牧場にて
21世紀のハレルヤ
#3
Nu Hallelujah



 誰がどんな思いをしていようと、地球の町には変わらず陽が上り陽が沈む。
 翌朝、一階のロビーで電話をしていた当麻は、早速幸先の良い話を耳にして色めき立っていた。
「え?、聞き込み調査の許可が下りたんですか」
『ええ、だから今日は私、一日かけて市内の住民を回ることにします。秀さんには昨日伝えてあるから、午後の閉店中にまた訪ねれば大丈夫よ』
 そう、事件に関する話を聞くだけでは解明できない、あの謎の小瓶の出所がせめて判ったなら、今はバラバラな情報をもう少し絞り込んで行けるだろう。ここに到着して早々に調査が始まると言うのは、何とも幸運だと当麻は思った。
「分かりました、それじゃ」
 彼は明るい声色と共に電話を切った。すると、いつの間にすぐ横まで来たのか、先にロビーに降りて寛いでいた伸が、
「おはよう。朝から忙しいね、柳生博士は」
 と、電話の内容をある程度聞いていたことを示しながら言った。研究の内容や目的には依然興味を示さない彼だが、何処に出掛けて何をするのか、行動予定にだけは強い感心を持っているようだ。遊びに来たのだから当然かも知れない。
「で、今日は何すんの?」
 昨日と変わらない様子で、何処か楽し気に伸がそう尋ねると、
「そうだなぁ、午前が丸々空いちまったな…」
 当麻は携帯電話を胸ポケットに戻しながら、本来の予定をどう埋めようか考えていた。元々は今日も柳生博士の家を尋ね、昨晩の内に頭に入れた伝奇的研究データについて、より詳しい検証内容を聞くつもりだった。まあそれには大した時間はかからないので、他の空き時間に振り替えれば問題はない。
 それより、実質三日半の滞在時間を無駄にしたくない、と当麻はすぐさま代案を探し始めた。すると伸が、やはり「我関せず」の調子で呑気に言った。
「じゃあドライブに行こう!、僕は耶馬渓に行ってみたいんだよ」
 尚、耶馬渓とは国定公園内にある景勝地だ。荒々しい岩肌の作り出した自然の風景で、九州旅行のパックツアーには大抵入っている。但しこの町からは片道一時間半、下手をすれば二時間はかかるだろう。まさかな、と馬鹿馬鹿しく思っている内に、当麻はそれなりのアイディアを思い付いていた。
「いや、昼にあの店に行くまで、荒らされた鶏小屋でも見て来るとしよう」
 何故そう思ったのかは、伸が発した「ドライブ」と言う言葉。五月、六月の事件はほぼこの町で起こったと言えるが、最も新しい七月の事件だけは、ここから車で数十分ほどの山中だと聞いたからだ。まだ事件の記憶が新しいそこなら、何かヒントが得られるかも知れないと考えた。
 ただ、
「退屈そうだな〜」
 流石に伸はそんなコメントをした。耶馬渓と養鶏場の鶏小屋では趣が違い過ぎる。
「悪かったな、無理に着いて来なくていいんだぞ?」
「まあ僕も暇だし、折角来たんだから色々見聞して帰るさ」
「殊勝なことだ」
 文句を言いつつも、結局伸は目的の邪魔をしようとはしないので、当麻は笑ってそう返せていた。丁度その時、外へ出ていた征士がエントランスから入って来て、話すふたりの姿を見付けると、やや足早になってそこへと合流した。
「おはよう征士」
 と伸は何の気なしに声を掛ける。ところが、
「…ああ…」
 征士は浮かない顔をして、適当に相槌を打つような態度を見せていた。
「どうかしたの?、顔色が悪いね」
「気のせいだ」
 否、勿論その原因は伸にある。人にあらぬ疑いをかけておいて、今は素知らぬ顔でにこにこしているからだ。
 昨夜は殆ど眠った気がしなかった。当麻にも何かを忘れていると問われ、昨日一日の出来事と過去の記憶とが、ずっと頭を離れなかった。気分直しに外へ出てみたものの、絶対的な睡眠量が足りない所為か、朝の陽気の心地良さなどちっとも感じられなかった。
 と、口には出さないが、状況の恨めしさを倦怠感として現す征士を見て、伸は口許だけで「フフッ」と笑っていた。些か不可解だが、伸はそうして悩みまくる征士を面白く、と言うか、微笑ましく見ているようだ。
 自らの研究目的でやって来た当麻以外は、ほぼ同等の立場と言って良かった。そんな場合、同じ立場同士で気を遣い合うのが普通ではないだろうか。特に伸の性格を考えればそうでなくてはおかしい。なのにこの状態は何なのだろう?。
 しかし、当麻はまだそれに気付かない様子なので、伸は何も知らぬ振りを続けたまま陽気に言った。
「さーて、今朝は和食にするかなー。決まり切ったビュッフェじゃないといいな♪」
 そして、朝食時は専用の食堂となっている、一階のレストランへ既に足を向けていた。

