視線
ロゴスとパトス
#1
大花月シリーズ3
a fission



 異国での惨劇から、自己への不信、不安ばかりを募らせている。
 このまま飛べない鳥、輝けぬ星となってしまうのかと彼を思うと、見詰めているだけのこの身が切なかったのだ。
 誰か、彼を救える者は居ないのか?。

 秋の休日。夏休み中に起こった事件を経て、より纏まった集団となっていた少年達は、それぞれの近況報告をしに柳生邸に集まっていた。近況報告、などと言うと会議でも開くようだが、単に集まって喋る、遊ぶ、騒ぐの繰り返しだ。無論その中で意思確認なり、情報交換なりをしているのである。連休が近付く度、彼等は連絡を取り合ってはこうした会合を開いていた。
 その日は土曜日で、敬老の日の翌日だった。
「おいっ!、ここにあったケーキ誰か食っちまったのか!?」
 庭に出ていた秀が、居間に戻るなり慌てた様子で言った。昨日ナスティが、十五日遅れの秀の誕生パーティと、柳生博士の祭壇に供える為に用意したケーキ。当然残っていたのは祭壇に上げてあった方だ。後々誰が食べるとは決めなかったが、昨日のケーキを楽しみにしていたのは秀くらいのものだろう。
 その時居間には、ソファで雑誌を読む征士と、窓辺で白炎を洗っている遼が居た。秀の声に反応したのは遼だけだった。それを見て、
「おまえかっ?」
 秀は俄に沸き上る怒りの勢いそのままに言う。
「お、俺じゃない、知らないって」
「ホントかよ〜?」
「何で俺が犯人なんだよ!」
 まあ、部屋にこの三人しか居ないなら、甘いお菓子に関心の無い征士は鼻から除外、白炎も菓子類は殆ど食べないので、必然的に残ったひとりが疑われることになる。他の三人は車で買物に出ていて不在だった。言い合いをする内に、遼は漸くその不利な立場に気付いて、
「多分!、ここに来る前から無かったんだ、俺今日になってケーキを見た憶えないぜ?」
 と、多少苦し紛れな説明をした。勿論秀にしても、朝からずっとこの部屋に居た訳ではない。何時ケーキが無くなったかは知りようがないのだが…
「本当なんだろうな?、嘘だったらタダじゃおかねぇぞっ!」
 秀が力んだ声で念を押した途端、
「うるさい」
 眉間に皺を寄せて見合ったふたりに、酷く冷ややかな声が掛けられた。
「そんな事でいちいち騒ぐな」
 征士はそう言いつつ、いきり立つ秀にも、防戦一方の遼にも視線を向けず、只管雑誌の文字列を読み続けている。だからと言って特に面白そうでもなく、目の前の光景にも関心の無い様子だった。何処か突き放したような態度と言動、静けさ。
 だが秀に、場の空気を読めと言っても無駄なことだ。
「そんな事ってな!、俺には一番大事な事だって知ってるだろ…」
「いつもいつも必死になるのは食う事ばかり、進歩のない奴だ」
「何だとぉぉ!、知ったようなこと言うんじゃねぇよ!!」
 空気が読めないばかりに、普段ならそこまで言われない厭味を言われ、更に秀は普通に怒られてしまった。
「うるさいと言っている、聞こえないのか。ここはお前だけの部屋ではない」
「・・・・・・・・」
 こうして、厳しい言葉を立続けに浴びせられれば、流石の秀も状況を理解せざるを得ない。恐らく楯突けば楯突く程、自分が傷付けられる羽目になりそうだと。そして征士は今、他愛の無い話に付き合う余裕が無いらしいと。
 彼が未だ自己への悩みの中に居ることは、仲間達の誰にも周知の事実だった。アメリカでの出来事から戻って、まだひと月も経っていないのだ。その時覚えた恐ろしい感覚、己の奥底から無理矢理引きずり出された、低俗な憎悪が本能的な暴力を起こさせる悪夢。実際征士には夢で見ているような状態だったが、その中で人を殺めた事実が、己の中から導きかれた結果であることは、そう簡単に忘れられる事情ではなかった。
 征士は何らかの答を見付けようと苦しんでいる。仲間達はそれを、少し距離を置く形で見守っている。柳生邸の現在はそんな状況だった。
 ただ、そうだとしても征士の言葉は妙に刺々しいと、遼は少しずつ気になり始めていた。
「なあ、おい、変ないがみ合いよせよ」
 黙ったまま固まっている秀を見て、遼は「征士も意地悪なこと言うなよ」と、秀をフォローしてやるつもりだった。ところが途端に、
「遼も、関わり無いなら毅然としていれば良い」
「あ、ああ…」
 逆に駄目出しに遭ってしまい、結局取り付く島の無い状態で終わってしまう。まあ元々、遼と秀のタッグで論戦は無理な話だ。言いたい事も言えず黙らされたふたりは、多少可哀想な様子でもあった。
「ただいま〜」
