嫌な感じのふたり
Paradise Lost
#3
大花月シリーズ7
パラダイス・ロスト



 煌々と照らしていた太陽が幾らか傾き始めている。 
 時の流れが遅いのは確かだが、それでも僅かずつ状況は変化している。
 地球の一日は、妖邪界ではほんの数時間と言うことになるが、実感として丸一日宴会を続けるのだから、数時間が経過した今、参加者の変化は著しいものがあった。始めは重苦しい空気を漂わせていた魔将達も、多少身構えてやって来た地上の五人も、今はそれぞれが穏やかな顔をして、楽に姿勢を崩して談笑していた。
 否、勿論その輪に加われない者もチラホラいたが、特に問題に関わっていない遼と当麻、妖邪界側では螺呪羅、朱天辺りは、何を気にすることなく大いに議論していた。特に、普段はそこまで話さない遼が、酒が入ったせいか酷く饒舌に捲し立てていた。いつもひとりで考え込んでいる姿が目に着く彼だが、本当は誰かに尋ねたい、或いは確かめたい疑問も多く持っているんだなと、当麻辺りは改めて知ったようだった。
 尚、秀はまだ料理を食べ続けていたが、その内そこに加わろうと、盛り上がりを見せる議論には耳を傾けていた。
 一方、この度発覚した問題に深く関わる者達、当事者と言える者達は、落ち着いた様子ではあったが、まだ場に残る微妙な空気を感じているようだった。誰もが率先して口を開こうとしない、やや困った状況が続く中、ひとり伸は、招待された席だと言うのに珍しくヤケを起こして、勧められるまま次々酒杯を空け、今は座敷の隅で横になって寝てしまった。まあ、リラックスしているのは確かなようだけれど。
 それにしても珍しい。例え相手がよく知る魔将達でも、公式と言える場でこんな態度を取る伸を初めて見た。と征士は酷く驚いていた。
 そこまで不貞腐れる程、偽水滸とそれに関わる現状が気に入らないのだろうか。否、勝手に複製を作られたのは征士の方で、今回は伸がどうと言う事件ではない筈だ。「自分とは関係ない」と言っておきながら、彼が偽者達に腹を立てているのは明白だった。何が彼をそうさせるのか、今のところ誰にも判らない。
 伸は今も昔も変わらず不可解だ、などと酒を口にしながら征士が考えていると、ふと前に座っていた偽光輪が席を立った。そして何をするかと思えば、障子越しの風に当たりながら寝ている伸の、傍に寄ってその顔をまじまじと眺めていた。
「さっきはあまり感じなかったが、確かによく似ているな」
 彼の行動を見ていた偽水滸は、嘗ての自分と同じような行動をしていることに、可笑しそうに笑って返す。
「そうだろ?。僕は前に確かめて来たんだよ、へその形から尻の形までみんな同じなんだよ、ククク」
 すると、
「見ても良いか?」
「止めた方がいいと思うよ、多分怒られるから。ねぇ?」
 偽光輪のとんでもない発言を耳に、一瞬冷やっとした征士。
「怒るに決まっている」
 尋ねられたままそう返して、それなりに物が判るようになった偽水滸にホッとした。そう、どちらかと言えば偽光輪の方が問題だ、と征士は改めて厄介な己の分身を思った。何故なら伸は元々大人しい性格だ。偽水滸が人間の中で生きる限り、人間に害を与えるとは思えない。だが光輪はそうとは言い切れないと、己をよく知る故に征士は心配だった。
 己のように、欲求を押さえる訓練もしていない、本質的な性格そのままに生きているとしたら、末恐ろしいことだと。
 しかし征士がシリアスに考えている傍で、
「でも何で怒るんだろうな?、着物なんていらない時はいらないのに」
 えっ?、と言うような言葉を偽水滸が続けていた。そして偽光輪も、
「そうだな、いらないな」
 と普通に相槌を打っていた。その理由はあまり聞きたくない。だが彼等の倫理基準を知りたいと思い、征士はこんな質問をしてみた。
「人間は何の為に服を着ていると思う?」
 すると意外にも、偽水滸は即座に答えていた。
「防寒の為だよ」
「…そうだな」
 簡単だが全く正しい答だと思ったので、征士は何も突っ込めなくなってしまった。それを見て隣に座る那唖挫が、
「納得してどうする」
 と嗜める。当然征士は、何か指導的な話をしようとしていたと誰もが見ていた。けれど、
「いや、確かに始めはそうだと聞いたからな」
 事実以上の説教などできる筈もないと、彼自身も拍子抜けな状況を表情にして、横に居る那唖挫には伝えた。全く意外なことに馬鹿ではない、少なくとも偽水滸は、教えられるまでもなく物の本質を見抜いているようだと。
 なので征士は、
「但し、服を着るのが普通になると、着ていないことが異常と看做される。人の社会はそう言うものだからだろう」
