ファラオの兄弟
ナイルと緑の芦辺
#1
The River Flow



 我々はナイルより生まれ、ナイルにより育まれた。
 ヌンの海より滔々と流れ続けるナイルの水は、脈々と王家に流れる血でもある。
 故に我々はその流れのまま、行き着く先を見ているしかなかった。



 エジプトはナイルの賜物。
 ギリシャの歴史家ヘロドトスの有名な言葉は、今から数百年ほど後に世に知られることとなるが、三千年の永きに渡り、エジプト王朝とそこに集う民衆の心に、常に存在していた意識でもある。
 夏の雨期の到来と共に水嵩が増し、秋には度々氾濫を起こすこともあるナイル川。しかしその水が引いた跡には、肥沃なシルトの干潟が流域いっぱいに広がり、豊かな実りを齎す耕作地となってくれる。それこそがエジプトの富の源であり最大の財産だ。王家の者も民草も皆が共有できる財産だと、誰もが深く考えることなく知っている。
 その土地の営みを明るく照らし、作物の実りを促してくれる太陽。即ちアメン・ラーへの感謝の意は、今も昔も変わらぬエジプトの良心だ。変わらぬ太陽と変わらぬナイルの流れと共に、エジプトも変わらぬ王国として続いている。けれど人の世がうつろう度、神々が遠く感じられるようになったのは何故だろう。太陽もナイルも在り続けるこの世界に、ラーの息子たる王族もまだ存在し続けてはいるけれど…。

「沿岸警備の状況はどうなっているのだろう」
 玉座に座るファラオが、この王朝を陰で支える司祭の長、カオスにそう尋ねると、本来は軍隊長が伝えるべきところを、彼はよく心得た様子で答えた。
「今は問題はないようです」
「カデシ・バルネアの防衛線の方はどうか」
「そちらも特に変化はないようです。シナイ山の観測地からも何も連絡はありませぬ」
「そうか…」
 物憂い様子の若きファラオは溜息を吐く。意思と生気に満ちた漆黒の瞳、黒々として艶のある髪と均整の取れた体格、現ファラオの即位式にはその雄々しい姿が、人々の未来への希望として映ったことだろう。しかしいつとて広大なエジプトを治めることは、優れたファラオであっても悩ましいもの。まして今は南北に国を二分した状態で、若き王は常に悩み続けていた。
 歴代のファラオは五つの名を持つ。黄金のホルス名は、先代から引き継がれた隠された神の名。二女神名と言う名も、神話の神の庇護を受ける為の隠された名だ。即位名は公表されているが、表記される時以外は使われていない。拠って通常呼ばれることのある名はふたつ。ファラオの名として広く知られるホルス名、サアメン王と名乗っている彼は、親族らには親しみを込め、誕生名でリョウと呼ばれていた。
 今現在、エジプト王朝の都はナイルデルタの東、タニスと言う町にある。ナイル川の下流域を下エジプトと言い、王朝が興った古の時代の、メンフィス、ギザ、サッカラなどの土地が含まれる。しかし、近世の王朝の栄光は上エジプトにあり、そのナイル川上流域には、テーベを中心に大神殿や葬祭殿、代々の王墓群も存在し、より重要な場所が含まれる土地だ。
 王朝の始祖たる伝説のナルメル王は、初めてその上下エジプトを統一したと伝えられている。ナイル流域全てを掌握してこそ、王朝の力と権威が最大に発揮される。だが残念ながら現王朝は、上エジプトを王家以外の集団に空け渡した状態だった。何故そうなったのかは無論理由がある。その幾つかの理由の為に、ファラオは日々物思いに明け暮れているのだ。
「アマルナで少々いざこざが起こっているようですが」
 司祭のカオスがそこで、上下エジプトの境にある町を話題にした。それを聞くとファラオは直ちに、
「また神官団が何か言って来たか?」
 と聞き返した。そう、現在上エジプトは大司祭国と呼ばれ、神官達がアメン・ラー信仰の威力を揮うひとつの国となっている。過去から神官団の王朝への影響は大きいが、こうして別の国となったのは歴史上初めてのことだ。故に、同じアメン・ラーを信仰する王家、仮にもその歴代の王を讃える場所を管理する、相手国との付き合い方は難しく、その状態が既に八十年ほど続いている。
 カオスは、ファラオがこの件に酷く敏感になっていると知り、自身が知り得る限りの子細を話した。
「詳しくはわかりませぬが、アメン・ラーへの供物と神殿の整備費用を要求していると」
「祭礼費用などは、今年の分はもう献上しただろうに」
「はい。それが今年は特別な祭を行うと言って、追加を要求して来たそうです。それがほぼ一年分の国費に相当するものらしく、アマルナに派遣したトウマが神官団に抗議したところ、双方の兵が不穏な空気になったようで」