 そこへ、買物に出ていた伸の声が、明るいトーンで玄関から聞こえて来た。三人で良からぬ雰囲気を形成していた居間に、新しい風が入って来たような変化は、遼と秀には酷く有難いところだった。声の主に助けを求めるように、自ずとふたりの足は玄関の方へと向かう。すると、
「あれ、どうしたの?、何かあったの?」
 彼等の妙な顔付きを見るや、伸はすぐに異変に気付いていた。
「いやっ、別に何もないぜ?」
 秀がそう答えると、引っ掛かりを覚えながらも伸は、この場で詮索するのは止めておいた。多少なりとも、彼には思い当たる節があったからかも知れない。ここには今朝から態度のおかしい人物が居ると。
 伸は廊下に上がり、「なら気にしない」と言う笑顔を見せて、
「そう。遅くなってごめんね」
 と、話を切り替えていた。既に秀と遼が、玄関にあった買物袋を持ち上げていた為、伸はただふたりの後に着いて、歩きながらその理由を話した。
「当麻が長々と買物してるから、予定よりかなり遅くなっちゃってさ。十時四十分に集合って言ったのに、待ち合わせ場所に来たの十一時十五分だよ?」
 そんな子細を聞けば、遼も秀も「しょうがない奴だ」と、茶化したコメントを楽しみたかったのだが、
「どうせ怒られまいと嘗めてかかっているのだ、自分勝手にも程がある」
 既に大広間に移動していた征士が先に、その話を聞き付けてそう言った。
 目の前に居た自分達だけでなく、誰にでも批判的な発言をする征士を見て、遼と秀は再び口を噤んでしまう。彼の前ではもう一言も喋れない、と思えるくらいの威嚇を受けた状態だった。だが伸は、
「ははは、まあそこまで言わなくても」
 手厳しい彼に対しても軽く返した。状況を意識し過ぎず、気に触らない言葉を選んで話すことは、伸のような者には難しくないようだ。それならここは伸に任せて退散しよう、と、買物袋を下ろした途端に、遼と秀は反転して部屋を出て行ってしまった。
 そして廊下に出ると、ふたりは声を顰めて話し始めた。
『なぁ、何か変だよなぁ、奴?』
『虫の居所が悪そうだ。珍しいことだが…』
 その時玄関にはナスティも到着していて、
「すぐに支度するから、みんなもうちょっと待っててね?」
 と、何も知らずに明るい顔を見せていた。それがどれ程救いに感じたのか、秀は勢い良く寄って行きながら返事する。
「頼むぜ〜!、腹が空き過ぎて宿題も何も手に着かねぇよ!」
 ところが、折角気分が浮上したのも束の間、ナスティの後ろに現れた当麻がこう続けた。
「言い訳になってないな、俺が監視してないと全然勉強しないだろ」
「・・・・・・・・」
 秀は再々度黙ってしまった。自己啓発セミナーでもあるまい、次々に悪い点を挙げられ、次々攻撃されては流石に凹んでしまう。だが、そんな秀の様子を見て当麻は、
「何かあったのか?」
 伸と同様に、やはり何らかの変化を感じ取っていた。何故ならこの程度の軽口は、彼等の間では挨拶代わりに飛び交っているのだ。そしていつもなら、「うるせぇ」とか何とか、秀は必ず一言反発して返す筈だった。それすらできないでいる秀は、寧ろ何か言いたい事があるんじゃないか?、と当麻は考える。
 なので玄関から廊下に上がると、ナスティが居なくなるのを見計らって、
『留守中に何があった?』
 と、当麻は自ら密談に加わっていた。実はこれも伸同様、気掛かりな事が既にある所為だった。
 秀はそこから見える、大広間に立つ人物を目線で示してこう言った。
『言葉に気ィ付けた方がいいぞ?、奴は何か変だからよ』
 目線の先には、進んでテーブルの上を片付ける征士が居た。当麻は案の定と言う風に、
『ああ…。そうかもな』
 と、特に驚きもせず言うと、遼が弾かれたように問い返す。
『知っていたのか?』
『まあな。今朝から様子見だ』
 但し当麻にも、征士の変化が何なのかは解らない、と言う返事だった。
『…俺は何か、普段はそんな言い方しないのにな?、って不思議に思ったんだ』
 遼は、先程の言い合いの場面を思い出しながらそう続けた。すると秀もそれに乗って、
『確かに!。何か面白くねぇ事があって、当たられてるみてぇな感じだったぜ』
 と、自身の受けた感覚を説明する。無論普段の征士なら、礼節を重んじる身でもあり、そんな言動は滅多に見られないのだが。
『うん…。昨日の今日だからな』
 ふたりの話を聞いて、少し考えた後に当麻は言った。それは昨日、五人が柳生邸に到着して間もなくのことだ。
 予想以上に沈んでいた征士を見兼ねて、話し合う内に、物の判る人とじっくり話でもしてみたら、と誰とも無くアイディアが出た。そして思い付いたのは、今も妖邪界に住む迦遊羅や魔将達だった。彼等なら心の整理の問題だけでなく、鎧の問題も当然理解してくれる。打って付けだと話が纏まっていた。