 話をもう一歩先に進め、文化人類学的なものに切り替えていた。恐らくその方が、今の偽者達の為にもなるだろうと思った。
 因みに人が衣服を纏うようになった理由は、防寒の他に防護の意味もある。他の哺乳類のような毛皮を捨てた為、表皮が傷付き易くなったからだ。と言っても古代文明が残した壁画等では、奴隷は服を着ていないこともある。国家が形成される時代には、一時的に衣服は権威の象徴となり、一般に廃れたこともあるようだ。
 ところで偽水滸も、
「でも始めっていつのこと?、僕は聞いたことないよ、那唖挫からも」
 と、征士の話から時系列の流れを考えていた。
「う〜ん…、恐らく一万年くらい前だ」
「一万年??、そんな昔のこと何で知ってるのさ?」
「七、八千年前には古代の集落があったと、学校の授業で聞いた憶えがある。そこから予測すると、」
 そこまでは、割とまともに会話できている感覚だったが、
「学校って何?」
「あ〜…」
 思わぬ箇所への質問に、やはり話の腰を折られる征士。「やはり」と言うのは、こうなりそうだと大体予想していたからだ。以前に会った時もそうだが、偽水滸は鎧に関わる知識は充分にあるものの、人として当たり前の知識に欠陥がある。だから新たに目にする物、耳にする事、他愛のない物事、何でも知りたがっているのだと。
 だが、そうした偽物達の事情に合わせ、その都度解説を挟むのは面倒過ぎる…。と、正直に渋い表情を見せた征士に、
「人が集って学問を習う場所だ。そう言えばまだ無い施設だな、ここには」
 那唖挫がそう助け舟を出していた。まあ、偽水滸が「那唖挫からも聞いてない」と言った手前、自分が出るべきだと思ったのだろう。するとその説明を耳に、
「へぇ、学問だってさ。学問をすればそう言うことが分かるんだ」
 新しい見識を得たことの、素直な喜びが偽水滸からは伝わって来た。返事から察するに、学問が何であるか正確には知らなさそうだが、言葉として聞いたことはあるようだった。
 質問した彼もそんなレベルだが、相槌を求められたもうひとりの反応は、
「学問…??」
 更に輪を掛けて判っていない、耳にしたこともないとの態度をありありと見せていた。
 その時、否、既に気になってはいたが。
 征士は同じ偽者であるふたりの落差を感じ、怒りのような、或いは落胆のような感情を掻き立てられていた。少なくとも偽水滸は最初に会った時から、人を欺く行動ができる賢さが見られた。それに比べ、図体ばかり立派な子供のような、己の分身が征士には苛立たしく思えて仕方ない。
 ある時点から分岐した存在なら、自身と全く関係のない人物とは言えない。心のある側面では家族のひとりを思うように、容認せざるを得ないとも感じている。ただ偽者本人の知識の枝葉が少ない所為で、己の根幹的な恥まで間接的に晒されている現状。それに気付く度に征士は愕然としているのだ。
 人間はあまり表に出したくない面をそれぞれ、何かしら持っているものだと思う。それを有りの侭に表してしまうから、生物として幼い偽鎧は厄介だった。ああ恐らく、伸が偽水滸を忌み嫌うのもそれが原因だ、と、征士はそこで理解したけれど。
 そして、
「どうでも良いのだが…」
 と、一応小声にして那唖挫に尋ねた。
「あぁ?」
「何故私はあんな唐変木なのだ」
 征士の、偽光輪に対する率直な印象を聞くと、那唖挫は特に悪びれもせず笑っていた。
「ハハハハ、そりゃ単純に年の違いだ。偽水滸は現れてからもう二年以上経つが、奴はまだ半年と少しってところでな」
 成程、発達の違いを指摘されれば、それだけで納得させられる話ではあったが、那唖挫は被害者とも言える征士に対し、もう少し彼等の背景を説明してくれた。
「奴等は姿形こそ瓜ふたつだが、何も知らぬ状態で現れるのだ。分かるのは言葉と己の特性くらいで、始めは生活行動さえ儘ならぬ。鎧の意識とはそう言うものかも知れんが、まあ、だからそれなりに教育が必要で、」
 そして那唖挫は向側のふたりを眺めながら、改めて呆れた顔をして見せた。
「しかし成功したとは言えんなぁ」
 否、ふたりにではなく己に呆れているのかも知れなかった。何故なら那唖挫がそう言い終えると、彼の隣で長く黙していた悪奴弥守が、征士に見える位置に身を乗り出して続けた。
「それも含め本当に俺は情けない…。何と言い訳もできぬ、済まなかった」
 那唖挫の場合はともかく。
 前例を見ながら、扱いの難しさを理解しなかった悪奴弥守は、無論迷惑な騒動の張本人であり、自らも深く傷付いているだろう。己の為に作った偽鎧が、全く思う通りにならなかったばかりか、下地となった本人をも不快にさせているのだから。ただ、悪奴弥守が身を縮めて恐れ入るほど、征士は彼を怒ってはいなかった。偶然だが、ここに来る前に偽者達に会ったのは、征士の理解の為に良い事だったようだ。