 そこまでの報告を聞くと、ファラオは苦虫を噛み潰すように吐き捨てた。
「大司祭め…、図々しいにも程がある、王家をどれ程食い物にするつもりか」
 彼の言う通り、本来神官は王家を支える存在だった。王家とその民の繁栄と心の安寧を担う存在だった。しかし今となっては、こうして何かと財を無心するばかりか、過去の偉大なファラオ達が築いた神殿も、自分らの権威の喧伝にしている始末だ。王家に取っては強請り、集り、泥棒にも感じられて然りだった。
「こちらの持ち出しで、大司祭国の権威を振り翳そうと言うのですから、向こうも逼迫している様子は窺えます。ナイル上流のドゥンクラの辺りまで、ヌビア人が北上して来ているとも聞きます。まだ交戦があったとは聞きませぬが」
 とカオスが続けると、ファラオはまたもうひとつの悩みを含め答えた。
「ああ、我々とて窮するは同じだ。ナイルの豊かさを我が物にしようと、次々他国の軍勢が押し寄せて来る。またいつ海の民が押し寄せて来るとも限らぬ」
 つまりこの時代、エジプトの力が衰えて来た背景には、国が分裂した事の他に、他国からの侵略に常に晒されていた事情があった。
 近世に入り最も苦しめられているのが、「海の民」と呼ばれる地中海の集団だ。彼等はギリシャの島々に住む地中海人だが、天候などの影響で飢餓に苦しみ、ある頃から豊かさを求めエジプトに渡って来た。当初はただの移民だったが、いつしかそれが大集団となり暴徒化し、国の脅威となって行った。実際前王朝は、海の民とそれに加勢したリビア人によって疲弊し、崩壊した。
 その為、地中海沿岸は常に軍を配備し、パレスチナに接するカデシ・バルネアにも常に軍を駐留させ、リビア国境にも常に兵を送っている。下エジプトはそのように、三方から攻撃される地理的悩みを抱えているが、比較的安全な上エジプトも、今は更に上流に住むヌビア人の存在が、無視できなくなっている状況だった。彼等はそこにクシュ族の国を建国しようとしていた。
「多大な防衛費のお陰で、今は属州を細かく管理することもままならぬ。最低限、民の暮らしを守ることはファラオの義務だと思うが、その上神官達の面倒まで見る余裕はない」
 ファラオがエジプトの現状をそう嘆くと、カオスもまた、上下エジプトの憂いをあるがままに話した。
「今はアメン・ラーへの信仰も活気を失いつつあります。お布施や寄進も減る一方ですから、我々の援助が無ければ大司祭国は、もう成り立たなくなっていることでしょう」
「頭の痛い問題だ…。テーベには我が家族、歴代ファラオの墳墓群がある。偉大なラメセス二世王の神殿もある。その為に大司祭国には配慮しているが、我が王朝の足枷となられても困る」
 同じ司祭であるカオスは、大司祭国の主張も理解できなくない立場だった。実際人々の信仰心が薄れた為に、エジプトの神秘的な力も色褪せたと肌で感じている。しかしアメン・ラー信仰が盛り上がる為には、その申し子であるファラオとエジプト王朝が、その力を世界に知らしめなければならない。順序として王朝の復興が優先されると、彼は判っていて王朝側に着いている。
 但し、その考えにはジレンマが含まれることも、彼はファラオに包み隠さず伝えた。この王朝を支える基本的指針として、あらゆる共通理解が必要だと彼は思っているのだろう。
「ラメセス二世王の功績は確かに素晴しい。しかし多くの戦果を挙げ、世にエジプトの名を轟かせたことが、却って敵を作ることになったとも言えます」
「その前にも、アメンヘテプ一世王や、トトメス三世王も多大な戦果を挙げているだろう?」
「その積み重ねと言うことですよ、王」
 カオスはそして、代々のファラオが行って来た事と、その影響についてこう話した。
「ギザの大ピラミッド時代のファラオは、エジプトを支配するだけで充分豊かで満足でしたが。エジプトに人が増えて行く度、人々の為に富を拡張して行く必要が出て来た。王朝が進む度その度合も増し、大軍が編成され遠征を繰り返し、他民族の土地を併合して行くしかなくなったのです。併合と言えば聞こえは良いですが、他国から見れば侵略と言えることです」
 図体が大きくなれば、それだけ食物を多く必要とするものになる。最早ナイルの恵みだけでは足りず、エジプトは周囲のあらゆる地域から、富を吸い上げることになってしまった。と言う話だ。
「エジプトは、巨大になり過ぎたと言うのか?」
 ファラオが尋ねると、カオスは歴史だけではない、現在の世界の有り様もまた一因であると、正しい知識を持って説き聞かせた。
