空港のネオン
In Dulci Jubilo
イン・ドゥルチ・ジュビロ



『だから、明日のことまで思い悩むな。
 明日のことは明日自らが思い悩む。
 その日の苦労はその日だけで十分である。』 マタイによる福音書より



 机の前に貼られたカレンダーを見て、
「もうクリスマスか…」
 伸は誰にともなく呟いた。明後日からの期末試験が終わると、試験休みの間にクリスマスとクリスマスイヴがやって来る。しかし、特別何かを待っている訳でもないのに、不思議と楽しみに思う気持があるのは、彼自身にも解らなかった。
 江戸から幕末の情緒を残す萩の町。彼の住むこの穏やかな町にも、流石に今の時期は、所々に華やかな装飾が見られるようになる。店頭を彩る電飾やモール、少し和風に飾られた樅やポインセチアの鉢、この時期だけの特別な、クリスマス模様を入れた萩焼の商品など。大都市に比べると派手さはないが、町に調和した華やぎが目を楽しませている。
 日常の中で、意識して見ようとしなくとも、自然に目に入る情報が心境を変えて行くのだろうか。伸は右手に鉛筆を持ち、注意深く教科書に目を走らせながらも、自分の身の回りに常に、赤や緑のオーナメント、金銀の装飾が取り巻いているような気がしていた。
 古来、日本の冬は暗く閉ざされた季節だった。殊に日本海側は、黒々とした針葉樹に焼き杉の黒い町並み、海さえ鉄色になって、景色一面モノトーンに埋もれてしまう。海外から輸入された文化の内、クリスマスがこれほど定着したのは、そんな日本の冬のイメージを明るく塗り替えたことが、大きな要因ではないかと思う。現に日本中の人々が、この時期は意味もなく浮き足立って見える。年末の慌ただしい中だと言うのに。
 そして例に漏れず、伸に取ってもこのイベントは、何かと明るい話題だった。
 子供の頃は、姉弟にプレゼントを持って来てくれる、父親が帰宅するのを毎年楽しみに待っていた。夕食のテーブルには毎年違うクリスマスケーキと、当時は珍しかったスタッフドチキンや、七面鳥の皿が乗っていた。近所の子供や小学校の友達を招いて、持ち寄りパーティをしたこともあった。お菓子の入った長靴やクラッカー、銀紙に包まれたクリスマス製品の、賑やかな色合いが強く記憶に残る。
 そんな昭和後期の記憶から、元号も改まった現在に至り、日本の年末は更に明るく豪勢になっている。もうプレゼントを待ちわびる子供ではないが、何でもない自分の身にも、ちょっとした楽しい事がありそうだと期待させる、十二月の楽し気な町並み…。
 と、考えるともなく考えていた伸は、ふと、再び壁のカレンダーに視線を向けた。
「そう言えば、クリスマスパーティはしたことないな」
 無論彼が思い出したのは、長期に渡り戦場を共にした仲間達のことだ。
 その他の理由なら、パーティらしき事は多数思い出に残っている。多くはナスティが中心になって、誰かの誕生日にかこつけた労い会のようなもの。その他も、無理矢理何か理由を付けては、集まって意味もなく騒いでいた。否、全く意味がなかった訳ではないが、この不思議な縁を持つ五人のメンバーで集まるのが、何より楽しかったのだ。
 人並外れた苦労を共にした仲間だから、人並み以上の楽しみや幸福を共にできる。誰もが無意識にそうと気付いていた。だから事ある毎に集まっていたのだが。
 ただ、このクリスマスと言う行事だけは、集合するのが難しい時期だった。中学の間は試験休みが存在しないし、本州の多くの学校は、クリスマスの当日前後に終業式を行う。世の為とは言え、しばしば学校を休んで来た面々は、そうした区切りの行事を欠席するのは、かなり気が引けることでもあった。
 そして一週間もすればお正月である。正月には毎年、柳生邸の新年会に参加する習慣ができた為、その直前に集れないのは仕方ないことだった。
 本当は、流してしまうのは勿体無い一大イベントなのに…。
 ただそこで、
「そんなこと考えてる場合じゃないか」
 と伸は思い直していた。何しろ来年、年が明けて一月、二月には大学受験が控える身なのだ。正月でさえそうのんびりしてはいられない。そもそも今、その為に勉強している最中なのに、うっかり余計なことを思い付いてしまった。と。
 そしてまた、机上に広げられた教科書に目を落としつつ、
『みんなは特に重要な年じゃないのに、いっつもひとりでズレてるよな…』
 伸は今更な不満を胸に呟いていた。
 そう、もし他の四人と同じ学年だったなら、全員のスケジュールをそこまで気にせずに済んだ。忙しい時期も余裕がある時期も、皆同じサイクルで回って来るからだ。いつもいつも、自分が足並を乱している気がしてならない。皆に済まないと言うより、同じ時間を共有できない悔しさばかり感じている。
 だからと言って、そんな事の為に故意に落第する訳にもいかない。万一そんな決断をすれば、それこそ仲間達に示しがつかない。子供染みた行動だと暗に避難されることだろう…。
 結局常に不満に思うばかりで、どうにもできない現実だった。なので最近の伸は、学年だの学校行事だの、気にせずいられる年に早くなりたいと、事ある毎に感じるようになっていた。恐らく再来年の春、他の四人の進路が決定するまでの辛抱だと思う。そこまで長い時間ではない筈だ。
 けれど、
「う〜ん…」
 一度は勉強する姿勢に戻したものの、伸はそこでまた、机に向けていた顔を上げてしまった。何かが気になり始めると、なかなかそれを拭えないのが彼の性分だ。
『折角気が付いたのに勿体無いなぁ』
 全員が一列に揃うまでの間に、十二月は二度通り過ぎてしまう。大体、あまり大人になってしまうと、素直に楽しめないイベントかも知れない。
『多分みんな試験休みの筈だし』
 その点だけは、今は同じ高校生だから測ることができる。試験休みの間なら、まず旅行等には出ない筈だから、本来は集まるのにも都合が良い。
『来年はみんなが受験だから絶対無理だし』
 自分より心配のない者も居るが、気を遣わずにいられないメンバーが居る以上、これはどうしようもない。
『一日、二日勉強しなかったからって、そこまで結果が変わるもんじゃないと思うけど』
 自分なら、そう判断することもできるけれど…。
 そこで伸はひとつの結論に達していた。
「うん。そうだ、要は僕の都合が良ければいいんだ」
 そして、そこまで考えを進めた上で漸く、何らかの行動に出ようと立ち上がった。とにかく今の気持を整理しないことには、勉強も手に付かなかった。
「電話してみよう」
 何故そんなに、彼の心が踊り逸るのかは知れないが。