 窓の白いカーテンがキラキラと、外の光を透かして輝いている。まだ朝の七時半だと言うのに、レストランの内部は明るい日射しに包まれていた。遠目からその開放的な雰囲気を感じ取ると、伸は朝から快活な足取りで廊下を進んで行く。するとその途中で当麻が、
「ここは食事が良いと書いてあったぞ」
 と、携帯の書き込みから見付けた情報を話した。現代の情報化社会には勿論悪い面も存在するが、利用者の率直な意見を公開するのは良いことだ。などと、当麻が多少真面目な思考をしていると、歩きながら振り向いた伸は「へぇ」と言う顔をする。
「そんなこともチェックしてるんだ。随分進歩したもんだね」
「進歩…?」
 何を言われているか判らない当麻は、間の抜けた調子で返したが、
「そうだよ、昔は完璧に味より量だった。甘い味が好きなだけで他はこだわらないから、お菓子ばっかり食べてたよ。忘れたの?」
 続けて伸がそう指摘すると、
「そうだっけ…??」
「残念ながら正しい。当麻でも忘れることはある訳だ」
 話題の中心人物と並んで歩いていた、征士も特に考えるでもなく肯定していた。昨晩から記憶の不明瞭さに悩む征士だったが、そんな風にすんなり思い出せる風景もある。
「当たり前だろ、どうでもいいような記憶なんか」
 過去のいい加減な食生活を恥ずかしく思うのか、当麻は言いながら明後日の方を向いた。またそんな彼を見ながら征士は、
『では私は、何を忘れているんだろう?』
 再び、本人達には気付けないと言う過去を探し始めていた。確かにどうでもいいと思える事は、月日を経るまでもなく忘れてしまう。だがどうでもいい話を当麻は、あんな風に印象付けて話しただろうか?。
 何か言いたいことがあったんじゃないか?、と、その答を征士はずっと考えている。
 伸の期待した朝食ビュッフェは確かに、収容規模がそこまで大きくないホテルの割に、品数がとても充実している印象だった。入口から見て手前は地元食材を使った和食のブース、中央にはスタンダードと言える洋朝食のブース、最奥にはお粥がメインの中華と朝鮮料理のブースがあった。
 早速トレイを持って、伸が手前のブースの物色をしていると、後から来たふたりに向かって、
「これ何だか知ってる?、大分名物『だんご汁』だよ」
 と、聞かれてもいないのに紹介した。今日も大いに観光気分を発揮する彼は、引き続き絶好調のようだ。
「はあ…、うどんに見えるが」
 言われて大鍋を覗き込んだ征士の感想。その通り、一般的なうどんより相当太いが、ここではそれを『だんご』と呼んでいる。特に珍しい味がする訳でもないが、ここでしか見られない郷土料理なので、伸は深く考えずお椀を手に取っていた。
 その横で当麻は、
「九州に来たんだから豚を食え」
 と呟いている。昨日小倉駅で売っていた、人気商品のカツサンドが頭に残っているのだろうか。確かに豚肉料理も九州名物ではあるが、対する伸の反応は褪めていた。
「朝からガッツリ食べられる人ばかりじゃないんだよ。大体君は大して動かないのに食べ過ぎだ。もう下っ腹が出て来る年頃だろ?」
「うるせぇな!」
 正に朝から、余計なことを言うもんじゃないと言う状況。当麻の何気ない一言が何故かいつも、伸の揚げ足取りに引っ掛かる恒例のパターンは、今朝も早々に始まっていた。
 まあそんな遣り取りもありながら、三人が席に着いて朝食を始めた頃。それまで料理を選ぶのに夢中だった所為か、或いは修学旅行的な騒ぎを楽しんでいた所為か、耳に入らなかった部屋のBGMが漸く聞こえて来た。
 ショパンのワルツ。明るく楽しみながら食事をするには良い選曲だが、ポルトガルとは何の関係もないなと当麻は思う。また伸は、ポルトガルの音楽と言えばファドしか知らないが、あれは酒を楽しむ場の音楽だ、と思う。音楽まで全てをホテルの雰囲気に合わせるのは、意外に難しいようだとそれぞれ思った。
 しかし、カーテン越しに漏れて来る朝の光の軽やかさ、触れ合う食器の鳴る音や談笑する声は、舞踏曲であるワルツに不思議とマッチしていた。と、気分良く食事を続ける内に、その曲は終わってしまったけれど。
 暫しの間の後、幸いその次もショパンの曲だった。
「あ…」
 ふと、伸が小さな声を上げて箸を止めた。
「・・・・・・・・」
 何故だか征士も、箸を持つ手をテーブルの縁に掛け動作を止めている。
 プレリュード十五番。零れ落ちる水滴のような調べが美しい、「雨だれ」の名で知られる名曲だ。これも落ち着いて食事をするには合っているが、残念ながら今日は快晴なんだよな、と、考えたところで当麻は他のふたりの妙な状態に気付く。
「何だ…?」
 と問い掛けると、すぐに平常の様子に戻った伸が、
「いや何でもない。外が一瞬光ったんだ」