「そうですね、巨体となると細かに目が行き届かぬ面もあります。国内外が様々な変化をしていることに、過去のファラオはどれだけ気付いていたでしょう。このナイル流域にはアメン・ラーより齎された、優れた知恵と富が存在し、太古のエジプトは何処よりも進んだ王朝でした。しかし現在は周辺諸国にも、優れた知恵や技術が存在しています。我々はとうに追い付かれてしまったのですよ」
 それは、ともすれば王家を侮辱する発言と取られる内容だったが、ファラオは現王朝を共に支える同志として、信頼厚き司祭の言葉にはいつも素直に納得した。否、事実エジプトは教育熱心な王国であり、過去から伝わる知恵をパピルスに記すことで、更に後世にも伝えよとの習しがあったからだ。ファラオ自身も即位前までは、伝説や格言、リンド数学などを学び、それが千年も前から伝わる知識だと知っていた。
 確かにエジプトには抜きん出た知恵があった。そしてそれを広めることで、民もまた豊かに暮らせるようになった。ただその知恵と言う形の無い物は、国の中だけに隠しておくことができない。何れ人を介して外にも伝播して行くだろう。
「エジプトから学んだ者が、エジプトに反旗を翻すのか」
 ファラオがその流れを遣る瀬なく言うと、
「それはもう仕方のないことです、近隣の集団は多くの影響を受けており、過去のエジプトのやり方を真似ようともします。また我々とは違うアッシリアの者達などが、歴史を重ね力を付けて来たのも確かです。我々が多くの進歩をしたように、他国の人々も進歩すると言うことです」
 カオスはそんな話も付け加えた。アッシリアはメソポタミア北部の、アッシュールに生まれた集団だが、近年強大な武力を持ち、人の数も増え、いよいよ新アッシリア帝国を築こうと息巻いている。嘗て、メソポタミア南部のバビロニアが大国として君臨していたが、その頃エジプトは混乱期にあり、内政で手一杯だった為あまり国家間の交流は無かった。しかし今も昔もその地には、多くの人が暮らしているとは判っていた。
 エジプトにナイルの恵みがあるように、メソポタミアにもそれを支える大河がある。大河の民族は皆、何らかの共通した進歩を遂げるのかも知れない。アメン・ラーは居なくとも、彼等には彼等を助ける神が存在するのだろう。解る話だと、ファラオはもう一度溜息を吐いた。我々がラーの息子ならば、他の神の息子たる民族も存在する筈だと、今は常識的に考えられた。
 古代のファラオ達の幸せなことよ。普く世界はラーの国であり、ラーの息子たるファラオはいずれ世界の王となると、疑うことなく信じていただろう。それだけエジプトと周辺地域には格差があったのだ。だが今はもう、そんな妄信に縋っていられる時代ではない。
 何をどうしたら、エジプトは以前の栄光と平和を取り戻せるだろうか?。
「我々は、アメン・ラーの庇護の元に生き続けて来た。何も悪い事はしていないつもりだ…」
 ファラオは言う。「良き行いによりおまえの下の民を栄えさせよ」と、ファラオの治世について語り継がれた言葉がある。サアメン王もそれまでのファラオ達も、皆それに従いエジプトを治めて来た。それにより長く栄える都だったことは間違いない。
「無論全てはアメン・ラーの望むままに」
 と、カオスも纏めた通り、アメン・ラーが正しき人の道を示されたからこそ、エジプトの幸福は長く続いたのだろう。少なくとも王朝の存在自体が悪であったことはない、と考えられるのが、今の王朝にはささやかな慰めだった。正統な系譜のファラオが背信しているとすれば、この混迷の時代に何を持って、民に威厳を示すことができようか。アメン・ラー信仰の中枢も大司祭国に渡ってしまった今。
 ファラオは改めて意を強くした。より良き王とならねばならぬと。
 エジプトだけでなくそれを目指して来る者にも、誠意と言うものが伝わらなくては。
 その為には、何らかの政治的手段が必要なのだろうが…

 ファラオは席を立ち、ひとり考え事をしに出掛ける様子だった。彼は王宮の中庭を愛し、物思いしながらそこを散歩するのがほぼ日課となっていた。そこで飼われている虎と言う肉食獣は、バルチスタンの方からやって来た、東洋人の集団の献上品だったが、今はファラオにとても懐いている。式典の際など、稀に王宮の外を並んで歩く様を見ると、エジプトの民は古のファラオとスフィンクスのようだと喜んだ。
 偶然にも良いイメージを民に与えていることを、何か治世にも生かせないだろうか、ともファラオは常に考えている。その物言わぬ獣の、哲学的な表情にはいつも考えさせるものがあった。信仰は人の心を束ねるが、獣達は神の存在など知らずに生きている。生物が安心して暮らす為に必要なのは、神殿や神々の像ではなく、その地が豊かで平和であることだと。
 アメン・ラーを讃える前にまず国だ、と、玉座の広間を出掛けにファラオは、