 悪奴弥守には可哀想なことだが、征士には偽者達の仲睦まじい在り方自体は、そこまで不快に感じていないからだ。偽光輪を見て、これが自分の一部と思われるのは腹立たしいが、偽鎧達がこの妖邪界で、彼等なりに幸福に生きているのは構わない、と今の征士には考えられていた。
 その理由は彼等が自ら話した通り、ふたりしか居ない世界は至極平和だと、傍目からでも解ったので。
 故に後から作られたのが光輪だったことも、今は幸運と思えるほどだった。
 彼等が出会ってすぐに親密になるのは自然な流れだ。それぞれ同じ個性でありながら、何の制約も受けず、内からの要求に素直に従って生きられている様は、恥知らずではあるが色々と羨ましい。地球の人間に生まれた以上そうも行かない…。
 征士にはそんな気持もあり、余計に悪奴弥守が不憫に映っていたのだが、
「まあ、全てお前達の所為ではないのだろう」
 と、この場は収めておいた。そう、偽鎧から再び何かが現れたことも、それが思惑通り育たないのも、誰が誰を想うことも時の巡り合わせだと思う。事件に於いて魔が差した人物は在れど、その結果に誰かが、多少なりとも満足を感じているのなら、失敗を責める必要もないと征士は思った。
 愚鈍な分身達だが、彼等は彼等のままで良い。
 ここは偽者達の本来居るべき場所ではないが、土地を追われた恋人達が必ずしも、その先不幸になる訳でもない。偽鎧達を見ていると、そんな奇妙な想像もできるのが面白かった。
「ねえねえ、もっと教えてよ。君は水滸とどんな話をするの?」
 そこに来て、魔将達との会話は終わったと見た偽水滸が、待ち構えていたように言った。
「どんな…?」
 流れとして唐突な内容だったので、征士は一瞬何を質問されたのかも判らなかった。確か直前までは、人が服を着る意味について議論していた筈だ。本当に何でも知りたがるな、と思いつつ、征士は偽者達に通じ易い言葉を探し始めた。
「どんなと言われても、日常的な他愛のない話しか…、いや趣味の話くらいはするか」
「趣味?、どんな趣味の話?」
「車とか」
 ところが、また意外な言葉に偽水滸は反応していた。
「車!?。車が趣味ってどう言う意味さ!?」
「は??」
 明らかに妙な顔をしている、偽水滸の困惑を見て取ると後から征士は気付く。そう言えば妖邪界には、人間界のような『車』は存在しないような…。
「ハハ、荷車のことじゃない。地上の車は妖邪船のようなもんだ」
 案の定、那唖挫がフォローした通りここで車と言えば、車輪の付いた道具一般を指すようだった。即ち荷物を乗せる貨車を想像していた偽水滸。無論明治以前の日本なら当たり前のことなので、征士もうっかりしていた。尚ここには馬車や牛車も存在しなかった。
「妖邪船?、…想像つかないな」
 聞いてもイメージが定まらないのは、偽水滸の無知の所為ではない。船と車では違い過ぎる。と彼の悩む様子を見ていると、征士はふと過去の出来事を思い出して言った。
「前に地上に来た時バスを見なかったか?、伸が乗って帰って来た」
「ああ…、四角い、バス?。あれが車なのか」
 その通り、偽水滸は柳生邸の近所で伸と入れ替わったのだから、バスを降りた伸を見た可能性があった。最初から待ち伏せしていたのなら尚更だ。そして漸く、
「車の一種だ。バスは勝手に運転できないが、自分で運転する車が私は好きだ」
 と、自分の趣味は何かと言うことを話せた征士だが、結局その後に続く質問を耳にすると、まともに答えるのが馬鹿馬鹿しくなってしまった。
「でも飛ばなかったよ?。妖邪船は何処にでも行けるけど?」
「…飛ばなくても道がある限り走れるんだ」
 相手がこのレベルでは、運転の楽しさなど解らないだろうと思った。ただ、
「へぇ、じゃあ、一緒に遠くに行ったりするの?」
 車が移動手段であることは判ってくれたようだ。そして偽水滸は、それに繋がる質問を更に続けるのだった。
「まあ、たまには」
「どんな所に行くの?」
 今度は話が止まらないよう征士は考える。実際の行き先は、市街地への買物や行楽の頻度が高いが、複合的な商業施設は説明に困る。なので単純な場所を選び出して伝えた。
「今のところ海だな」
 生活とは関係なく比較的多く行く場所、としては嘘ではない。征士は自分で良い回答だと思ったが、偽水滸の返事はまたもや予想外だった。
「海って何だい?」
「…ここは海もないのか?」
 再び返す言葉に詰まると、征士はもう即座に横の那唖挫に尋ねていた。
「ない。考えてみれば奇妙だな、船はあれども海はなし。ここは何処まで行っても地続きだ」