 と話した。確かに伸はそれきり、何も気にしない様子で食事に戻ったけれど。何故だか一点を見詰めたままの征士は、多少気掛かりなものとして当麻の目に映った。
 とは言え彼も、緩慢な感じながら食事を続けているので、今は気にしないでおくことにした。
「今日も天気が良さそうだ。柳生博士は厳しいかも知れないな、外回り」
 当麻はそう言って、故意に話題を変えて窓の外を見ていた。



「あー、高原の空気はいいねぇ」
 車の窓を開けて伸は言った。
 フォルテ・ポルトガルのゲートを潜り、三人の乗るレンタカーは九重山麓の、より標高の高い地域へ向けて走っている。行先は観光地ではないが、それなりにドライブ気分を味わえるので、伸は満足げに車窓を眺めていた。
「だから研究室に篭ってるんじゃないと」
 と当麻が、昨日も指摘した伸の生活状況を揶揄すると、
「僕が今こうして夏休みを満喫できるのも、普段は毎日世の為に働いてるからだろ?。自由なだけじゃ生きて行けないんだよ」
「口の減らない奴だ」
 やはり伸も昨日と同様、有無を言わせない態度で答えていた。
 ドライバーを務めている当麻は今日も昨日も、BGM代わりのように伸の軽妙なお喋りを聞いている。これが夜中や高速道路の長い道中なら、眠気覚ましになって丁度いいかも知れない。などと他愛のないことも考えつつ、当麻は今日も、早速頭を研究の方へ切り替える。
「ついでに話してくれ」
 と彼は言って、二十分程の移動時間も無駄にしなかった。
「昨日見せられた薬瓶だ。無認可と言うからには、流石におまえも知らないだろうが、出所とか、何か推測できることはないか?」
 当麻が伸に聞きたいことと言えば、無論あの正体不明の薬品についてである。無認可の血液製剤はあり得ないと伸は言っていたけれど。
「さあ…、ラテン語なんだからヨーロッパじゃないの?。元々製薬会社は多くあるし、最近はアメリカ資本の特殊企業も増えてる。DNA関連の会社とか」
 と伸が答えると、それにはすぐ反応して、
「ああそう言えば、アイスランド議会が話題になってたな」
「アイスランドと言えば、国民の大半がバイキング時代まで家系を辿れるそうだな?」
 当麻と、続けて征士もそんな発言をした。前途の通り日本史専門の彼ではあるが、この話題にはそれなりに関心を持っていたようだ。何故ならバイキング時代とは今から約千年前、日本で言えば鎌倉時代頃に当たる。一般人がそこまで家系を辿れると言うのは、非常に稀な地域として注目されたからだ。
 そして、その事情に詳しい伸はこう続けた。
「遺伝病の研究が目的らしいけど、家系図と病歴を売り渡された国民はマウス同然だよ。そう言うやり方はどうかと思うね、企業側の一番の目的は利益だし、最後まで面倒見てもらえるとも限らない」
 彼の口調からは、事態に対する不快感が多分に感じられた。それに合わせた訳ではないが、当麻も半ば呆れたように返した。
「まあ、俺達には夢のあるDNA解読も、経済効果ばかり注目されてるしな」
「そ。『全ての病気を克服する』なんて言って、表向きはいいイメージを作ってるけど、社会保障費の圧縮が第一目標だからさ。結局は何でも金だ、嫌になるね」
 つまり難病に苦しむ人を救うことや、太古の発掘品のDNA鑑定など、世界全体に広く影響する物事の研究より、各地域の経済の疲弊が深刻だと言うのだろう。確かに欧米型の福祉社会は、弱者を支える理想的な形ではあるが、彼等の寿命が伸びる程経済を圧迫する結果となった。
 だからと言って、助け合いのない社会など寒いばかりだが。
 すると、征士が少し目先の違うことを話し始める。
「身を呈して集団を支える意識に欠けている、と言うことか?」
「やあ!、いいこと言うね君」
 伸は急に彼を振り返ると、政治的合意を得たかのように彼の手を取って握手した。
「いや…、医は仁術と言うのに、医療活動を経済ベースに乗せるのが間違いかと」
「そうそう、僕もそう思う」
 否、彼等だけでなく、恐らく世界中の多くの者が思っていることだと思う。薬品の製造は産業だが、原材料費は大したものではない筈だ。医師等の給料、研究費や設備費は全額保障して、利益を上げない形に何故できないのか。その方が格差を解消できるのに、と考えることはあるだろう。
 だが、出来てしまった形を変えるのは難しいと当麻は言った。
「経済の発祥も、現代医療の発祥と同じヨーロッパだ。自業自得とも言える」
「そうなの?」
「大規模な市場の始まりはベルギーのブリュージュと言う町、十三世紀のことだぞ」
 羊毛の取引から、史上初めて世界経済の中心となった港町。無論当時は、中世の階級社会が支配する世界で、良質な物は財力のある者が独占していた。その為庶民は如何に良質の商品を作るか競争を始め、現在の自由主義経済が生まれた。競争が物や技術を早く発展させることは、この時代に確認された事実なのだろう。