「トウマは上手く話をまとめられるだろうか?」
 そうカオスに声を掛けた。アマルナに派遣されている、トウマと言う若い役人はこのカオスの息子なのだ。ファラオは今年で二十六になるが、トウマはまだ二十二才で駆け出しもいいところだった。優れた人物だと知ってはいるが、老獪も最たる神官団と、上手く渡り合えるかは甚だ疑問だ。それを心配するファラオを見てカオスは、
「倅はまだ若い、何か問題があれば私がアマルナに出向きましょう」
 と伝えた。王朝の司祭長であるカオスが行ってくれるなら、この件は最悪の事にはならないだろうと、ファラオも穏やかに頷いて見せた。

 王宮の麗らかな午後。エジプトを照らす昼間の光はあまりに強く、まだ小一時間ほどの間は、誰も外には出掛けない時間だった。石造りの建造物はその光と熱を遮断し、涼しいのは良いが、奥まった部屋などは暗闇になってしまうのが難点だ。殊に王宮の広い建物の中では、昼でもランプが必要な場所もあった。
 その中で、ファラオが特に気に入っている部屋がある。宿泊する来客を最初に通す広間だが、そこにはスカラベを象った天窓があり、昼間は丁度良い具合の採光があった。スカラベはラーの化身、その形が光となって降り注ぐこの部屋は、来客の無い時には王族の憩いの場となっていた。丁度中庭へ行く途中で通過する部屋の為、ファラオはここで一息吐くことも多かった。
 彼がそこを訪れると、その時既に先客が居り、天窓を囲むように配置されたベンチにふたつの影が見えた。そして影はすぐファラオに気付き、立ち上がると静々と近付きながら言った。
「今日も、難しい顔をなさっておいでですね?」
「ああ…」
 その鈴の鳴るような声を聞くと、気を許せる相手と知ったファラオの表情が、徐々に穏やかになるのを相手も見ていた。先客はカユラ王妃と侍女のナスティだった。ふたりはここにファラオが通り掛かると知っていて、いつからか待っていたようだ。
 後の世の各地に多数の王家が誕生し、政略結婚が盛んに行われる時代となるが、そんな形の夫婦にはここまでの信用は生まれまい。ファラオとカユラは正に鉄の絆で結ばれた、最も心を開ける相手同士だった。何故ならふたりは血を分けた兄妹であり、王と王妃である前に王家の家族だった。
 別段エジプト王家では珍しい事でもなく、血族結婚が揺るぎない結束を生む意味では、一概に悪い風習とも言えない。寧ろ結果的に富の分散を防ぐことにもなった為、古代に於いては合理的な行いとも言える。
 その、同じ血の流れる妻はファラオの前に来ると、
「最近お顔の色が優れないので心配しています。…アッシリアですか?」
 と、彼の頬に右手を添えながら言った。ひとりの女性として深い気遣いがあり、周囲を取り巻く情勢にも理解を示す優れた妻は、他の誰より心強いファラオの味方だった。アッシリアの現在については、先程カオスと話していた通りだが、ファラオは妻を安心させるよう、注意を払いながらこう話した。
「いや、今は北からの軍勢は来ていないようだ。当面戦争になることはないだろう。目下の問題は別の話で、大司祭国がまた色々要求して来ていることだ」
 か弱い女子供に取って、戦争は何より嫌な出来事だ。遠征地で戦うにせよ、誰かが傷付き亡くなる知らせを聞くのは辛い。それ以上に近隣での戦争は恐怖だろう。なのでファラオはその点を、努めて穏やかであると伝えた。するとカユラはそれを聞き、ふと思い出したような顔をして言った。
「ああ…そう言えば…、私にも直々に、カルナク神殿の増築費用を寄付せよと便りがありました」
 またそれを聞くと、ファラオはより注意深く妻の言葉に耳を傾けた。
「あなたはどうお考えになりますか?、神殿の増築とはそれほど必要な事でしょうか?」
「…アメン・ラーの威光を示す為なのだろうが…」
「エジプトの民が餓えに苦しんでもですか?」
 カユラの口調は優しかったが、そう言われるとファラオは思わず声高になり、
「無論そんなことは思わぬ!。王朝の生命線は民の働きだ。民の生活を蔑ろにすることは絶対にあってはならぬ。それこそエジプトの命運が尽きる最大の…」
 そこまで、迸るように口から言葉が流れ出たところで、ファラオは自省を覚ったかのように黙った。決して妻を攻撃した訳ではなく、妻もそうは受け取らなかったが、女性達の前で無闇に声を強めてしまったことを、己の我慢が足りないと感じたのだろう。殊に真面目な性格の彼らしいことだった。
 ただそんな様子を見るとカユラは、日々心に溜め込まれるエジプトの悩みが、彼を内から責めているのだと悲しんだ。為政者には常に悩みが付き物だが、現王朝を取り巻く環境はとりわけ難しいと彼女も知っている。そして、痛々しくさえ映るファラオがそれでも、