 無論船は、煩悩京の人工運河や川に浮かんでいるので、一見して奇妙とは言えない。ただ本来の川は山から海へと注ぐもの、海は暖められ雲になり、また雨となって山に降りて来るもの。そんな地球の理屈とは違う場所、妖邪界は確かに奇妙と言える面がある。
 ここに長く暮らしながらも、呆れたようにそう語る那唖挫の弁を聞くと、征士もまた別の発見をしていた。半ば強制的に閉じ込められ、数百年も妖邪界で過ごして来た魔将達ですら、常に想う、常に比べている、最も理想的な環境は地球なのだと。勿論元は皆同じ日本の民と言えるが、今の彼等にどれ程の記憶が残っているだろう?。今の地上に過去と同じ風景があるだろうか?。それを思うと、彼等の境遇の切なさが改めて知れるようだった。
 阿羅醐との戦いが終わった直後、彼等が自ら遠巻きに見ていることを選択した理由は、当時は誰も深く考えなかった。同じ日本人である筈の、彼等の故郷が遠い過去に失われていることに、今更気付いたのは申し訳ないことだ。そう、妖邪界は故郷ではないが、今現在の地球よりは馴染みのある土地となってしまった。つまり最低限の選択だったことを、今征士は理解したところだ。
 まるで浦島太郎のようだ。と同時に不思議なことに、偽鎧達の境遇にも重なっているような気がした。今も昔もこの妖邪界は、勝手の違う世界から人が集まる場所のようだと。
 それ故に、
「困ったな…、どう説明すれば良いのだ」
 仮にも水滸の鎧だと言うのに、海を知らない偽者は可哀想な気もした。彼については魔将達に思うような感傷はないが、さて、何とか良い説明をと思う。
 すると今度は悪奴弥守が、相手に通じそうな例えで助けてくれた。
「池なら分かるだろ、広大な水溜りのようなもんだ」
「すごく広い池ってこと?、じゃあ水のある所なんだね?」
 おや、やはり偽水滸はそんな話題を喜ぶようだ。
「そう、向こう岸が見えぬ程広く、山の高さより深い場所もあり…」
 しかし、征士が敢えて判り易く説明する途中で、偽水滸は不思議な理解をして頷いて見せる。
「うん、分かるよ」
「分かる?」
「水滸がそこに行きたがるんだろ?。それは分かる」
 それはそうだけれども。
「他には?。他の趣味の話は?」
 またすぐに話を切り替えて来たので、結局何が聞きたいのか征士は混乱させられていた。海に関心を示したかと思えば、触りだけ聞いて「もういい」と言う態度。それまでに出た話題も、何についても大した興味はなさそうに思えた。なら何故彼は聞きたがるのだろう?。
「他に…。う〜ん、歴史に関する話はよく出ると思うが」
「歴史って昔の話のこと?」
 流石にその言葉は知っていたようだ。妖邪界にも書物は数々残されているので、手に取ったことくらいはあるのだろう。
「そうだ。本などから知った様々な場所の昔の話」
 だが、歴史書を紐解く面白さは知らなそうだった。
「昔の話をしてどうすんの??。それが好きなの?、面白い?」
 訳が判らないと言う顔をして、そんな言葉を列ねる偽水滸を見ると、那唖挫が「教育が必要」と言った意味が、よくよく解る征士だった。
 普通、子供でもそんな質問はしないだろう。なまじ頭が大人に近い分、先に価値や損得を知りたがるのかも知れない。また偽者達は正しく人間と言えないこともあり、人間の歴史が彼等に取って、重要なものに思えない面もあるだろう。人間以上の力を備えているらしき存在だ。
 けれども、
「面白いとも。面白いだけでなく勉強になる。是非お勧めするよ」
 征士はとりわけ真面目な顔を作ってそう続けた。
「ふ〜ん?」
 今は解らないかも知れないが、彼等がこの先長くここの住人として生きるなら、せめて人間の社会に関れるようになってほしい、と征士は考えたからだ。
 分身達に対する親心も多少はある。無知を晒している状態を良いと思う筈もなく、それに因って迷惑者で在り続けるのも切ない。だがそれより何より人間への理解と、この妖邪界への調和が必要だと思った。恐らく魔将達もそうなってくれるよう望んでいる筈だ。そして彼等がそれを果たせた時には、自分も伸も、もう少し割り切って彼等を受け入れられるだろう、と思った。
 生まれて来たものは仕方がない、存在を否定したい訳ではない。ただ彼等が人間と同等に慎ましい生命と認められ、この世界に愛されるようにと願う…。
「他にはどんな趣味があるの?」
 しかし飽きもせず偽水滸は質問を繰り返す。流石に堪らなくなって征士は問い返した。
「何故そんなに聞きたがるんだ!?」
「何故って、うーん…?」
 すると、征士の態度の変化は特に気にせず、また不思議な様子で偽水滸は笑っていた。
