく、喪主とは至って穏やかに接していたと言う。
 柳生博士が研究の為に買い寄せた骨董品を、剣舞講師が譲ってほしいと持ち掛けたことから、大学の財産を私物化する事の是非を巡り、史学科では知られた論争になったそうだ。柳生博士の言い分は正当なものだったが、剣舞講師の言うことも、収集家の思想としては納得のいく話だったと言う。結局その商談は成立せず、学長の取りなしもあって穏便に済ませたそうだ。その後双方がどう考えていたかは多少の疑問が残る。
 又、事件当日の行動にも更に疑問が出て来た。午前三時半頃に、自家用車で大学を出たと言う話は守衛の確認を得たが、剣舞が自宅に戻ったのは午前六時頃だと妻が話している。大学と自宅は車で二十分程度の距離にあり、本人は明け方の空いている道を暫くドライブして帰った、と話しているそうだ。犯行時刻とは直接重ならない時間帯だが、事後に誰かと接触していた可能性もある。
 その前に、夜間の図書館での行動も不明のままだ。まずはこの新たな情報から探ってほしい。
 それともうひとり、警備員の沙乱坊一。彼は通夜、葬儀共に出席しており、非常に痛々しい様子だったと報告されている。警備員と言う職業でありながら、仲の良かった被害者を事件から守れなかったことに、酷いショックを受けていると他の警備員から伝え聞いた。
 彼の警備状況については、その後各校舎に居残っていた者の話から、かなり正確な時間で巡回していたことが判って来た。拠って彼自身が、直接の加害者である可能性はほぼないと見ていい。但し手引きした可能性は残る為、以降も彼については慎重に扱ってもらいたい。親しい人間には話好きだと言われる人物だ、一部の警備情報が漏れている可能性もある。

 それから学生についてだが、要注意の人物、毛利伸と下街ルナのふたりは姿を現さなかった。共に居場所は突き止めており、以降の調査と報告を待つことになる。だがこのふたりは今のところ泳がせておいていい。事件に関し疑いを掛けられていることを、共に苦にしている様子である為、今の段階では強硬な捜査はしないでおく。周辺の事実関係から固めて行き、容疑が定まって来るまで無理な調査は控えるように。
 唯一葬儀に出席していた真田遼は、その間は特に目に付く行動、気に掛かる発言をすることもなく、被害者の家族や教授陣などとも、比較的落ち着いて応対していたと言う。彼は前途のふたりを気遣って出席したようだが、そのふたりとは連絡が着かないそうだ。つまり事件に関し、彼と同講座を専攻する他のふたりが、共謀した可能性も今は薄いと判断する。
 又、留学生のふたりも出席していたが、これと言って疑わしい行動はなく、ただ不安げな様子をしていた。ほぼ誰とも話さなかったと報告されている。大学から住居が近い、以上の三人に再度聴取を行った結果、事件の前日、乃至犯行時刻頃に、来訪者等はなかったとのことだった。同時刻頃に不信人物を見たと言う話も出なかった。
 そして最後になるが、出席者でなく御仏前、電報の送り主を調べたところ、毛利伸の母親から届いたものがあった。この母親は被害者に面識があることは前に述べた通りだ。直接事件に関わる可能性は薄いが、噂を追って小田原に出て来た経緯など、当時の事情を一応調査したい。
 主立った人物に関する情報は、現在の段階ではこの通りとなっている。疑惑が強まった者、弱まった者も居るが、鑑識結果との関連はまだ全く解明されていない。加えて個人的な犯行と言うより、何らかの集団、又は組織に関わっている可能性が強くなった為、それぞれの人物周辺を特によく調査してもらいたい。以上。今回の報告はこれで終了する」