 征士自身も、その案には意外に乗り気だった。鎧の悪しき部分に親しんだ彼等は、少なからず今の己と共通する何かがあるだろう、と考えたのかも知れない。その後秀の誕生会を兼ねた夕食を摂り、彼はひとりで妖邪界へのポイントに出掛けて行った。
 出掛けたのは夜の八時半頃、戻って来たのは十一時過ぎだった。ポイントへの移動時間を差し引いても、妖邪界の時間は地上の六倍遅いと言うから、かなり長い間向こうに行っていたようだ。そして戻るとすぐ寝仕度をして寝てしまった。その時は、特に妙な変化は見られなかったのだが。
『煩悩京で何かあったんかな…?』
 単純に秀がそう言うと、当麻は否定も肯定もせずこう続けた。
『さあな。それはともかく、冷静に見ておかしい点があるのは確かだ。言葉がどうこうより、妙によく喋るのが俺は気になってる』
『成程、言われてみればそうだな』
 当麻の指摘には遼もすぐに賛同していた。どう思っているかはともかく、必要の無いお喋りをしないのが征士だと。秀はまだその辺りが解っていないらしく、
『人のする事にいちいち文句付けてねぇか?』
 と言ったが、丁度その時ダイニングテーブルの周囲で、征士が普通に伸と会話する様が見られ、
『気に触らなければ普通の態度みたいだぜ?』
『だなぁ…??』
 首を傾げるしかなくなっていた。
『しばらくはみんな、当たり障りなく観察する方がいい。個人的な理由なのかそうじゃないのか、その内はっきりするだろ』
『ああ』
 最後に、当麻の提言を受けて遼と秀が頷くと、大広間でのふたりの会話も終わって、伸がキッチンに戻ろうとしていた。廊下の三人は見るともなくそれを見ていて、改めて気付く。
『そう言や、今朝も伸を見てたなぁ…』
 ひとり広間に残った征士が、いつまでも彼の行方を目で追っている。それがまた、特に嬉しそうな様子でもなく、ましてや恋するようでもなく、端から見ると酷く不安を誘う情景だった。何事も起こらなければいいのだが、と、何らかの惨事を予感させるような…。
「あら、他の三人はどうしたの?」
 その時キッチンから、姿の見えない三人を不思議に思ったナスティが、広間に居る征士に声を掛けた。
「さあ」
 彼は素っ気無く一言で返したが、
「あっ、何?、俺が食事前に大人しいとびっくりすっか?」
 ナスティの声を聞いて、秀はいきなり明るい調子で返事をした。こそこそ話を覚られまいとして、或いはナスティに余計な心配をさせないように。すると続けて当麻も、
「悪い、今買って来た問題集をふたりに見せてたんだ」
 と、捕捉するように作り話を続けていた。大きな嘘を吐くには、その中に所々真実を鏤めることだと、推理小説などによく紹介されている。当麻はその通りに、時間を掛けて選び抜いた問題集の話題を入れて、かなり真実味のありそうな嘘を吐いていた。なにせ待ち合わせに遅れたことで、ナスティと伸には買物の中身を見せることとなり、それが遼と秀への、遅い誕生日プレゼントだとも知られてしまった。
 そんな恥ずかしい思いをした当麻だが、今となってはそれが幸いしたようだ。
「なぁんだ!、静まり返ってると思ったらそう言う事だったのね」
 ナスティは笑い混じりにそう返した。恐らく遼と秀がプレゼントを前に、青褪めている絵でも想像したのだろう。それから、彼女は馬鹿ではないので、本当のところは違うとしても、それで納得してみせてくれる人だった。彼等が問題無いと言うなら、いつもそれで信用してくれた。

 もう既に、三人だけの時の妙な空気は退いている。遼は昼時の明るい大広間に、安心して足を踏み入れていた。秀はそれ以前に、キッチンから漂う匂いに惹かれて、何を気にすることも無くなっていた。これで征士以外の全員が、彼について疑問に感じていることを知り、当麻も一段落したと言う様子だった。
 楽しい食事の前はなるべくなら、余計な心配事を抱えたくないものだ。その意味で、丁度区切りが付いて良かったと、廊下に居た三人は今は明るい顔をしていた。
 しかしそうでない者は…
『見てるなぁ…』
 第三者が気付くくらいで、伸がそれに気付かない筈もなかった。否、他の誰もが知らないことだが、伸はこの状況には多少慣れている。実は、今に始まったことではないのだ。
 それは、彼等が柳生邸に来てまだ日の浅い頃、部屋で寝ている遼の他は皆出払って、大広間に伸と征士だけが残ったことがあった。その時伸は、しばしば自分に向けられている不思議な視線が、誰のものかを初めて知ることになった。シチュエーションはどうと言う事もない。ただテーブルに着いて、お茶を飲みながら、思い思いに本や新聞を見ていただけだ。