 会話の間は終始楽し気だった。否、宴の場に向かう道を歩いていた時から、彼は妙に嬉しそうな顔をして話し掛けて来た。過去に柳生邸に来た時とは違う、何故違うのかも判断がつかなかった。だが征士は漸く彼の目的意識を知ることになった。
「僕らと同じように、君らも仲良しだったらいいと思うからだよ」
「何故…?」
「さあ?、別に理由はないんだ。ただ離れた所に居ても、君らは僕らの元だから、いつも同じだったらいいと思うだけさ」
 つまり、そうだと判る片鱗を窺うのが楽しかったのか。鏡の向こうに同じものが映っていることに、安堵する気持ならまだ解るが、と征士は額に手を遣る。
「そう言うものか…?」
「俺に聞かれてもな」
 と那唖挫は素っ気なく返した。勿論当事者でなければ考えもしないことだろう。けれど、
「分からぬでもないが…」
 何故か悪奴弥守はそう言った。
「おやまあ。流石によく偽鎧を観察して来たと見える」
「うるせぇ」
 那唖挫の嫌味に対し、悪奴弥守は酒宴の席らしく漫才のような一言で収めたが。もしかしたら本当に彼は、偽者達を最も理解しているのかも知れなかった。何故なら偽光輪は彼の住処に居て、始めは自由に歩き回ることもできなかった。ある程度まともな人格が形成されるまで、他人の目に触れないようにされていたのだ。しかし自由に歩き回っていた、もうひとりの偽鎧がそれを見付けてしまった。
 以降、偽水滸と偽光輪の交流は主に悪奴弥守の館で続いた為、彼はふたりのことを最もよく知っている、と言う流れである。本当に、最も不憫なのは悪奴弥守で間違いなかった。
 だがそんな間抜けな話を口に出す筈もない。
「立場が反対ならそう思うのかも知れぬ」
 と、理解し難い状態を征士は溜息混じりに結んだ。すると偽水滸は、
「そんなことないよ、僕の気持は水滸の気持と同じだよ!。ねぇ?」
 何故かむきになって、始めに話した通りだと言い張った。そして習慣のように、もうひとりの偽者に同意を求めていたが。
 味方に同調しなければならない場面で、偽光輪の方は相変わらず、議論より他の事に関心が向いているようだった。
「水滸はスイスイと同じ寝顔をしているな」
「だからそう言ってるじゃないか!」
 偽水滸でさえ多少呆れている。このマイペース振りは正に客観的に見た自分だと、己の欠点を見せられる度苛立つような、恥じ入るような堪らない気分になる征士。
 だが、こうして有りの侭の様子を見るにつけ、本意ではないが、征士の彼等に対する理解は進んで行った。最初はとても認められるものじゃないと感じたが、今改めて「自分は水滸と同じだ」と言われた時、不思議と判る感覚が存在することに気付いた。何故なら征士は確かに、今の偽光輪の気持が解るからだ。
 他の者が何をしていようと、何を考えていようと構わない。理論的な幸福を考えたい者は好きにすればいい。自分はただ自分に取って価値あるものを見ていたい。
 横になったままの伸を観察している、偽光輪はとても穏やかな顔をしていた。そうもし立場が逆の場面だったら、自分も同じことをしただろうと征士は思う。己と同じ顔をした人間を受け入れるのは難しいが、気の休まる対象が複数になることはあまり問題がない。いい加減な考え方だが、それがふたりの光輪の答だと思った。
「それよりさ、他には?、他にどんな話をするの?」
「あ〜…」
 否、質問責めに遭っている今は、あまり気の休まる相手には思えないけれど。
 ただ君が、君なりに幸福であればいいと思う。



「本当に同じだな…」
 周囲に慌ただしさが感じられるようになった頃、伸が目を覚まして半身を起こすと、目の前に居た征士、もとい偽光輪がしみじみとそう言った。一瞬何のことかと固まっていると、
「酷い寝癖だな、すっかり片方に寄って」
 その後ろから那唖挫が笑いながら見ていた。ああそうか、結構長く横になっていたせいで、下にしていた側がぺしゃんこになってるんだな、と気付くと、自ずと偽光輪の言葉も理解できた。
 しかしいつから見ていたんだろう?。今ここに来たって感じじゃない。まだぼんやりした頭でそんなことを考えながら、伸は応急処置的に髪を撫で付けている。他の者達は皆席を立って、帰り支度や挨拶行動を始めているが、気にせずそこから外れているところを見ると、何だかとても彼らしいと思えた。
 偽水滸に比べると、今のところ偽光輪は言葉も少なく大人しい。否、自分と征士を比べても彼は物静かと言えるだろう。そして彼等ふたりのように、静かに見守ってくれる存在なら疎ましく感じないものだと、伸は今気付いたところだ。