「…済まない、カユラ。妻に政治のことなど考えさせる世では情けない」
 と、自分には格別の優しさを向けてくれる様を知り、カユラはより一層、兄であり夫であり、王家の象徴でもあるファラオを愛せた。
「そんな…、あなたはファラオとしてとても誠実に働いていると思います」
「そう見えているなら幸いだ」
 こうして日常のほんの僅かな触れ合いの中でも、王家の固い繋がりは育まれて行く。少なくとも王と王妃の間では、何の疑いも不和も生じない、素晴しく良好な世界が完成していた。苦悩の時代の中の小さなオアシスとも言える、それは王朝の密かな幸福であった。

 ところで、カユラと侍女がこの部屋で、ファラオを待っていた理由が次に語られた。
「今日は良い知らせが届きましたのよ、セイジが漸く妻を迎えることになったのです」
 セイジとは、ファラオと妻の更に下の弟だ。前ファラオの大オソルコン王と王妃の間に、現王朝の直系の子供は三人おり、一番下のセイジは二十一才になる。この時代男子と言えども、王族が二十才を超えて結婚するのはかなり遅い。それは彼に続けて起こった不幸が原因だった。
「そうか、王母様が説得されたか」
 と、ファラオもこの話題には明るい声で答えていた。彼も弟の身の不幸については、常に案じる気持があったので正に朗報だった。
「はい、私達の妹でも、このナスティの妹でもあるシンです」
 その娘はカユラの言うように、直系ではない腹違いの妹である。侍女のナスティはファラオ兄弟の従兄弟であり、亡きオソルコン王の弟の娘だが、ナスティともうひとりの妹が十才に満たない頃、父はアマルナへ向かう途中落馬で急死した。しかしその前に弟の妻と、オソルコン王の間にもうひとり娘が産まれていた。不義の子である為、あまり待遇には恵まれなかったが、それがファラオの妹でも、ナスティの妹でもある背景だ。
 そして王家の血の濃さで言えば、その妹はファラオの兄弟以上だった。何故なら兄弟達を産んだ大王母は、オソルコン王の父アメンエムオペト王の、正妻の子ではなく侍女の娘で、王族ではないエジプト豪族の出身だった。無論豪族達にも王家の血は流れているが、直系の血筋からは少し離れた立場だった。
 しかしこの度取り上げられたシンと言う娘は、アメンエムオペト王のふたりの妹の内、下の妹の孫であり、且つ直系のオソルコン王の娘である。オソルコン王はアメンエムオペト王の上の妹との間の子。つまり、直系の三兄妹全てを祖父・祖母に持ち、父は前ファラオと言う複雑な血筋を持っていた。
 話として聞けば面倒な家族状況だが、一族として血の近い者が、新たな家族として入って来ることには、王家は寧ろ安泰の希望を持って歓迎する。前途の通り血族であるからこそ、この王家と王朝を維持する意思を、強く分かち合えると伝統的に考えるからだ。
 ただ、結果的にそうなったものの、弟の結婚までの道程は哀れ極まるものだった。
「セイジの許嫁はオシリス神に取られるなどと、変な噂にならなければ、もっと早く相手が見付かりましたでしょうに。可哀想なことです」
 と、今更ながらカユラが零すのも、弟の気持を思い計ってのことだった。オシリス神とは冥界の神であり、来世へ旅立つ死者の裁きをすると言う。悪い神ではないが、現世に生きる内から親しくしたくはない存在だ。その化身であるかのように嫌われた弟は、さぞ傷付いていただろうとカユラは心を痛める。
 セイジには過去に三人の許嫁があった。彼が四才になる頃に決まった最初の許嫁は、同じ年の従兄弟だったが、元々あまり体が丈夫でなく、病により十二才で亡くなった。一度父であるオソルコン王と共にその家を訪れ、対面した少女の優しく落ち着いた様子を彼は、気に入っていただけに大変なショックを受けた。
 そのすぐ後、急遽別の従兄弟と婚約することになったが、数年後セイジが十六、相手が十四、そろそろ具体的に準備しようと言う頃、流行病にかかった相手が呆気無く死んでしまった。王家の男子としてはもう妻を持つべき時期である、急いで探して来た母方の豪族の娘と新たに婚約を結んだ。が、三才年下のその娘も、一年が経過する前に事故死してしまう。遊興中に階段から落ちたのだ。
 勿論どの場合もセイジに罪は無い。だが三度許嫁が死んだ事実は、娘を持つ親からすれば、関わりたくない死の王子とレッテルを貼りたくもなる。いつしか「オシリス神の使い」と囁かれるようになり、この四年全く嫁の来手がなかった。偶然とは言え酷い話である。
「神々が王家に悪さするなど…」