「何見てんの?」
 と伸がさり気なく尋ねると、斜め向かいの席に居た征士は、暫しの間を置いて答えた。
「目の保養だ」
「は…?」
 質問に狼狽える様子も無く、臆面も無く征士はそう言ったので、恐らく言葉通りの意味なのだろう、と伸は思った。ただ、言葉通りだとしたらそれはそれで、理解に苦しむ話かも知れない。目の保養と言えば普通、美しい景色を見るような行動ではないのかと。
 すると普段の仏頂面に似合わず、征士はかなり面白い説明を続けていた。
「こう、男ばかりで過ごしているとな…。ナスティが居る時はナスティを見るのだが、居ない時は伸を見ることにしている」
 面白いのだが、まだ仲間達の誰もが、それぞれの性質を把握し切れていないこの時期、征士の観念的な物言いは伝わり難いことが多かった。曖昧に誤魔化そうと言うのではなく、彼は常に様々な考えの途中である為、断定的な言い方を避けているのだ。無論単純な言葉しか使えないようでは、然るべき場に於いて頭が悪いと判断され兼ねない。或いは、日本人の美観から言って失礼だ。
 なのでしばしば、言動に於いて「変わった奴」と捉えられてしまう。現状ではそれ以上に、相手に不愉快な印象を与えていた。伸は座っていた席を立つと、身を乗り出しながら手を伸ばして、征士のシャツの襟を掴んんだ。
「…君は僕を女扱いしてる訳?」
 真剣に怒っている訳でもないが、是非とも考えを聞かせてもらいたい、返答に拠ってはどうなるか知らないぞ?、と言う態度だった。
 そんな伸の急変振りに対し、征士は多少驚きはしたものの、すぐに軽く両手を挙げて「降参」のポーズを見せる。彼が余裕を持って答えられたのも、特に後ろめたい事情が無いからだった。
「そう言う意味ではない、私から見て優しいイメージだからだ」
 征士は伸にそう説明した。
「優しいイメージ?、僕が?。ふ〜ん、自分でそうは思わないけどねぇ」
 多少拍子抜けしたように、しかしまだ腑に落ちない様子で伸はそう返した。
「伸は優しい。だから対称的に私のような者が居るのだろう」
「そうかなぁ…?」
 まあ、人の優しさ、厳しさなどは相対的な評価でしかない。己がどう感じるかより、客観的な意見の方が正しいと思える分野だ。それについて、征士は続けてこんな話をした。
「私には母と姉と妹が居る。だから家では優しく在れとは言われない。鎧の性質に於いても、情的な優しさを要求されることはない。それを担う者が、常に他に居るからだと私は思う」
 恐らく彼に取っての人間の在り方は、概ね役割分担で成り立っていると言うのだろう。ギブアンドテイクと言う言葉もある通り、確かに人間社会の一側面である。ただ、役割は自ら選べるものと、選べないものとがあるだろう。有難くない役割を与えられた時はどうするのか、を、征士がどう考えているかは不明だが、
「う〜ん、納得し兼ねるなぁ…」
 伸は今、正にその立場に置かれて不満な様子だった。まだ鎧戦士としての、確たる自己認識が出来上がっていない段階では、受け入れ難い意見もあって仕方ない。誰も皆同等の少年だ、と言う結集当初の意識が続いているこの時では。
 なので征士も、この議論にこだわりを見せることなく、
「まあ気にしないでくれ、私の勝手なイメージだ」
 と、笑いながら纏めていた。
 それ以後、確かに征士は自ら話したように、日常的にはナスティの方を向いていることが多く、戦闘中などは自分を見ていることが多い、と、伸自身が確認していた。そしてその段になると、彼の行動が何なのかも想像できるようになった。簡単に言えば、荒々しい開拓地を眺めるより、穏やかな湖水でも眺める方が心が安らぐ、と言う程度のことだろうと。
 だから伸はそれきり、特に気にしないようにしていたけれど。

 これまでは気にせずに居られたけれど。
 残念ながら今は受け流すことができない状況だった。何故なら、肌に微風を感じる程度の視線だった筈が、今は明らかに「見ている」と判るのだ。またそれには何の感情も見えない。機械的に目標を照準に入れているような、やや恐ろし気な追跡行動にも感じられた。
 征士は一体どうしてしまったのだろう?。当麻達も異変に気付いている、悩んでいるからなのか、他に理由があるのかは解らないが…。と、伸は頭で思考しつつも、その日は全く普段通りの態度で過ごしていた。



 その夜、十二時半を過ぎた頃だった。
「どうした?」
 未だ着替えもせず、夜中の読書をしていた当麻の横で、影がベッドからむくりと起き上がった。当麻の手元の読書灯では、表情など細部までは見えなかったが、征士はその後額に手を遣ると、