 受話器の向こうからは最早聞き慣れた、やや面倒臭そうな声が聞こえた。電話機の前で、誰に相談するかを暫し考え、結局いつも通り何でも話し易い相手を伸は選んだ。
『あ〜、もしもし?』
「秀、僕だよ。あのさ、ちょっと相談があるんだけど…」
 そして早速、頭に巡らせていた年末のアイディアを話し始める。今は自分が気を遣われる立場だが、自分に問題がないなら、否寧ろ、自分が集まりたがっていると伝えれば、皆は了解してくれるのではないかと伸は思った。
 幾ら受験を控えていると言っても、家に缶詰めになるのが大事な訳じゃない。それより本人の気の充実が大切だ、と、判ってくれていると思うが…。
 しかし話を聞いた秀の反応は、あまり芳しいものではなかった。
『え〜?。…いやぁ、どうだろな…』
 パーティ、宴会、折々の行事、集まって騒ぐことが大好きな秀ではあるが、やはり時期的に思う所があるようだった。
「無理かなぁ?」
『あー、俺は別にいんだけどよ?。元々家じゃ毎年大パーティだし。だがなぁ…、みんな反対すんじゃねぇの?』
「…う〜ん…」
 秀は電話越しに聞こえて来る、伸の期待感や浮いた感情を受けながらも、落ち着いて状況を見回すことができていた。本来は逆の立場であることが多いが、時には秀の方が宥め役に回ることもある、と言う場面だった。
『来年伸は受験だってみんな知ってるしよぉ、どうせ正月に会うんだから、なにもこんな時期に集まらなくっても、ってな。遼とか絶対来ねぇと思うぞ?』
「う〜ん…、そうかもねぇ…」
 そう、秀の言う通りだ。何事に於いても真摯に仲間を思う遼なら、まず「正月まで待て」と説得して来るだろう。常に理性的に考える当麻なら、「無駄な事に頭を使うな」と一蹴するだろう。恐らくナスティにも余計に気を遣わせる。唯一、征士だけはどう答えるか判らないが、
『それに、何処で集まるにしても、遠い奴らは近い日にちで続けて出んの大変だしよ』
 と、秀が最後に話した条件に、最も悩む立場なのは間違いなかった。
 金銭的に厳しいだけでなく、征士はアフリカ以降の出来事の所為で、今もまだ謹慎中の身だ。毎年恒例となった、新年の集まりには許可がもらえたものの、その一週間前に新たに予定を組むことは不可能、と容易に想像できた。勿論そうなった理由は伸自身が、自ら招いた申し訳ない状況と認めるので、無理を通せとも流石に言えなかった。
 折角、みんなで共有できる楽しみを思い付いたのに。
 そればかりかタイミングの悪いこと。最も我侭を聞いてくれる相手が身動きできないのだ。そして仲の良い相談相手も、珍しく状況を読んで「やめた方が」と言った。
「やっぱり無理かぁ…」
 まあ始めから、難しいだろうと予想はしていたけれど、こうしてひとつひとつ正論を唱えられると、酷くがっかりしてしまう伸だった。理屈は判っている、理論的に考えればそうなることは判っているが、それでは片付かない気持を知ってほしかった。
『多分な…。つーか、何で突然そんな事言い出すんだよ?。ワケありか?』
 秀は意気消沈する相手を気遣うように、変わらず明るい調子で話し続けたが、
「いや、別に理由はないけど。みんなでクリスマスを過ごしたことないなと思って」
『あぁ!、確かにそうだなぁ?。んじゃまあ、来年ちゃんと計画してよぉ、次のお楽しみってことにしとこうぜ!、な?』
 と、善かれと思って発した提案で、却って、伸のこだわりたい気持を知る結果となる。
「来年は君らが忙しいだろ?」
『へ?、何で?』
 会話に十秒程の間が空いて、秀は漸く、来年は今年以上に有り得ないと気付く。
『そっか、そっだな…。じゃ再来年だなァ…』
「再来年かぁ…」
 そして伸の深い溜息を聞くと、秀は些か妙な気分になっていた。元鎧戦士の集いでは、過去も未来も一切クリスマスを祝えないと、絶望的な暗示を受けたような…。
 無論、そこまで悲観する事か?、との疑問が真っ先に頭に浮かんで来る。けれどこの時、伸が切に「悔しい」と訴える気持も、何故だか秀には確と伝わっていた。
 勉強ばかりしている所為で、多少ナーバスになっているのかも知れない。或いは一時現実逃避したいのかも知れない。十八歳の冬はもう二度と訪れない。年若い時代は駆け足で過ぎて行く。距離が離れている者同士が、その中で共有できる時間は限られている。クリスマスが重要なのではなく、伸はひとり年回りが違うことを淋しがっているだけだ。
 と、電話の向こうに居る友の気持は、秀にも大方読み取れたけれど。だからと言って何もできそうにない。状況が何も変わらないのは同じだった。
『ごめんな』
 心情的に、思わずそう呟いた秀に対し、
「え?、何で秀が謝るんだい?」
 伸は表面的には、さらっと返していたけれど。