 確かにある時代はスピードが必要だった。産業革命が世界に齎した豊かさは大きい。けれど、活動サイクルが早まると細胞寿命が短くなるように、社会が老化するのも早くなる。経済効率ばかりに目が向いていると、人の精神も加速して廃れて行くことを、見失ってしまうのではないか。
「へぇ、人類学者は何でも御存知だ」
 と伸は当麻の知識に一応感心したが、納得が行かない様子で溜息を吐いていた。
 この中では唯一理科的な分野の仕事をしている伸の、医療に対する考え方は他のふたりとは、少し違った面があって然りだ。しかし現行の社会の中で充分な報酬を得る彼が、そこまで体制に不満を持つとは不思議だ、と当麻は感じる。伸は昔から政治的な人物ではない。勿論社会人となって、伸が何を経験して来たのかは知らないが…。
 と、そこまで一時経済社会の話に流れてしまったが、そこで、
「話が逸れたが、じゃあ出所はヨーロッパとして、あの薬剤は世界中に流通してることになる。無認可の薬品がそんな広範囲に流通できるのか?。まあ、全ての国に吸血族が居るとは思わないが」
 当麻は再び質問に戻っていた。例の薬品が柳生博士の言う「血の代わり」だとしたら、現代の吸血鬼は皆それを求めている筈だが、入手経路はどうなっているのか、と言う話だ。
「無理だね、先進国はどこも厳しい審査をしてるし、EUの国同士が限界じゃないか?。ネットで個人輸入もできるけど、せいぜい十年前からだよ」
 伸の意見は尤もだと当麻も頷く。
「だよなぁ…。博士の勘については、多少懐疑的にもなるな」
 確か、吸血鬼らしい事件はここ三十年起きていないと聞いた。最低三十年前には、その薬品は存在しなければならないことになる。また、麻薬のように密輸入となると、命に関わる薬をそんな不安定なシステムに委ねる、海外へ移住しようとは思わないのではないか。
 ラベルには月に一回と書いてあった。それを安定供給するシステムが必要だ。
「他の薬に偽装して流通するとか」
「すぐ怪しまれるだろうね。錠剤ならともかく、バイアルは病院以外は滅多に買わない商品だよ?」
「じゃあ農薬か、いや違う、化粧品か香料だったらどうなんだ?」
「さあ…?。農薬は規制が厳しいから無理だけど」
 伸が初めて言い淀んだところで、当麻は「これだ」と言う気持を込めて言った。
「可能性がない訳じゃないんだな?」
 勿論可能性と言うだけで事実は違うかも知れない。だが輸入ルートの議論で、八方塞がりだった事の突破口が見付かると、博士の持論を疑うことを止められると言うものだった。
 取り敢えずそれだけで嬉しい様子の当麻。そんな彼を見て伸は、
「じゃあラテン語のラベルは、国内で貼り替えてるんだね?」
 と一応釘を差しておいた。
「ん?、…そう言うことになるな…?」
「何で?」
「・・・・・・・・」
 ひとつの閃きを得た後に、より難解な謎が待っている。それについては当麻でなくとも、今のところ誰も説明できなかった。すると征士が、
「中身を覚られないようにする為だろう」
 と、本末転倒なことを言い出していた。そう、危険を伴う薬品のラベルに、今は使われていない言語を表記するのは妙だと、昨日の時点で既に議論していた。体への危険より薬の正体を隠す方を優先するとは、普通の感覚ではない上、「卵が先か」のような堂々巡りの議論になってしまう。
「アホか…。おまえ昨日の話をもう忘れたのか?」
「忘れた?、さて?」
「もう認知症が始まってるようだぞ?」
 けれど、朝から調子が悪そうだった征士が笑っていたので、当麻の腹立たしい気持は萎えてしまった。しかし征士は大学時代のことといい、安易に物事を忘れ過ぎる、と当麻は思った。



 山道らしい林の道路に入り、少しばかり進むと途中、突然視界が開けた一帯に差し掛かった。そこが本日最初の目的地だった。
 山小屋風の住居と倉庫が連なる所で、当麻は車を停め、ひとりさっさと住人に声を掛けに行った。
「すいません、さっき連絡した者ですが」
 一見して人の姿が見えない。しかし開けた牧草地の柵の中には、九州では珍しい牛や山羊がのんびり草を食んでいる。その長閑で開放的な様子を見て、車を降りた伸は喜び勇んで言った。
「何だぁ!、ただの養鶏場かと思ったらなかなかいい所じゃないか」
 当麻の話から、鶏インフルエンザ騒ぎの時にニュースで見たような、大規模な団地式養鶏場を彼は想像したが、来てみれば養鶏より牧場がメインの家らしい。
 そう実は、これまでの事件は全て、比較的小規模な鶏小屋で起こっていた。故に集団ではなく、単独犯の可能性が高いとも言われている。