「眠れない」
 と一言呟いた。それを見て当麻は、
「珍しいな、俺のせいだったら済まん」
 軽い調子でそう言いながら、注意深く相手の観察を始めていた。
『具合が悪そうにも見えるが…、体に変調を来しているのか…?』
 征士の生活が殊に規則正しく回っていることは、同室の当麻には判り切った事情だ。例え何かに悩んでいても、そんな時こそ意思を強くして無理矢理眠るのが彼だった。故に不眠を訴えるなどと言う事態は、全く異常だと当麻には捉えられていた。本人に自覚があるかどうかは知らないが。
 但し。眠る直前の時間帯も、今朝から夜までの長い間も、征士自身がややおかしい点以外は、特に気になる事は起こらなかった。そんな経過を考慮すれば、もしかしたら征士だけの問題で済むかも知れない、と、当麻は希望的観測もできる気がした。
 そう、周囲に何の影響もせず、征士のみに変調が起きているなら、原因の特定も容易く解決も早いだろう。とにかく丸一日、明日の朝まで大した事が起こらなければ、次は原因探しに移ればいい。できればそうなってほしいと当麻は考えていた。そして、
「水でも飲んで来よう」
 征士はそう言うと立ち上がり、滅多に見せない緩慢な動作で部屋を出て行った。多少心配な様子ではあったが、今すぐ自殺しそうだとか、重病を患っている風でもないので、取り敢えず当麻は黙って見送った。征士の足音が聞こえなくなるまで耳で追って、急変した感じが無いことだけは確認できた。
 二階の長い廊下を渡り、征士が階段を降り始めると、反対に昇って来ようとしているナスティに出会う。彼女はやはり、この時間に部屋の外に居る征士に驚いて、
「あらどうしたの?、何処か調子悪い?」
 と、心配そうな表情を向けていた。ただ昼の買物に出掛けた際、征士に注意するよう当麻に言われていた為、ナスティは無理に引き止めたり、突っ込んだ質問をする気は無かった。
「喉が乾いただけだ」
 との返事を聞くと、
「そう、まだキッチンの電気点いてるから、戻る時消して来てね」
「ああ」
 普段通りの会話で済ませて、何事も無かったように彼女は行ってしまった。
 そして征士は階下へと降りた。今一階に居るのは彼と伸のみだった。何故伸が居るのが判るかと言うと、常にナスティと伸のどちらかが、最後にガスの元栓等を確認する習慣になっている。そして今ナスティが、「まだ電気が点いている」と言ったので、伸が残っているのは誰にでも判ることだった。
 征士は水を飲みにやって来たので、迷わずキッチンへと向かった。そこに居た伸は彼に気付くなり、
「どっ、どうかしたの…?」
 他のふたりより更に驚くこととなった。足音が聞こえた時には、腹を空かせた秀か、まだ起きている当麻だと思ったからだった。
 まさかこんな事が、と壁を背に立ち尽くす伸を余所に、
「寝付けないのだ」
 征士は平坦に答えて、気にせず水道のハンドルに手を掛けていた。そのあっさりとした行動を見れば、無闇に恐れ戦く必要も無いと覚り、
「驚かせるなよ、そんな台詞は僕だけにしてほしいもんだ」
 伸はそんな事を言って返した。例え何処かがおかしいにしろ、少なくとも征士は一日普通に生活していたのだし、まあ少し大袈裟な反応だったかも知れない、と思っていた。
 その後、征士が用を済ますのを待って、
「電気消すよ?」
 と伸は声を掛ける。既に元栓や戸締まりは確認した後なので、征士が廊下に出て行くとすぐ、伸はキッチンの照明を消した。途端に柳生邸の一階フロアは闇の世界と化し、家の中が外の静寂と溶け合う、伸が最も好きな時間が訪れていた。
 目が慣れて来れば、カーテンの無い高窓から入る薄明かりで、勝手知ったるこの家を歩くには充分だった。その青味掛かった夜の灯りに照らされていると、恰も水中に居るように思えるので、伸は眠る前のこのひと時がとても好きだった。気持は泳ぐように、彼はゆったりした歩調で階段へと向かう。すると、階段の前にはまだ征士の姿が在った。
 否、昇らずにそこに立って居たのだ。色の無い表情を向けて、そこにやって来るであろう人を見ていた。
 只管に見ている。そう言えば彼は今朝からこんな感じだった。以前のような自然な振舞いではなく、見ていることを故意に示すような行い。言いたい事がありそうな様子も無く、意図を測れない分気味が悪かった。けれど、伸はそう感じつつも、結局見るのを止めろとも言わなかった。何故なら伸は、これまでも征士の妙な行動に付き合って来たし、迷惑に思うこともなくなっていたので。
 だから拒否はしなかった。そして無言で立っている征士に問い掛けた。