 他の偽鎧がどれだけ増えようと、不快に感じるのは同族嫌悪を抱く対象のみかも知れない。特に今の偽光輪については、魔将達には厄介な存在でも、征士以外の仲間達は誰も問題にしていないようだった。元の性質の為せる業か、多少不可解な事実にも伸は感じたが、まあそんな現状が判っただけでも、この宴席に参加した意味はあっただろう。全てに怒りや苛立ちを感じなくて済む。
 そしてどうせなら後から現れた彼が、あの下品でおしゃべりな偽水滸を大人しくさせてほしい、と伸は願った。僕等と彼等は違った存在だけれど、同じ鎧の主として、それくらいは望んでもいい筈だと。
「まあまあ、水滸殿はお帰りになれますか?」
 ゆらりと立ち上がった伸を見て迦遊羅がそう声を掛ける。確かにまだ、全くアルコールが抜けた感じはしないが、意識が定まらないとか、具合が悪い訳でもなかった。
「ああ…、別に大丈夫だよ」
 と伸が返すと、座敷の奥からまともな当麻の声が聞こえた。
「じゃあ遼だけだな、もしかしたら泊まって行くのは」
「ん…?」
 これまでの経験から、征士と秀は相当飲んでもあまり変わらない、自分と当麻はそこまで飲めないから、適当に量をセーブしている。ただ遼については、かなり飲めるようではあるが未知数の面があって、伸の脳裏には俄な不安が過った。
 寝ている間に大暴れしていた訳じゃないだろうな…?。
「帰れるぞ…、俺は…」
 しかし遼は、何とか自力で立ち上がってそう言った。かなり酔っているようではあるが、態度が荒れていると言うほどでもなかった。伸は知らないことだが、彼はこの場で朱天や迦遊羅と、とても真面目な議論に盛り上がっていた。即ち今後の地球と妖邪界、残された鎧についてのことなど。しばしば横から当麻も加わって、非常に有意義な時間を過ごせていたようだ。
 ただ本人の予想以上に酒が進んでいた。まるで戦闘後の消耗状態のような遼を見て、
「無理しなくていいんだぞ?、取って食われる訳じゃねぇし、ハハハ!」
 只管テンションの高い秀が笑う。続けて朱天も、
『心配だな。今の私に力がないのは何とも恨めしい』
 と遼に声を掛けていた。
 今は実体を持たぬ朱天童子。彼は日頃からそうした、目の前で苦しむ者を助けられない不条理を感じているようだ。魂のみが蘇っても大したことはできない、さして幸福ではないと、彼はこの席で元戦士達に話してくれたが、遼はその言葉を確と思い出したように、
「大丈夫、だ」
 と、笑顔を作って返した。それだけ今日と言う機会を有難く感じている、彼の気持の表れだった。今はもう迦雄須のような指導者もなく、迷うことは自ら解決しなければならない。しかし仲間達で相談することはあれど、地球の外から来た鎧や、地球の外の流れを把握することは誰もできない。そんな時だからこそ、妖邪界の面々と話し合うことができて良かった。遼はそう感じているに違いなかった。
 そんな、清々しい遣り取りも存在しながら、座敷のまた別の片隅では、
「本当に済まなかった…。落し前をつけたければ何なりと申せ、何でも応じよう。無論今後何かあれば責任は取るつもりだ…」
 改めて征士に、深々と頭を下げる悪奴弥守の姿があった。だがもうここまで来て、謝罪されても的外れに聞こえた征士。
「ああ、もういい…。事実を知る程に、お主らの方が災難だと感じるしな」
「まあな…」
 勝手に己のコピーが作られていた。それは現実問題として大事件ではあるが、偽鎧は基本的に妖邪界の住人なのだ。征士の普段の生活に害を為す訳でもない。またそのコピーが奴隷のように虐げられていることも、或いは他の住人に危害を加えている事実も、今のところない。幼児並みの社会性しか持たないとしても、彼には幸い親身になってくれる指導者もいる。
 未熟な鎧が暴走する可能性を、過去の己を考え不安に思う気持はあるが、偽光輪の傍に常に偽水滸が居るなら、大丈夫だろう。
 そんな現状を知ると征士は、魔将達が感じる程の問題には思えなくなっていた。
 災難だと言ったのは、つまり罪の意識が魔将達だけに残ることだった。まあそれを肝に命じて、金輪際とんでもない事件を起こさないでくれれば幸いだ。他の者は誰も、自分も伸も、仲間達も、まして偽者達も、この事件に因って不幸になった訳ではない。それなら寧ろ迦遊羅や魔将達の為に、今後の妖邪界の為に少しでも役に立つものになればいい、と征士は思った。
「じゃあね、また来てね光輪!。もっと聞きたいことが色々あるんだよ!」
 更に帰り際になると、偽水滸は相変わらずの調子で寄って来て、征士の服を掴んで言った。
「聞きたいこと…」
 もう流石に、立続けの質問をされるのは懲り懲りだったが、征士はそんな偽水滸の、屈託のない様子は嫌いではなかった。と言うより伸が最も素直な状態を表している、と思えたからだ。
 ある意味で自分達の不可能を可能にしている、生きて成長する夢を見ているようだ。