 その後受話器を置くと、電話機の前で伸はがくりと肩を落として、
「やっぱりね…。まあわかってたんだけどさ」
 と独りごちていた。どうにか決まり切った状態を崩せないか、慣例的なやり方を見直せないかと、本人も相談を持ち掛けながら考えていた。ほんのちょっとした事で、自分の気が済むと言う程度の話だったのだが。
 社会常識に則った生活は大切だが、それを守り続ける限り、いつもいつもひとり違う活動をしなければならない。根底から社会の仕組を変えろとも言わないが、目下のところ、それは常に伸のジレンマとなっていた。ひとりの学生として真っ当に生きることが、今は時々淋しい。
「しょうがないよな、クリスマスが大事なのって、子供か恋人同士か、クリスチャンの人だけだもんね」
 もしこの国が、キリスト教を国教と定めていたなら、クリスマスから新年の間はホリディとなって、お祭り騒ぎが二度あるのは当たり前、となるのだろうが。
「お正月まで待つしかないのか…」
 諦めがついたような、諦め切れないような、何とも言えない半端な台詞をそこに残して、伸は自室に戻って行った。
 けれど、誰がどんな思いをしていようと、全ての者に平等にクリスマスの恩恵はあるのだろう。何故なら救い主は人間の為に生まれたと言う。例え今は目先の希望が色褪せ、つまらない思いをしているとしても。