「今日は何か変だったね、君」
「…何がだ?」
 答えないかも、と思われた征士の口が動いたのを見て、伸は今日一日、ずっと聞きたかったことを尋ねてみる。
「今日はずっと僕を見てたね、ナスティも居たのに、どうしてだい?」
 しかしその問いには返事が無かった。
「!?」
 答の代わりに、伸の腹部に激しい衝撃が走った。征士の拳が容赦なく鳩尾に入って、伸は訳も判らず前のめりに倒れる。膝を折り曲げ、征士の足に凭れ掛かるように彼は沈んだ。
「な…に…」
 暫しの沈黙から長い静寂へと、夜は刻々と深まって行く。階段下で一時止まった時間を再び動さんと、征士は伸の半身を抱え、半ば引き摺るように歩き出した。真夏を過ぎた柳生邸の夜は、既にひんやりとした夜気が感じられた。薄暗い水に漂う心が、何処へ向かおうとしているのか誰にも判らなかった。
 その内伸は何処か、柔らかい場所の上に寝かされていた。彼の朦朧とした意識では、それが何処の何かを把握する余裕も無かった。そして、次に両肩を掴まれ押さえ付けられる。仰向けにさせられ、躯が伸びると、打撃を受けた腹部が激しく痛み出す。伸は声にならない悲鳴を漏らしながら、しかし何もできないでいた。
 掛けられた手を払おうにも、全身を凌駕する痛みに力を奪われてしまっている。それに、できる限り声を立てたくなかった。この後何が起こりそうかは、思考することなく感覚的に、幾らかのパターンを想像することができたが、皆に知られずに済めばその方が良い、と伸には思えたのだ。
 何故なら、苦悩している人が尚苦しむことになるだろうから。
 引き続き定まらない意識の中で、伸は着ている寝巻を剥ぎ取られて行くのを感じていた。どうせ力の入らぬ身では抵抗もできない、ならばなるべく声を上げまい、下手な抵抗はすまいと既に諦めていた。しかしそれでも、征士の手が下肢に残された一枚に掛かると、思わずその手を払い除けようと、残る気力を振り絞って手足をばたつかせる。意識的な行動ではなく、本能的な防御心が彼をそうさせたのだが。
 途端、伸の目の奥には白い火花が散った。制止を聞かないと知るや、征士は伸の顔を左右に張って強引に大人しくさせた。首が千切れるかと言う激しい反動に振られ、意識が飛ぶ程強く叩き付けられたらしい。その直後、伸は鼻先に鉄の匂いを感じ、それは次第にトロトロと口の端の方へ流れて行った。与えられる理不尽な行為の果てに、伸の体も意思も流石に弱って来た。
 もう何も大した事はできない、と思ったところで、
「…何で、こんな事するんだ…」
 久しく聞かれなかった言葉らしい言葉が、 伸の口から密かに零れていた。すると、覆い被さる征士の黒い影は、不思議に昂る様子も無く、淡々とこう話すのだった。
「私は伸が望むように、力の行使をしているだけだ。何故わからない?」
『何を言ってるんだ…?』
 始めから何処かおかしいと判る人間に、整然とした説明を求めるのは無駄だったようだ。理解に苦しむ回答を耳に、伸の意識は混濁して行くばかりだった。

 ところで、丁度その頃煩悩京は夕暮れ時を迎えていた。嘗て阿羅醐城の在った内堀内に、祈祷用に設けられた仮のお堂が建てられ、そこには迦遊羅と魔将達が集まっていた。何をしているかと言うと、今宵は会議や会食等ではない。四人はこの十分程の間、ある物を囲んで殆ど何も喋らずに居た。
 ある物とは、即ち螺呪羅の持ち物である水晶玉だ。阿羅醐も使用していたが、目標物の動きを追うカメラのような用途で使う。そして、
「予想通りで面白くもない…」
 と、幾分呆れ気味に螺呪羅は言った。彼だけでなく、誰もが呆れたような困ったような顔をしている。否ひとりを除いて。
「待て!」
 ひとり、居ても立っても居られない様子の悪奴弥守が、堪えかねてその席を立ち上がった途端、怒号のような螺呪羅の声が飛んでいた。
「今出て行ったら元も子も無い!、判らぬのか?」
 普段は比較的軽い調子の螺呪羅が、今は猛烈な勢いで怒っている。続けて那唖挫も念を押すようにこう言った。
「光輪が立場を悪くするだけだ。この術は記憶が残ると言うし、貴様の考えとは逆になり兼ねん」
 そう、彼等が水晶玉で見ていたのは、妖邪界を訪れた後の征士の行動だった。とは言え、あまり見たくない映像も当然あるので、誰もが何と無しに様子を窺っている、と言う方が正しい。殊に今現在進行中の場面は、迦遊羅などはまともに見て居られないだろう。
 それはともかく、話題が征士本人へのリスクに及ぶと、如何に現状が醜悪だろうと、悪奴弥守も踏み止まるしかないところだった。自らを憤る思いに拳を握り締め、難しい顔をしたまま彼は止まっていた。