 ファラオもそんな周囲の人々の、心ない揶揄を悲しんでいたが、その時ふと大司祭国のイメージが頭に浮かび、
「それも、アメン・ラーへの信仰心が薄れて来たせいだろうか」
 と彼は続けた。もし本当にオシリス神が弟を困らせているなら、オシリスとは酷い邪神ではないか。神と言うより悪霊ではないか。神聖な冥界の神の活動を曲解し、悪い例えに使う社会の流れは、それだけ神話が軽んじられている現実だと思った。このように神々への畏敬を忘れた世の中では、アメン・ラーを担いだ大司祭国も、力を維持できない訳だと妙に納得できた。するとそんなファラオに、
「そうかも、知れませんね。弟は決して悪い人間ではないのですから」
 妻も頷きながら心を寄せていた。王族の中でも直系の家族であり、エジプトの他の誰よりアメン・ラーとの関わりが深い、このファラオの兄弟を神々が、忌むべき者へと導かれる筈がない。変わったのは神ではない、神を信じられなくなった人々の心だと、彼女は心の内で泣いていた。
 神話は忘れられ、王朝は滅びても、エジプトの地に育った聡き魂が失われないよう願う。せめて現王朝が続く限りは、これ以上の心の退廃が進まぬことを祈るばかりだ。
「これでセイジの心が穏やかになるといいのだが」
 気遣うようにファラオが妻の肩を抱き、そう話すと、妻はそれも含めた王家の未来を、真摯な眼差しと共にファラオに返した。
「今、一族にファラオとなられる方は、あなたとセイジしか居りませぬ。伝説のナルメル王の血を引く正統な王家が、エジプトを牽引し続けられるよう、これを良き縁と変えて行かなくては」
「そうだな…」
 優れた妻の、思慮深く前向きな考えを聞くと、まるで妻こそがエジプトの心のように感じられ、ファラオには暖かい励ましとなった。どうにか明日も、明後日も、この混迷するエジプトに最善を尽くし、正しきファラオの道を歩んで行こうと、希望の光が彼の目の上に灯るようだった。
 その光を追い続けていれば、辿った道は恐らく理想的なものとなっているだろう…。
 ファラオの視線が、在らぬ遠くを見据えている時は、治世に於ける意欲的な気分に支配されている時だ。今間近にそれを覚った妻は、スッと空気のように身を引き、ファラオの邪魔にならぬようこう告げた。
「お疲れのようですから、私は部屋へ下がります。参りましょうナスティ」
「はい、王妃様」
 そして王妃と侍女は、ファラオの視界から姿を消そうとしたのだが。

 ふたりが天窓の真下に差し掛かった時、はっとしたようにカユラが言った。
「私、忘れておりました。セイジの最初の許嫁は、あなたのもうひとりの妹君でしたね?。嫌な事を思い出させてしまいましたか?」
 それは、ファラオのことばかり考えており、大事な従兄弟に対する配慮を忘れていたと、カユラ自らの申し開きだったが、常に傍近くに暮らし、年も同じふたりだけに、最早そんな細かな心配は必要ないと、ナスティは穏やかに答えた。
「いいえ、もう随分前の事ですし、妹は幼い頃から体の弱い子でしたから」
 妹が病死した時ナスティは十四才で、カユラはその年ファラオの妻となり、翌年ナスティも母方の従兄弟と結婚した。彼女には女子がひとり産まれたが、一才上の夫は交渉の為リビア国境へ派遣された折、寝首を掻かれ十九でこの世を去った。それがとても辛い出来事だった為、心身に異常を来していた彼女を、カユラと大王母の計らいで侍女に取り立てた。その後は王宮で落ち着いた暮らしをしているようだ。
 尚、オソルコン王の弟の娘ふたりの内、妹がセイジの許嫁となったのは単に年令に拠る。年上の妻を持つことも無論あるが、ナスティには別の許嫁が先に決まっていた。従って彼女は良い血筋でありながら、セイジの妻にも現ファラオの妻にもなれなかった。同じ年のカユラの方がより濃い血を持つからだ。
 ただ、彼女は政治的野心があった訳でもなく、酷く聡明な娘だった為、それについて落胆するようなことはなかった。寧ろ子供の頃から交流のあったカユラが、王妃として苦労することを案じ、侍女となる前も度々面会に訪れたほどだった。なのでファラオと王妃からの信頼も厚く、今は心強い王宮の一員である。
 その意を込め、離れていたファラオがわざわざ彼女に声を掛ける。
「皆、我々の大事な従兄弟だと言うのに、残念ながら妹君には生きている内に会えなかった。人の体の死は、人にはどうにもできぬものだが、せめてアメン・ラーの国では、健やかにされているといいのだが」
 それに対しナスティも、ファラオの気遣いに感謝の意を込めて返した。
「そうして皆様に思い出していただけるだけで、早く旅立った妹も喜ぶでしょう」
「そうであることを願っている。アメン・ラーの御加護があるように」