 そんな事件の概要など全く頭に無い伸は、避暑地の高原に遊びに来たイメージを満喫しに、足早に人家の方へと行ってしまった。恐らく経営者に許可を得て、牧場の方に入れて貰おうと言うのだろう。彼の仕種から容易にそんな想像ができることを、他のふたりに遅れて歩く征士は笑って見ていた。
 懐かしい、そんな場面を毎日のように見ていた、と、征士は某かのことを思い出しつつあるようだった。
 すると、彼の視線の先で伸は立ち止まって何かを見ていた。征士がそこに近付いて行くと、その気配に気付いて伸は言った。
「ここ直営店か何かかな?」
 彼が見ていたのは店鋪のような、小さな建物の窓の中だ。確かに瓶入りの牛乳や、ビニールパックに詰められたチーズ等が、棚や籠に陳列されて置いてある。
「どうだろう。誰も居ないようだが」
 と、室内の様子を見て征士が返すと、伸は落ち着きなく辺りを見回しながら言った。
「誰か来てくれないかな〜、あのチーズケーキ欲しいなぁ〜」
 チーズケーキ。そんな物があったか?、と、征士はもう一度窓の中を覗いてみた。よくよく店内の食品を見てみると、成程、伸の欲しがりそうな物体が棚の見え易い場所に乗っていた。品名を読まないとそれと判らない、殆どチーズの固まりのようなケーキなのだ。
「よく絵本とかで鼠が齧ってるチーズみたいだろ?、面白いじゃないか」
 伸はそう言って、子供の頃の憧れを見ているようだった。
 そしてその程度の軽い意志で、二キロはありそうな商品を買って帰ろうとする、否、彼は言い出したら必ずそうするので、見ていて全く面白い人間だった。昔からそうだった、と征士はまた思い出していた。
 しかし、伸の目先の欲求は少しの間お預けとなった。
「ええ、刃物で網を切ってありましたから」
「そうですか。野生動物の仕業ではありえないと」
 建物の影から当麻と、ここの経営者らしき婦人が話しながら姿を現す。
「それで、みんな何かで刺されたような状態だったんですね?」
「はい…。鶏舎はこちらです」
 そして案内されるまま、牧場の方へ行こうとしている当麻を見て、伸と征士もその後を着いて行った。
 住宅と倉庫の並ぶ一角から、数十メートル先に見えているのが、七月の事件の起こった鶏小屋のようだった。人の住居、他の家畜小屋からもかなり離れている為、成程これでは、騒ぎがあったとしても聞こえないかも知れない、と当麻は考えながら歩く。
 その現場に着くと、目立つ補修跡のある網の中を見て伸は、
「かわいいねぇ、ヒヨコはいっぱいいるじゃないか」
 相変わらず事件と関係ないことで喜んでいた。
「それは先日買って来たばかりで…」
 と、やや困ったように経営者夫人が言うと、当麻が話を戻すように続ける。
「肝心の鶏は全滅だったそうだ」
 暫く、誰もが口を噤んでしまった。
 事前に話を聞いていても、現場を前にして改めて事実を聞かされれば、残忍な事件のイメージが暗くのし掛かって来るようだった。そこに立つ四人の感情に、途端に何かが切なく訴えて来る。
 すると、
「可哀想に。…でも、僕は普通に常識のある人の仕業だと思うな」
 何も知らないヒヨコ達を見詰めながら伸は言った。そして当然の如く当麻が一言返す。
「その可能性も勿論あるが、そうと言えない面もある」
 伸が何を以って「常識的な人間の仕業」と言うのか、彼は是非その理由を続けてほしいと思ったが、その前に征士が口を開いていた。
「色々矛盾があるようだ」
 それを聞くと、当麻は同調できる話題と思ったのか、彼なりの推理を展開してみせた。
「だろう?。悪戯の犯行なら、網から何から全て刃物で切り裂けばいいんだ。わざわざ方法を変えるのは、別の目的があるからだろう」
 確かに、最初の事件は網を止めたネジをひつとひとつ外した上で、細い何かによって刺されていた。次の事件はホチキス止めの網を引き抜くように破られ、鶏の屍骸は同じ状態だった。そして今度もそうだ。悪戯や鬱憤晴らしなら、何故わざわざ面倒なことをするのか疑問だ。
 だが、征士の言いたいことは、それとは少し方向の違う話だった。
「それもそうだが…、吸血鬼のやることとも思えん」
「そうか?。何故そう思う?」
「単独犯だと聞いたが、ひとりで数十羽分もの血を吸うのか?。輸血するでもあるまい」
 まずそこまでを聞いて、それはそうかも知れない、と当麻も暫し考え込んだ。前途の通り単独犯の可能性が高いと言う、この一連の事件を全て同じ人物と仮定したら、この三ヶ月で三百羽もの鶏の血を吸ったことになる。そんなに必要ならもっと大型の家畜を狙えば、と思わないでもない。
 ただ、単独犯と言う説も可能性のひとつなので、決定的な矛盾とは言い切れなかった。そして征士はもうひとつの話題を後に続けた。