「奴の行動は貴様の責任じゃあない、あくまで本人の中に在る意思だ」
 と、螺呪羅はもう一言助言したが、それが救いになるかどうかも判らなかった。
 悪奴弥守が何故責められているかは、少し前に征士が彼を訪ねて来て、その時に発覚した出来事に起因している。妖邪界では昼下がりと言える頃、地上に戻って行く征士を見送った後、悪奴弥守の住む仮の住いには、呼んだ憶えも無い来客がぞろぞろと現れていた。そして、
「臭うな…?」
 と、部屋に踏み入れるなり那唖挫が言った。
「ん?、何の事だ?」
 予告も無く迦遊羅と魔将が勢揃い、それだけでもまあ驚くけれど、やって来た三人は明らかに、悪奴弥守の狼狽する様を見抜いている。迦遊羅は彼の前に出て、かなり白々しい態度で問い掛けた。
「今、光輪殿がこちらを出て行かれたようですが?」
「ああ、そうだ。話をしていただけだが」
 そう答えた悪奴弥守は、この状況を見てもまだ誤魔化せると思ったのかどうか…。
 突然、那唖挫が彼に歩み寄り、その胸倉を掴んで怒鳴った。
「貴様は我等の信用に泥を塗るつもりか!?」
 しかし怒鳴り付けられても、悪奴弥守は狼狽えている所為か、想像力も何も働かないらしかった。彼に取ってはまるで薮から棒な話題に、ただ慌てふためいて言い返す。
「なっ、何を言う!、そんなつもりは毛頭ない…」
 けれど続けて螺呪羅がとどめを刺していた。
「ならこの気配は何だ!、数軒先にも術の波動が伝わって来たぞ?」
「・・・・・・・・」
 彼等が何故そこまで憤慨していたかは、既に過去の在り方と決別し、姑息なやり方で悪事を働くような真似は二度とすまいと、それぞれに誓いを立てていたからだった。新しい妖邪界の秩序を造る為に、自ら変わって行かなければならない。その基礎理念を悪奴弥守は蔑ろにしている、と判断した為だ。
 それがまして、彼等に取って恩のある相手に何かしたとあらば、黙って見過ごす訳には行かなかった。
「正直にお話し下さい、悪意を伴わないのなら私達も考えます」
「迦遊羅の言う通りだぞ?」
 悪奴弥守が黙ってしまったので、先程までの強い調子の物言いは止め、迦遊羅と螺呪羅は宥めるように話した。勿論、皆事態に怒ってはいるが、悪奴弥守の良識を信用したい気持もある。その為に、どうしても彼の考えを聞かなければならなかった。
 すると、流石にそんな雰囲気が読み取れたのか、悪奴弥守はボソボソと事の次第を語り始めた。
「俺はただ、奴を助けようと思っただけだ。…光輪は今悩んでいるのだ、嘗て我等と争っていた頃のように、戦う意思を定められなくなっている。戦士として立つ自信が揺らいでいるのだ。…それを見ているだけと言うのが忍びなくてな…」
 ゆっくりと、考えながら語られた内容を聞き終えると、
「成程な。そんな事だろうと思ったわ」
 酷い剣幕で怒っていた那唖挫が、いつもの厭味っぽい口調に戻っていた。誰も皆、まずこの時点で少しばかり安堵していた。悪奴弥守は己の為に他人を操った訳ではない、と知ったので。
 そして螺呪羅が肝心の部分について尋ねる。何より重要なのは、その後起こる結果をどうするかだ。術を掛けられた人間ひとりでは済まない、その周囲に事実として残る事は変えられないからだ。その点で、やって来た三人の意見は既に一致を見ていた。
「で?、何の術を使ったって?」
 因みに、魔将の中で術の達人と言えば螺呪羅だが、誰もが多少は妖術の心得があるようだ。無論悪奴弥守が使える術は、螺呪羅から見れば大したものではない。が、術の難易度と影響力は比例しない為、こうして彼は慎重に聞いているのだった。
 そして悪奴弥守が話すには、「深層の意識を解放させる術」とのことだった。通常決して表に出ることのない、原始的感情や押し込められた本来の性質、まだ意識の定まらない乳児の頃に受けた傷など、本人が知覚できないものを深層意識と言う。人間はその上更に階層意識を持っている為、普通の生活をする上でそれが現れることはほぼ無い。
 しかし深層意識を解放すると、一般にはストレスの解放に繋がる。知的生物の壁を取り払うことは、恐らく多くの罪や恥の意識が無くなることだ。ならば征士の思考を遮る、善き人間としての砦を一時崩し、これまで見えなかったものを見えるようにすれば良い。罪の意識に迷うことを止められるかも知れない、などと考え、悪奴弥守はその術を選んだらしいのだが。
「俺は光輪の話を聞いて、必要の無い事に悩んでいると感じた。鎧の持つ性質はそれを着る者と一体だ。否定しても意味が無かろう。だからもし、鎧に与えられた文字なり常識なりが奴を迷わせているなら、一時的な術を掛けて、無駄に悩んでいると気付かせようと思ったのだ…」