 二回目の調査報告会を滞りなく終えた後、羽柴が小田原署の集会室を最後に後にすると、廊下には秀が待ち構えたように立っていた。目線が合うと彼は挨拶もなしに、
「組織なんてどっから出て来た?」
 といきなり質問をぶつけて来た。多少不躾な態度を取ろうとも、彼等の間ではこれが日常茶飯事のようだ。羽柴もそれにはただ答えただけだった。
「αアマニチンが、意外に特殊だったからさ。病院には何処でも毒物を置いていると思ったんだが、物によると言われたんでね」
「ふーん…。血清みたいな使い方はできねぇのか」
 それは秀も知らない事実だったらしく、彼は素直に感心して見せる。しかし、
「じゃあ叔父のあいつ、山野弘が有望だな?」
 と、今は最有力候補と思しき名前を出すと、羽柴はそれにやんわり首を振った。そして廊下を小田原署の奥へと、ゆっくり歩きながら話し始めた。
「もしそうだとしたら、他の事例は全く結びついて来ない。この状態では何も断定はできない…。最近起こったとされる事で、個人を怯えさせるような物事は、恐らくほとんどが事件と関わりを持つ筈だからだ。確率論から言えば、バラバラな不審事が一箇所に集中するのは、まずおかしいと考えるものだ。
 例えば、千石迦遊羅は何故嫌われていた?。彼女にはアリバイがあり、実行犯には成り得ないが、犯行依頼者としてはどうだ?。だが、山野夫妻のことはよく知らない様子だと報告があった。
 それから被害者は何を恐れていた?。もし山野夫妻のどちらかがストーカーに扮していたなら、しばしば家を空ける親を、息子が不審に思わない筈はない。山野弘は毎日、午後十時前後に帰宅していたと言う。また妻の洋子は、父である柳生博士と学食の従業員以外に、大学関連で連絡を取り合う者は居ないと言っている。社交的な性格じゃないらしく、よく知る学生は皆被害者を介した者だと言う。
 後はあの学生だ。もし本人の言っていた記憶の欠如が、薬物等で操られたものだとしたら、夫妻にはそんな知識があるだろうか?。植物と人間は同じ学問か?。またそれを何処でどう行う?。妻の方は理科分野を学んだ学歴がない。加え、例の噂話も彼女にはリスクが高過ぎる。もし学食から流れた話だと、あの高潔な学長に聞こえれば必ず解雇され、柳生博士の信用まで貶めることになるだろう。
 …だからだ。条件を全てクリアする者でなければ、犯人以前に容疑者とも言えない」
 羽柴は休憩室の手前に止まると、そこで「うーん」と唸るような声と共に、腕組みをして固まってしまった。因みに休憩室には他の警察官が幾人か居た為、考えに集中できないと判断して止まったらしい。それは秀には都合の良いことだった。
「…ま、今のは『掴み』って奴だ」
 すると、何かを話そうとしている秀に、すぐに反応して羽柴は顔を上げる。今は何でもいいから、新しい情報をひとつでも欲しい時だった。そんな相手の態度を見て、秀は対照的に生き生きと話し始めた。
「今日鎌倉に行って来たけどな、下街ルナのアリバイは取れたぜ。バイト先の女友達がやっと捕まってよ、当日はバイト先からそいつの家に直行、午前四時半頃まで居たと言ってる。他の友達ふたりも同じ内容の話だった。一応確認しに茅ヶ崎にも行ったが、当日の午前五時半頃、新聞配達の男が彼女を見ていた。よくその時間に歩いてるのを見るってさ。多分いつも鎌倉の始発で帰るんだろうな。今は自宅に戻ってる筈だ。…と、以上で下街ルナの報告は終わりっ」
 彼女の場合は実行犯以外の可能性は薄い。これでほぼ疑いは消えたと言える。
「成程。それで、他には?」
 秀の口振りでは、まだ他の話があると推して然りだった。
「んー、それでだな…」
 しかし彼はそこから、言葉を選ぶような慎重な様子に変わる。
「さっき大学近くに住む学生の、『犯行時刻前後に不審者は見てない』って話があったろ。確かに付近の聞き込みでは、その時間帯に不審者を見たって話はねぇんだが、深夜の住宅地じゃそんなもんだよな?」
「ああ…」
 羽柴には彼が話そうとしていることがまだ見えて来ない。
「それで前の報告の、警備員が門の外に見た会社員風の男はどうなった?」
「あれは一応保留にしておいた筈だが」
 すると秀は漸く何かを合図するように、口端だけでニヤと笑って見せた。
「これは単なる俺の考えだけどよ?、普通住宅地でこういう聞き込みをすると、例えば『主人はいつも七時に家を出ます』とか、『昨日は出張で早く出ました』とか色んな話が出るよな。大学から小田原駅までは徒歩約十分、徒歩二十分圏内に住む奴は歩いて駅に行くとして、午前四時頃大学近くを歩いてたなら、三時五十分から四時に家を出た奴だろう。
 だが、それをきちっと見送る家族はそう居ねぇよな。寝起きだったら三時だか四時だか、正確に憶えてるとも限らねぇ。だから大概の奴は、明け方と言って思い当たる事は、何でもしゃべっておこうとする。なのに、その頃に家を出て駅に行ったって話は一向に出ない。何でだ?と思ったら…」
 彼がそこまで話してしまうと、流石に羽柴にも想像できる市民行動があった。
「時刻表か?」
「そうだ。小田原の普通電車の始発は四時五十六分なんだ。大学の辺りを四時に歩いてたら、駅には四十五分も前に着いちまう。最低でも四時をかなり回ってねぇと、電車が動いてないってみんな知ってんだ」
 会社員風の男と聞き、住宅街では気にならないものと思えたが、酔った風でもない人間が、秀の言う「始発を長く待つ」時間に歩いているのは、今思えばかなり不自然かも知れない。都内のように終日営業をしている飲食店も、この町には僅かしか存在しない。そう言えば凍流助教授も、犬山孝を訪ねた編集者も五時頃まで始発を待っていた。
「それにまだある」
 と、秀は考えている途中の羽柴に言った。
「留学生の田裏木ムカラが言ってたんだが、昼夜を問わず大学近辺の家にゃ、しょっ中何かのセールスが来るらしい。女子寮の方は管理人が居て、そういう手合いには接触しねぇようだが、あいつは普通の学生アパートにいるだろ?。不審者じゃなくても、言葉がまだ不自由だから困ってるんだと。確かに付近の家では、ポストなんかに大量にチラシが入るらしい。そんな訳で、会社員風情は多く徘徊してるらしいんだよな」
 セールスマンと言えば…。
 無論あの男を思い出さずには居られない。事件に関係があろうとなかろうと、羽柴の頭に真っ先に描かれたのはあの、秀を尋ねて署にやって来た妙な先輩の面影だった。確か名刺を貰った…、と、彼は背広のポケットをあちこち探し、見事それらしき紙片を探り当てていた。