 十二月二十四日、午前十時過ぎ。
「本当に急だな」
 と、空港のロビーで待っていた征士は、多分に困惑した顔をして言った。そこへ、
「あはは、良かったよ、君に予定がなくて」
 一際明るい表情で現れた伸は、一見何の気掛りもなく見えたけれど、それが全てではないことを征士は知っていた。
 単純に、もうすぐ受験と言う時期なのもあるが、伸の通う高校は明日が終業式となっている。なのにこのクリスマスイヴ一日の為に、彼は早朝から家を出て、夕方には飛行機で戻る強行軍をやっているのだ。勉強云々の前に、体調を崩しやしないかと不安になるではないか。
 結局伸は、どうしても諦めがつかなかったらしい。期末試験を無事に終えた後、二十二日の晩になって征士に連絡を取ったが、流石に彼も手放しで賛成はしなかった。だが否定的な返事もしなかった。
「こっちはもう冬休みだからな。子供の頃は余所の家に呼ばれることもあったが」
 断らなかった征士の、表向きの理由はそんなところだったけれど。
 まあ伸ならば、身を滅ぼす程の事を押し進めるとは思わないからだ。周囲の者には多少心配に見えても、彼は見た目程浮ついた性格ではない。自分より遥かに常識的に、大人しく社会生活をしていると知るから、征士は咎めなかった。ただほんの少し、今の時点で伸に何らかのストレスが生じて、それを解消したがっているだけだ。
 と、征士は持ち掛けられた話を聞いて、伸の今の状態を理解できていた。過去にもしばしば小爆発を起こす例を見て来たように、彼の好きなようにさせた方が良い時もあると。
「しかし…」
 そこまでは、理性的な思考で考えられた征士も、全てに於いて納得した訳ではなかった。出会い頭に見せた困惑顔は、やはり「そこまでして」との気持の現れだった。自分が動けない立場なのを知っている伸に、無理をさせているのは寧ろ自分ではないか、とも感じている。
「何さ?」
「そんなに私に会いたかったのか?」
 できれば真意を尋ねたかったけれど、征士は敢えて冗談半分に言った。すると、伸にはその意図が通じたらしく、
「それは仕返し?」
 と、すぐに切り返して来た。九月の半ば頃に、遼と秀が修学旅行で山口に来ると知った時、不満そうな征士に伸がそう言ってからかったのだ。否、もしかしたらその時も、征士の怒り口調の裏にある、本当の気持を聞きたかったのかも知れない。恐らくそれ以外の時もいつでも、無意識に、確かな言葉をほしがっているのかも知れない。
 常識人である程なかなか、本心をそのまま言う機会はないものだ。だから冗談めかして語ることしか、できないでいる彼等だけれど。
「本当はみんなで集まりたかったのに、秀に相談したら『反対されるぞ』って言われたからさ」
 改めてこうなった経緯を伸が話すと、尤もな内容に征士は頷きながら答えた。
「まあそうだろうな」
 心の内はともかく、現状を考えれば普通に反対される筈なのだ。もし相手が構わないと言っても、例えばそれぞれの親なら、「非常識」と受け取るに決まっているだろう。他人の人生を左右する危険があると思えば、結果が悪い方に傾くことを懸念するのは、ごく当たり前の心情だ。
 けれど彼等の間で、本当に心配すべき事は他にあった。取り残される伸の気持はどうなるのだろう?。言葉通りの他人なら、そこまで考えるのは余計な配慮だが、ふたりは既に他人どころではない。お互いの性質をよくよく知るからこそ、社会でなく彼等だけの常識が成り立つこともある。
 伸の思い付きは、必ず否定されなければならないだろうか?。
 すると、秀の意見に何気なく頷いた征士に対し、伸はやや弱含んだ声で言った。
「君も反対した?」
 彼がそんな変化を見せなければ、いつものように冗談半分に返すところだったが。
 征士は思う。望まれたから答えるのではなく、確かに口では伸への不安を訴えても、心からそう思っているとは言えないと。己の外側を構成する、一般常識に合わせようと働く意識は、一応彼を諭そうとするだろう。だが己の根幹にある部分は、渋々否定的な意見を言わせている感覚だ。伸も思うようにできないが、己も思うようにできない口惜しさを感じる外にない。
 無法者でありたいとは思わない。社会を軽んじるつもりもない。故に立場上動かせない決まり事には、屈するしかない時もある。だがその上で、状況がどうあれ理由が何であれ、君に会えるのは嬉しいと思ってしまう己が居る。
 それが正直な己の在り方だ、と確と思えた征士には、この場で取り繕った演技はできなかった。
「いや」
 と、彼は一言言って、歓迎したい相手を真直ぐに見詰めた。
 またその様子を見て、何をどう感じたかは知れないが、伸はすると、息が触れ合うくらいに顔を近付け、征士の両耳を掴むようにして言った。
「そう。そんなに会いたかったんだよ」
 やはり、言葉自体は冗談混じりだったけれど。
 それでも伸が酷く安心して、喜んでいるらしきことは十分に伝わっていた。彼等にはそれだけでも良かったのだ。「君は答えてくれる」、「私は裏切らない」と、直感的に信じ合うことを確認できる、そんな機会を喜びに感じている。
 たったそれだけの時間を作ることも、許されないだろうか?。
「では、伸が受験に失敗したら、私が責任を取らないといかんな」
「クククク…、アハハハ…」
 それもまた、冗談なのかそうでないのか、考える程に可笑しくて伸は笑い続けていた。