 光輪の鎧の特性は、悪奴弥守にはよくよく解っていることもあり、彼ならではの見解も含まれた話だった。そもそも鎧の文字とは、阿羅醐の力を押さえる為のものだと言われるが、それはつまり、鎧と文字とが反対の性質であることを指している。鎧を着る者は皆、その双方の性質の間で少なからず迷っている。征士の場合は礼節を重んじながら、身勝手で容赦の無い己を認めて行かなければならない。
 だが、迷い過ぎて己を見失っては愚の骨頂だ、と悪奴弥守は言いたいようだった。
 そこまでの一連の話を聞くと、もう誰も掛かる口調で話すのは止めていた。そして、事の決定権を委ねられている迦遊羅が、
「それなら、少しの間だけ様子を見てはどうでしょう?。特別危険な術ではないのでしょう?」
 と螺呪羅に尋ねた。
「まあ光輪ならな。何かあったとしても事後に説明できるだろう」
 しかし彼はそう結論しながら、最後に釘を差すことも忘れなかった。
「だが悪奴弥守、思い通り良い結果になるとも限らぬ。光輪には悪いが、術が効いている間は監視させてもらうぞ」

 と、そんな経緯が在って、今こうして監視の為に集まっている魔将達。誰も好き好んで覗きをしている訳ではない、寧ろ皆もううんざりと言う風情だった。なので今は、水晶玉に見て取れる内容を議論するより、この後どうするかに思考対象を移した者が殆どだった。
『果たしていつ出て行くのが良いか』
 元々地球時間で一日程度としていたが、その丁度一日を迎えた所で動きがあった。魔将達に取っても、少年達にも遺恨を残しそうな事件の、収拾を着けるとしたら誰が何をすべきなのだろうか…。
 魔将達がそれぞれに解決策を考える中、迦遊羅がふと妙な事を口走った。
「光輪殿は、優しい気持に飢えているように見えます…」
 前途の通り、今水晶玉に映っている場面など、ろくに見ていない迦遊羅が何からそう感じたのか。三魔将には見当が付かなかったが、言葉遊び程度に那唖挫がこう続けていた。
「水滸は優しさ故に脆く、優しさ故に強い。己を辛く思う時には縋りたくなる気持は解る」
 前の悪奴弥守の談ではないが、実に那唖挫らしい意見だった。まあ、魔将達はそれぞれ鏡を見るように感じた相手に対し、最も愛着を持っていて然りだ。しばしば贔屓目に因る発言が出るのは、致し方無いと誰もが解っているけれど。
 そして悪奴弥守は、
「それはおかしい!」
 と、案の定強く反論していた。那唖挫にしてみれば、本題と関係のないお喋りにまで熱くなるな、と言うところだった。
「光輪はそこまで脆弱な男ではない、貴様に何が分かる」
 更に、彼があまりに真剣に擁護するので、螺呪羅も面白がってそれに乗った。
「そうだ、優しくしてほしいだけなら、なにも水滸にこだわる必要はない。金剛とてああ見えて気の優しい奴だぞ?」
「ややこしい話は止めんか!」
 すると、話が馬鹿馬鹿しい方向に向かっていると誰もが気付き、那唖挫の言を最後に三人はまた黙ってしまった。全く、こんな会合から上手い解決策が出て来るのか?、と。
 しかし迦遊羅だけは、朧げに何かを掴みかけているようだった。
「そう言う意味ではございませぬ。…光輪殿は優しくされたいのではなく、自ら優しくなりたいのです。恐らく」
「ん…?」
 直前の議論とは正反対の意見を聞いて、三魔将は揃って、一瞬思考を止めてしまった。
「何故かは解りませぬが、水滸殿に気付いてほしいのです。それが抑圧された意思ではありませぬか?」
「・・・・・・・・」

 恐ろしい晩。身が凍るような暴力の宣告を耳にした。けれど伸は今涙を流している。複雑な感情を持つ生物の切なさを思い、這い上がる扇情的な戯れに涙している。殴ってまで、自分を従わせようとした征士の手が、指が、その時の気迫とはまるでそぐわない、優しい、細やかな感情を伝えて来るので。



つづく





コメント)ああ〜、予定より長くなっちゃったな、と言う第一話です。
今回の話は征士BD合わせで外伝絡みなので、予告通りかなり暗い部分が出て来ますが、柳生邸の面々や魔将の遣り取りなどは、結構明るい進行で書いているつもり…。毛嫌いしないで読んでくれると有難いです(^ ^;。
ところで、いきなりレイプかよ!?とびっくりされた方もいるかも。こう言う場面を書くのはホントに珍くて、私の全同人作品中、多分これ一作しかありません。印象は良くないかも知れないけど貴重です(笑)。
まあ、そんなことよりちゃんと完結させなければ…。




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