『耀者会ぜみな?るの一年集中ピンポイント学習
 耀者会ゼミナール 本社営業二課 中学生担当 蜘蛛谷 忍
 東京都品川区旗の台…』

 との内容がそれに記されていた。彼は暫くその小さな紙片を食い入るように眺めていたが、何かを思いふと笑うと、胸の内ポケットから封筒を取り出して言った。
「それじゃあ、明日こいつはおまえが行って来い」
 秀は渡された封筒を受け取ると、中に往復の航空券が入っているのを確認する。
「いいのかぁ?、俺しっかり観光して帰るからな?」
「源氏巻でも買って来いよ」
 自分が行くつもりだった宇部空港への切符を、羽柴が譲ったのは無論、秀の事情を考えてのことだった。ほんの一端ではあるが、秀はこの事件に関わる者の一人だ。そして今またもうひとり、疑惑に繋がりそうな人間を見付けてしまった。
 例えどんな阿呆でも変態でも彼の先輩には違いない。やり難い捜査からは外してやろう、そう思って、
「んじゃ行って来まーす!」
 と、もう駆け足になって帰って行く秀を、羽柴は無言で見送っていた。



つづく





コメント)しつこいようですが、2ページ分の時間で4ページ書きました…。っていうか、文学的小説と推理小説じゃ、書くペースも変わって来るもんですね。だから推理作家ってあんなにいっぱい本が出るんだ、と自分で書いて納得しました(笑)。ここで丁度「前半終了」ってトコです。お疲れ様でした…。



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