 否、双方がそんな風に見ているのかも知れない。と思いながら、
「仲良くな」
 征士は自分でも思い掛けない言葉を口にしていた。
 初めてそんなことを言われた所為か、偽水滸は酷く嬉しそうに破顔して返す。
「ありがとう!」
 そんなシンプルな反応をするところは全く憎めない、などと思っていると、その後ろから偽光輪は、征士に向けてこんなことを言った。
「やっと笑ったな」
 どちらかと言うと、表情に乏しいことを指摘したかったのは征士だが、最後の最後まで己の欠点を確認するに至った。結局どちらも周りの為に表情を作らない、と言うだけのようだ。
 否そんな痛い経験も、滅多に味わえない幸運と受け取っておくべきか。

 長く鈍い渡りを続けていた日の旅が、漸くひとつの周期を終えようとしていた。仄明るいばかりの昼間が過ぎ、今は藤の花のような薄紅色が空を漂っていた。
 今日は暮れて行くけれど、いつかまた腹を割って話せる日があればいい。当初の印象から止まったままでいた、魔将達とこの世界への理解が、今後は双方の安定に繋がればいいと、誰もが希望的に感じた煩悩京のひと時だった。数々の騒動、事件が切っ掛けではあったけれど、同じ歴史を知る同志達が常に、すぐ近くの空間に居てくれる事実は頼もしい。正に鎧戦士を見守る神の思し召しかも知れない、と信じることもできたこの日。
 だから今日までの、多少の迷惑は御愛嬌に済ませてあげようと思った。
 そんなことより大切な絆があると、それぞれのレベルで知った五人は満足して帰路に着いた。
 後の妖邪界の平和的復興を祈りながら。



「まぁぁぁ〜!、とにかく遼を二階に運んであげなさいっ!」
「へーい♪」
 五人がひとまず柳生邸に戻ると、玄関先でナスティが叫びに近い声を上げる。答えた秀ですら、心配ではないが明らかに赤い顔をしていた。
 その後ろ、征士と当麻に両肩を抱えられて帰還した遼は、朦朧とした頭を何とか集中して、どうにかこうにか地上に戻って来られた。しかし到着地点からここまでは、仲間の手を借りなければ歩くことも侭ならなかった。積もる話に花を咲かせる内に、随分と深酒をしていたようだ。
「も〜、あれ程飲み過ぎちゃ駄目って言ったのに!。みんなは大丈夫なの?」
 そう、鎧戦士は卒業したと言っても、彼等はまだ皆高校生だ。ナスティは酒が並びそうな場面がある度、毎度神経を尖らせているのだが。
「へーきへーき!。今から電車乗って横浜にだって帰れるぜ?」
 折からの明るい調子で、秀が靴を脱ぎ散らかしながら返すと、
「絶対やめてよ!?。こんなお酒の匂いプンプンさせてちゃ私が叱られるわ!」
「あっ、そうか…」
 途端に血相を変えたナスティ。それを見て漸く彼も現実を理解する。まあそんな切っ掛けもなければ、直ちに平常に戻ることも難しかっただろう。ほぼ丸一日、現実とも非現実とも言えぬ世界で、浮世離れした宴の席を楽しんでいた。特に秀や遼には煩わしい物事もなく、只管もてなしを受けるだけの気楽な立場だ。起きがけの夢と現の間を行き交う、心地良さが延々続いていたようなものだった。
 しかしそうではなかった伸も、
「僕ももう寝るから…。お休み…」
 最後に玄関に入って来て、そのまま二階の部屋へ直行していた。
「まあ、伸までどうしたの?、珍しいわね」
 見た感じ、秀のような陽気さは感じられないし、具合が悪いようにも見えない。遼があの状態だと言うのに、伸があまり気にしていないのは奇妙だ、とナスティは率直に感じていた。すると既にダイニングに居た当麻が、
「色々あったもんでね。これナスティに土産だってさ」
 テーブルの上に大きな包みを置いて言った。妖邪界へは登れない彼女の為に、迦遊羅が持たせてくれたものだった。
「ありがとう。…それで話は聞けたの?、疑問は解決した?」
 ナスティはそれを受け取ると、早速と言うように風呂敷包みを解きながら、史上初の親睦会の結果を当麻に尋ねていた。一応説明しておくが、妖邪界からまともな贈り物を貰ったのは初めてなので、ナスティもお土産に興味津々なのだ。普段なら頂き物をガツガツ開けたりはしないけれど。
 そんな彼女の楽し気な様子を見ながら、しかし期待される明瞭な答が浮かばない当麻。長々と滞在した割に、白黒ついた物事は実は少なかった。
「う〜ん…。何とも言えないな」
 椅子に掛けて、彼が考え始める仕種を見せると、ナスティは作業の手を止めて言った。
「じゃあ行っても何にもならなかったの?」
「いやそうじゃない。最近起きた騒動は偽鎧が原因にあって、向こうがその扱いに困ってる現状も分かった。だが偽鎧は自然発生したもので、俺達にも魔将達にもどうにもできないんだ」