「ありがとうございます、サアメン王様」
 ナスティが深く膝を折りお礼を示すと、それで王妃と侍女は心残り無く下がって行った。
 否、心残りは常にあった。それは何故娘を置いて来てまで、王宮の侍女に取り立てられたかと言うことだ。現王朝に於いて、直系のファラオとその男兄弟には、必ず正妻の他に侍女が付く。当然子孫を多く残す為であり、それ故良い血筋の娘が選ばれて来た。その形式には特に誰も疑問を抱かず、自然に受け入れられて来たので、ナスティも自覚を持って王宮へやって来たのだ。
 しかし、そのしきたりに疑問を持つ者が居た。現ファラオだ。
 家族としての、或いは一族としてのファラオはとても愛情深く、国の長には相応しい頼れる人物である。けれど彼は非常に純粋な性愛観を持ち、妻以外の女性に触れることはなく、侍女も常にひとりしか置かせなかった。その唯一の侍女ナスティとしては、王妃と大王母の期待する所に、応えたい気持は大いにあるのだが、ファラオ自身がそれではどうにもならなかった。
 ファラオとカユラが婚礼の儀を行って九年。ふたりには未だ子供が無い。過去に二度流産しているが、次代を支える王族をなかなか輩出できないことは、特に大王母に取って重くのし掛かる悩みだった。王家の血を絶やさぬようにと、夫であったオソルコン王に度々聞かされて来た。その上弟のセイジは、妻となる人物を見付けることさえ難儀したからだ。
 果たしてこの後、王家は待望の跡継ぎの誕生を見られるだろうか。今はそれぞれの思惑が空回りするばかりで、何ら結果を見ない状況だった。

 健やかな子孫が産まれ難い。それは血の濃さ故のことだと、この頃の人々は恐らく知らなかっただろう。けれど多産でなくとも、それで王家は続いて来たので、ただ運が悪いとしか考えなかったかも知れない。この豊かなナイルに守られたエジプトの地では。



 その頃、シナイ山の東のペトラに仮の住まいを築き、パレスチナの様子を見ながら暮らしていたセイジは、側近である神官のアヌビスから思わぬ話を聞き、大変驚いて、手にワインの杯があることも忘れ怒鳴ったので、その赤い液体を床に零してしまった。
「何だって!?、私がいつ承諾した?」
 相手がそんなに驚くとは思っていなかった、神官は一瞬怯んだが、まあそんな事情も想像できなくなったので、彼はすぐに平常の態度に戻り話を続けた。
「何だと言われましても、私はそうお聞きしただけです」
「誰から?」
「あなたのお母上から」
「・・・・・・・・」
 セイジは、否、例えファラオであろうとも、大王母の指示する事は決して無視できない。ファラオの兄弟の母親は、政治に介入したがる野心家でもなく、虚栄心の強い浪費家でもなく、堅実で熱心に現実と向き合う女性だった。そして一族の、王家の存続を常に考え手を尽くす人だった。誰よりエジプト王家を理解している人かも知れない。それだけに各家系からの信用厚く、裏から一族の心を束ねる王族の母と言える存在だ。
 そんな大王母であるから、その人の話すことは勿論間違いはない。アヌビスは自分が耳にして来た事に、何も疑う余地は無いと思っている。なので、
「そうですか、セイジ様のご意思ではないと」
 と、実情を察しながら言うと、セイジは眉間に固く皺を寄せたまま返した。彼に取って余程悩ましい話なのだろう。
「私がなかなか返事をせぬから、王母様は勝手に決めてしまったようだ。私の意見も聞かずに」
 お判りだと思うが、それはセイジの結婚の話だ。彼の言う通りこの度の縁組みには、彼はかなり難色を示していたのだ。もうとっくに妻を娶っていなければならない齢で、本人も周囲も一日も早く、と願う立場でありながら難色を示すのは、当然それ相当の問題があると見ているのだろう。けれどアヌビスはこの件について、これまで彼の考えを聞いたことはなった。
「そんなにお嫌ですか?、腹違いとは言え妹君ですよ?」
 素朴にそう疑問を抱き、初めてセイジの立場からの意見を聞こうとする。すると、アヌビスの最初の質問に対しては、
「それはむしろ好条件だろう、血筋の良い人間に越したことはない。それに、人伝の話だが、妹は穏やかで良い娘だと聞いている」
 気にするどころか歓迎できる存在だとセイジは言った。では何が気に入らないのだろう?。アヌビスは思い当たりそうな事を次々口にした。
「まあシン様は、一度他家に嫁がれていますがね」
「それもどうでもいい、十八と言う年なら何も問題はない」