「それと、前から気になっている。あくまでイメージだが、映画などでは牙で噛み付く絵が多い。牙は犬歯と同じで大抵二本だ。これまでの事件全て、刺し傷ひとつなのは何故なんだ?」
 すると、少しばかり痛い所を突かれたように、
「さあな。片方が折れたのかも知れない」
「無理矢理だな」
 当麻にしては適当な返事が返って来た。そう言えばこれまで「牙」なんて単語は全く出ない。柳生博士の考えも地元住民の噂も、そこには重きを置いていないようだ。ただ「血を抜かれている」と言う事実が、吸血鬼に繋がったに過ぎない。
 すると伸も征士に加勢するように言った。
「そうだよ、そんな不様な吸血鬼なんて居るのか?。物語の上ではさ、何か美学を持ってるように描かれてるし、吸血鬼らしい行動をしなきゃいけないんじゃないの?」
 まあドラキュラ伯爵なら、仮にも伯爵の地位があるのでプライドは高そうだ。けれど全ての吸血鬼がそうとは限らない、と当麻は考えている。
「う〜ん、吸血鬼らしい行動な…。ストローで吸ったような感じだからなぁ」
「ストローって」
 続けられた当麻の弁を聞いて、幾ら時代が変わったとしてもそれはないだろう、と伸は吹き出していた。まるでギャグマンガだと思う。続けて征士も、
「そもそも現代社会の中で、発達した犬歯を隠して生きられるだろうか?」
 と、至極真っ当な疑問をぶつけていた。所謂八重歯ですら欧米では嫌われる、学生の内に矯正するのが当たり前となっている。アジアではそこまで気にしないけれど。
 ただ逆に、八重歯を気にしないアジアには、欧米のような吸血人種の伝説は残っていない。つまり宗教的な意味で、下等な獣に見える八重歯が嫌われ、そこから吸血鬼の物語ができた可能性が高いのだ。当然そんなことは当麻も知っている筈。だのに、それでも吸血鬼の存在を考えるのは何故なんだ、と征士は真面目に尋ねているのだが、
「じゃあ牙は退化したのかもな」
 当麻は意外にあっさり方向転換してしまった。その辺りについては柔軟に考えるしかない、だから一見ギャグのような推測も今はアリだ、と彼は思っているようだ。
「牙がなくなったからストローで吸うの?」
「俺に聞かれても困る。現代の吸血鬼がどんな姿なのかは、可能性で語るしかないんだ」
「嘘臭い可能性だなぁ〜」
 伸にはどうしても「ストロー説」が受け入れられないようで、恐らく冗談にしか聞こえていない。だが当麻にはそれなりに納得できる、現実の例を挙げることもできた。
「オセアニアには、他の動物の血を養分に生きる鳥がいる。鋭く尖った嘴が有効なんだ。もっと微細な生物なら、蚊だってストロー状の口をしてるだろ?」
 まあ細く尖った道具を使うのが、吸血行為に向いているのは確かなようだが。
 しかし、話があまりに突飛な方向に進むのを見て、牧場の婦人がそろそろと場を離れようとしていた。研究者として訪ねて来た集団が、悪さをするでもないだろうと踏んで、仕事に戻ろうと考えたようだ。
 すると、今の今まで議論に参加していた伸が、突然体を返して婦人を呼び止める。
「あの、すみません、あそこに置いてある物売ってもらえるんですか?」
「え、ええどうぞ、ご覧になって下さい」
「やった!」
 やはり彼には、吸血鬼が居るか居ないかなんて話より、珍しいチーズケーキの方が気になっていたようだ。勿論東京へ持ち帰るお土産としても話題になる。自称研究室のアイドルとしては、ネタ探しは何より大事なことかも知れなかった。
「どんな時でも己を忘れないな…」
 もう幾度目かは知らないが、当麻が呆れた溜息を漏らしながら言うと、
「ハハハ。変わらないな」
 と征士は笑った。ふと、そんなことが言えるのかと、当麻は征士の記憶を疑問に思ったが、敢えて口には出さないでいた。
 普段の生活の中で数時間会うのとは違う、こうして朝から晩まで共に過ごすことで、死んでいた記憶が蘇ることもあるかも知れない、と思った。



「よう。あれ?、柳生博士はいねぇのか?」
 昨日訪れた中華料理店を再び訪れると、まだ営業中だったせいか、厨房からオーナーの秀がすぐに声を掛けていた。急遽午前の予定を変更した当麻だが、三人がここに着いた時間はほぼ昨日の予定通りだ。
 午後二時少々前。ランチタイムがもうすぐ終わろうと言う頃だった。
「博士は他の用があって、今日は俺達だけなんだ。心許ないかも知れないが」
 と当麻が返すと、
「いやそんなことねぇけどよ。柳生博士も若いがあんたらも若いな」
「そうでもない、教授職と違って博士号は十代でも取れるからな」
「へぇ、そうなのか。おーい、遼、研究者の人が来たぞ〜」