「そう言えば前に偽水滸が来たらしいけど、それがそんなに問題なの?」
 残念ながらナスティは、これまで一度も偽者に対面したことがない。故に何が問題なのか想像するのは難しかった。だが実体を知ろうと知るまいと、確実に言える事もあると当麻は続けた。
「ま、時間の問題だろう。煩悩京の復興が進む頃には、あらゆる物事が安定して来ると俺は思う。これまでの事件についても、魔将達が度々『魔が差した』の何だの言うのは、彼等が心の拠り所を失ってることが原因に思えたんだ。同時に偽鎧もまだ生まれたばかりで不安定だ。だから時間が経つ程驚かされる事は減るだろう、と考えている」
 当麻の見解が正しいかどうか、事実そうなって行くかどうかは判らないけれど。
 ただ様々な可能性の中で、こうであってほしいと誰もが願う筋書きだった。否、正直な心を通わせる時間を通して、当麻にはどうしても理解できないことがあった。魔将達は誰もがそこまで見通しの悪い人物ではない。浅学な者はいないし、基本的に皆真面目で実直な印象だった。少なくとも仲間の内の誰かさんより、おっちょこちょいだとは思えなかったのだ。
 不真面目な面がないから魔が差す、と言えなくもないが、そんな彼等だから当麻は、真の意味で罪はないと言うことにしておきたくなった。明瞭な結論が出なくとも、どうせ彼等を心の底から恨む者は居ないだろう。ならば自分達の今後の為に、彼等と妖邪界の存在を見守りたくなった。
「そう、それならいいんだけど…、あら美味しそう!」
 ナスティも信頼を置く当麻の意見に、それなりに納得してくれたようだ。そして重箱の蓋を開けると現れた、見慣れぬお祝い料理に目を輝かせていた。雑穀の団子、鹿肉、猪肉、干鮑や干海老、鮒や鯉の寿司など、恐らく彼女の場合食べること以上に、史料的な面白さを喜んでいる筈だ。
 丁度そこへ二階から秀が降りて来て、
「おおナスティ!、その黄色いヤツもんの凄く旨いんだぜ!」
 遠目からでも重箱の中身を覚って言った。
「何か色んな味がして、口ン中でトロトロって感じが…痛てっ!」
「お前はもう食ったんだからいいんだよ。水でも飲んどけ」
「ちぇーっ」
 宴会の席で三人前は猶に食べて来たと言うのに、秀はまだ手を出そうとしていた。当麻はすかさずそれを嗜めたが、秀の行儀の悪さはまあいつものことだった。ナスティの方は余裕のある微笑みを向けて言った。
「フフフフ、沢山あるから、慌てないで明日にしましょ」
 何にせよ五人が無事に戻って来て、彼等が現状に納得できたならそれが一番嬉しい、と彼女は表したのかも知れなかった。

 そうなのだ。結局自分以外の誰も傷付かず、みんなが現状を納得して受け止めているなら、自分が少し不快に思うくらい構わないことだ。
 過去はずっとそうしてやって来たのに、今は堪えられない。今だけが堪えられない。
 何故なんだろう?、とベッドの上で微睡みながら伸が考えていると、不意にドアノブが回る掠れた音を聞き取った。静かにドアが開き、そこに征士が立っているのを伸は見ていた。彼は秀と共に遼を二階へ上がらせて、適当にベッドに押し込んで来た。そのついでに様子を見に来たようだった。
 今更もう、議論したい用件も何もなかったけれど、伸は言った。
「僕らはホント不幸かも知れない」
 するとそれを聞いて征士も、
「そうだな」
 と自嘲気味に笑って返した。少なくとも同じことを考えている、偽鎧を取り巻く一連の問題を知った上で、同じ立場から同じ気持を共有している。征士の様子からそれを知ると、伸はいつまでも考え事をするのを止められた。
 手の届かぬ楽園は幻だからこそ憧れていられる。
 現実にそれを目の前にしては、自分達の境遇を呪いたくもなる。
 何故僕らは法にがんじがらめにされ、思うように生きられないのだろう?。
 けれど、そんな僕らに見合った未来もあるかも知れない、と眠りに入りながら伸は思った。それこそ魔将達や、衰えた妖邪界にもそれなりの未来があるように。









コメント)な、何とか終わった、と言う感じです。後半に入ってから花粉症に加え、原因不明の腰痛が始まって、ちょっと集中できなくなってしまったのが、文章に現れてたらすみません(> <)。
 尚お土産の中身(食品)は、少し前に「万葉集の世界」と言う番組(だったかな?)で、紹介されていた古代食をちょっと参考にしました。当時のお酒はドロっとした濁り酒だそうです。
 さて、このシリーズももうあと一話で完結です。大団円、と言う感じにまとまるといいんだけど、難しいかな〜(苦笑)。




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