 本来、ファラオの落とし胤である娘なら、初めからセイジの許嫁でもおかしくはなかった。最初の許嫁が病死した時シンは九つだったので、その時点で縁組みすることもできた筈だが、前途の通り単なる腹違いではなく、弟の妻との不倫関係によって生まれた娘の為、当時は表舞台に出したくない空気があった。拠ってシンは前ファラオの弟の侍女が産んだ息子と結婚し、その後四年間は幸福に暮らしていたようだが。
 シンの夫は半年ほど前、大司祭国のテーベに使いとして行った際、毒蛇に噛まれ、一週間生死の境を彷徨った挙げ句に亡くなった。そうして今になって、結婚に縁のない王子に機会が回って来た流れだ。オソルコン王もその弟も逝去した現在に至り、大王母も昔の感情は整理することにしたのだろう。シンの血筋は王家に取っては、今はとても貴重なものだった。
 だとすれば、他に何が問題になるのだろうか。
「では呪いの件ですかな?」
 とアヌビスが尋ねると、セイジはやや恨みがましい顔を向けて言った。
「そんな下らぬことを今更…」
 呪いとは勿論、「オシリス神の使い」と呼ばれている例の件だが、実はそう呼ばれる原因のひとつがこの神官だった。アヌビスと言う名は神話の神の名で、神聖なジャッカルの頭をした冥界の神である。過去から伝わる絵巻や壁画の絵には、オシリス神の許で働くアヌビス神の図が多く描かれており、そんな名の神官が側近に仕えていた為、セイジはオシリスと見られるようになってしまった。
 誰が彼にそんな名を付けたのか、アヌビス自身は与り知らぬことだが、お陰でセイジはずっと余計なイメージを抱かれている。ただ、別段彼のせいで許嫁が三度亡くなった訳でもなく、セイジが彼を遠ざけることもなかったが。
 また「下らぬ」と一蹴したのにも訳がある。邪悪な何かに呪われていると言うならまだしも、病死した最初の許嫁に呪われていると、非常に不快な流言が飛び交っていたからだ。セイジはその少女が、人を呪うような性格ではなかったと信じているし、自分も何ら傷付けるような事はしていない、何故呪われなければならないのかと、無神経な噂には常に憤慨していた。
 一度しか会ったことはないが、とても良い娘だと思っていた。この度妻に迎えるシンも、最初の許嫁の末の妹であるので、恐らく聞いた話の通り良い娘なのだろう。ならば、何故?。
「ならば何故セイジ様は、そんなに頑なになられているのです?」
 アヌビスが改めてそう問うと、セイジは床の上の己の影を見詰めながら言った。
「妹には、息子がいる」
「…その点は確かに少々気になりますが」
 子連れで再婚することは特に珍しくはない。子供の生存率が低かった長い過去、特に王族、貴族などと言う家では、そうした縁組みはごく当たり前のことだった。しかもシンはまだ充分子を為せる年令の為、ナスティ同様、夫の死亡を王家が見逃す筈もなかった。
「王母様はオソルコン王のご落胤であるシン様と、その血を引くお子様の先行きを案じておられるのです。シン様は伴侶を亡くし塞いでいるとも聞きますし」
「それはわかっている」
 アヌビスが言うまでもなく、大王母の考えは王家の誰にも解り易い話。ファラオと王妃もこの縁組みには、是非そうするようにと書簡を送って来た程だ。それだけ現在、王家の中心に子供が産まれないことを、心配する空気があるのだろうとセイジは思う。
 ただ、アヌビスは彼の悩みようも、新たに別の心配が出て来ることも判っているようだった。
「勿論それが、後々何らかの火種になることもありましょうな」
 誰もが気付く事ながら、今は目を瞑っておくべきとされる事もある。しかしその不安な状態を長く見守らねばならない、セイジにはこの結婚は苦悩の始まりにしか思えなかった。
「女子なら考えることもなかった。だが男子の存在は不和を招く元にもなろう。もし私にこの後男子が生まれたらどうなる?。ファラオがこのまま子を為さなかったら…」
 その訴えに対する返事は、慎重にしなければとアヌビスは暫し黙った。



つづく





コメント)暗く重い出だしで始まりました、征士の見た夢の話です。前作から時間が空いてしまい、最早このシリーズが何なのかわからなくなってる方も多いかも…。
しかも人物の相関がすごくわかりにくいです。エジプト王朝の話だからしょうがない。それと、征士の場面の途中で容量が足りなくなり、次に続くことになっちゃった。ファラオの遼がイメージ良すぎて、前半長々と書き過ぎたかな(笑)。いや、現王朝の雰囲気をよく伝えたかったからですが。
一応書いとくとナスティの死んだ夫は朱天、伸の死んだ夫はナアザです。別にどうでもいいんだけどさ。あと征士の最初の許嫁は小夜子さんです。



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