 考えてみたらこんな時にはいつも、単に「好き」と言うよりすごい事を言ってないか…?。

 だから楽しい。だから多少無理をしても君に会いに来たんだと、伸は自ら納得していた。始めから、自分が満足すれば良いだけの思い付きだが、あらゆる気持を共有できる人が居ることは、この場に於いて最上の幸福だった。
 如何なる時も、健やかなる時も、病める時も、相手に忠実であること。
 何処かで聞いたような文言だが、そんなことを感じられた今年のクリスマスは、ふたりに取って大事なイベントだ。
「さー!、笹かまぼこでも食べながらお祝いするか」
「いくら何でもケーキくらいあるぞ…」
 空港内でも目に触れる、柊のリースや金銀のベル飾り。本来は、とあるひとつの出来事を祝う為の物だが、その時ばかりは、自分達の判断を祝福してくれているように見えた。恐らく他の、浮かれ騒ぐクリスマスの恋人達も、大体そんな風に感じていることだろう。神は天に在り、神は我に在り、神は全ての命に在りなんて教義は知らなくても良い。
 二千年の昔から、世界が抱える悩みの規模に比べたら、個人の問題など小さ過ぎて、ツリーの電球のひとつ程も目立たない。だから今はこの賑やかさに紛れて、如何なる存在も許される喜びを楽しんでいよう。

 メリークリスマス。









コメント)日記に少し書きましたが、「輝煌帝伝説」のすぐ後の時間帯が、当初はスカスカだったのです。元々予定していた話の内、9月の修学旅行ネタは、私がいつも秋口調子が悪かった為に、06年になって後から追加。そしてこのクリスマス話は、08年になってやっと追加できました(^_^;。大した話じゃないですけど。
冬コミ前はいつも忙しくて、〆切が早い年でも、疲れ切ってて書けないことが多かったり、なかなか思う活動ができない期間だけど、今年は余裕があって良かったです♪。
一応書いておくと、タイトルはバッハのオルガン曲です。




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