 秀は小気味良い調子で応対して、一時奥に下がっていた遼を呼んだ。昨日話せた遼の方は、真面目で健康的な印象の青年だったが、店長である秀は見た目通り明るく快活な人物らしい。他にも従業員は居るが、取り敢えずこのふたりを見る分には、怪し気な雰囲気など感じようがない。
 と、秀が正面を向き直り、思い付いたように当麻に言った。
「あっ、その前に昼飯は済んでんのか?。俺らはこれからだが、今ならまだオーダーできるぜ?」
 なかなか商売上手でもある。もうあと五分程で店仕舞いするタイミング、本来は一時半でラストオーダーになるが、これから暫く滞在するであろうお客には、特別に注文を受けると言うのだ。まあ、最初からここで昼食にする予定だったので、当麻の返事は決まっていたけれど。
「ああ、済まない、頼む」
 すると横から即座に、
「僕はBランチでよろしく!」
「本日のおすすめ定食」
 と伸と征士の声が聞こえる。見れば既にランチメニューをテーブルに戻そうとしていた。昨日に増して素早いふたりの行動。否、この場合は店の営業時間を考え、モタモタするのは悪いと考えたからだった。
 そして当麻はひとり、
「ちょっ、ちょっと待ってくれ…」
 慌ててメニューを取り返し、優柔不断な頭をフル回転し始めた。研究の上で重要な決断をする際には、あれこれ迷う慎重さは大切な資質だが、こんな時ばかりは集団の足を引っ張る彼だ。さて、当麻は何秒で注文を決められるだろう、と、他のふたりは面白そうに見ていた。それも昔からの慣例のひとつだった。

 今、店の丸テーブルに着いているのは、やって来た三人と秀と遼。店のふたりは昼の賄い飯を食べながら、気楽な状態で話に参加してもらうことにした。
 何故か従業員ではない当麻も、炒飯の残りとザーサイを貰って食べている。結局彼はメニュー選びに三分費やし、プレッシャーに負けたのか、冷やしチャーシューメンしか頼まなかった。まだまだ胃袋には余裕があるようだ。
 因みに本日のおすすめ定食は、イカのXO醤炒めと麻婆豆腐、Bランチは白身魚の中華餡掛けと小龍包、蟹炒飯がメインだった。既に食事を終えている征士と伸は、今はお茶を啜りながら大人しくしている。
 そして、お裾分けの炒飯をある程度食べ終えたところで、
「今日聞きたいことはまず、柳生博士に相談を持ち掛けたのは何が切っ掛けだったのか、と言う話からだ」
 と、当麻は今日の聴き取りを開始した。
 彼の目の前で、やはり大方の料理を食べ尽くしていた秀が、最後に残ったレタスのスープを引き寄せながら返す。
「ああ、俺だな。えーと、切っ掛けはだなぁ、階段の柱にふん縛って遼を観察したからだな」
「七月の夜の話だな」
「そ。満月の夜におかしくなるのは確かみてぇなんだ。最初五月に気が付いて、それで後から、鶏小屋荒らしが満月の夜に起こるって聞いて、その事件を博士が研究してたから相談したんだ」
 そこまでは、既に聞いている話と食い違う点もなく、特に不明に思うこともないと、当麻は小さく頷きながら続ける。
「成程。その観察時の彼の様子を詳しく教えてくれ」
 すると秀の方も、炒飯を強請りに来た茶目っ気のある彼とは違い、今は真面目に仕事する相手の様子を覚って、確と思い出すことに専念しながら話した。
「うーん。見た目はそんなに変わんなかったんだよな。外に出たらどうなるか知らねぇが、急にソワソワ落ち着かなくなって、不安そうな顔になってただけだ。暴れたり大声出したりするかと思ったんだが。そんでしばらくして、冷や汗かいてるのが判った時には、人の話が聞こえなくなってたんだ」
「何時頃だった?」
「十二時過ぎた頃だ。それまでウトウト眠そうだったのに、急に目を開けたから驚いたぜ」
 確かに遼は、夕食後はすぐ眠くなってしまうと言っていた。それが十二時を回ると突然目を開け、不明な感情に揺さぶられ、遂にはトランス状態に陥ってしまうと言うのだから、それなりに深刻な話だと思う。
「それで明け方までその状態だったか。その前の月もそんな感じだったのか?」
「ああ。外から戻って来た後だから、どう変わってたのかは分かんねぇけど、何か心細い感じで立ってたぜ。ぜえぜえ言いながら」
 外に出た時には、何らかの激しい活動をしているらしく、息を荒くして戻って来ると言う。無意識下での人の行動については、別の分野である程度研究も進んでいるが、果たしてこのケースはどう見るのだろう。
「だが、満月の日以外はケロっとしている訳だな?」
「そうだ。正しくは満月の夜以外だ。昼間は何でもなかったんだぜ?」
 しかし何度聞いても、満月を切っ掛けにしている点は解らなかった。例え誰かに催眠術でも掛けられているとしても、肉眼で月を見る分には十四夜か十五夜か、勘違いすることも普通にあると思う。その日が満月であることを意識的に知らなければ、起こせる現象じゃないと当麻は改めて思う。
 だから、これは人智を越えた何かだと疑っているのだが。
「多分ないと思うが、天体観測が趣味だとか、毎日月を眺める習慣があるなんてことは…」
「ねぇな、俺も遼もそーゆーのは疎い方だ。たまには夜空を見ることもあるけどよ」
「観察した部屋からは月が見えるか?」
「いーや?、この奥の部屋は空が見えねぇんだ。窓は摺ガラスだし裏側向いてるしな」
 増々、人為的な操作でないことだけは、くっきりして来たような気がした。
「うーん…、目で見ることが問題じゃないようだな…」
 そこで当麻は軽く唸りながら腕を組み、一呼吸置くように考え始める。と、
「ホントに月に反応してるんだねぇ」
 これまでの会話に感心したように伸が言った。当麻からすると「今更何を」と言うところだ。
「質問中は黙ってろと言った筈だ」
「ああ、ごめん。増々狼男みたいだと思って」
 だが、全く何にも関心を示さないのではなく、昨日も遼に起こる現象については自ら意見した、伸の興味が僅かでも町の事件に向いていることは、当麻としては嬉しい状況だった。彼本人が言った通り、ブレーンの数は多い方が良いに決まっている。
「それにしても妙な現象だ。珊瑚の産卵じゃあるまいし」
 などと、少し休憩的な話題を挟みながら当麻は、時間を追うに連れ様々な事態が好転して行くのを感じていた。同行人達の意識に然り、昨夜何かアクシデントがあったような征士に然り。
 さて、ちょっとした気分転換の後、当麻は確認作業を再開した。
「で、それらの夜の出来事を君は憶えてないんだな?」
 と、今度は遼に向けて問い掛ける。彼は昨日よりはリラックスした様子で答えていた。
「はい」
「その他の日に月を見て何か思うこととか、ないか?」
「別に何も…、月について知ってることもそんなにないしな」
 まあ、「疎い」と言われた人物の返事としては妥当だった。天体や神話に関心のない一般人なら、地球の惑星であり、ほぼ一ヶ月で満ち欠けをし、潮の干満に関係があり、クレーターがあり、アポロ十一号が降り立った程度の認識だろうと当麻も思っていた。イメージだけなら砂漠やかぐや姫、兎の餅つきを連想する人も多いと思う。
 それはともかく、月を見ても特に何の感慨もないと言う、遼の発言はこれまでの議論を正に裏付けていた。吸血鬼かどうかはともかく、彼には何か人智を越えたものが秘められている、ような気がした。
 それを確認すると、今度は秀の方に向き直って、
「じゃあ五月と六月の話だ。彼が何処かから戻って来た時、衣服に何か付着していたとか、気になる点はなかったか?」
 と当麻は続ける。すると言われて思い出したように秀は言った。
「ああ、そう言や、店の裏の茶畑を通ったのは分かったんだ。お茶の葉っぱと、土とか蜘蛛の巣とか、そんなもんで汚れてたからよ」
 店の裏の小さな庭の先は、彼が言う通り茶畑が連なっている。テーマパークの緑地として植えられたもので、規模はごく小さいが、道路沿いに細く長く続いている。すぐ横の道路を通らず、わざわざ茶畑を通る行動も確かに妙だが、
「鶏小屋に行った形跡はないか…」
 その証拠が掴めない当麻は再び考え込んでいた。
 遼の異常行動については、紛れもなく満月に関係のあるものだ。そして事件も必ず満月の晩に起こる。だがその双方の繋がりは、今のところ証明できる要素が無い状態だ。結局柳生博士の唱える説しか、それらの関係性を示すものは無い。
 彼女の見せる自信だけが拠り所、と言うのではどうも心許ない。できれば今、博士が調べている薬瓶の一件が、確と何かを証明して欲しいと当麻は思う。
 するとその時、
「ああ良かった!、良い時間に間に合ったわね」
 店のドアが開いて、丁度当麻が考えていたその人が姿を現した。このままダラダラ事実確認を続けても、この店と事件の接点は見えて来ないだろうと、半ば諦めた時に嬉しい来客だった。
 何か良い知らせを、当麻は期待して博士の話が始まるのを待った。



つづく





コメント)話の中の時間がなかなか進まないけど、まあまあ順調に書けてます(^ ^;。この話は謎解きの方はあんまり期待しないで、彼等のやり取りを楽しんで読んでくれるといいかも。って、今頃書くことじゃないですね(苦笑)、スミマセヌ。
前のページに何もコメントできなかったのでしょうがない。このページもかなりはしょって短くしたんですが、それでも入り切らなかった部分は次に送りました。こうしてどんどん長くなって行くんだよね…(- -;。




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