悩める征士
悪魔が通り過ぎる
Bad Weather



 五月の空に輝く太陽は、不思議と真夏のそれより爽やかに感じる。
 太陽はただ宇宙空間の中、原子の活動を繰り返し燃え盛るだけだが、それを見ている場所は刻々と変化している。
 足元の地面が動いている、回転していると言っても、その上に居る人間にはなかなか実感できないものだ。しかし時間は流れ、季節は巡り、時には奇妙な巡り合わせの現象を齎したりもする。
 否、この日の出来事は現象とは言えないが、征士に取っては酷く恐ろしい一日だった。



 連休の度に集う柳生邸の屋根の下。ゴールデンウィークは何故かいつも天気に恵まれるが、今年も素晴しい五月晴れが続いていた。昨日までの滞在中に、集まった面々の近況報告会も終わり、誰もが今日から休日らしい休日を過ごそう、と意識を変えたところだった。
 誰も皆、実家に戻るより柳生邸に来ることを優先している。その習慣は鎧戦士を降りた今でも、変わりなく続いているようだ。無論五十、六十と言う年になればどうなるか知れない。が、まだ二十そこそこの彼等は、一般人としての人間関係以上に、苦楽を共にした戦友、又は仲間達を大切に考えているようだ。或いは最も心強く感じる背景を、できる限り長く維持したいのかも知れない。
 だから特に用はなくとも集まる。連休がある毎に、ただ休日を共に過ごす為に集まるだけだが、彼等にはそれで比類なく有意義なことだった。

 朝食を終え、いつもそうだったように、征士が居間のソファで新聞を広げていると、開放してあったドアから、何やら困窮した様子の秀が入って来る。その時他には誰の姿も無かった。
「何だ、珍しく難しい顔をして」
 変に大人しい、相手を窺うような態度の秀を見ると征士は言った。普段の彼なら人を見るなり、挨拶がてらの言葉を必ず口に出す筈だった。これは恐らく何か、話し難い相談事でも持ち掛けて来るつもりだな、と、征士はやや身構えるように座り直す。
 すると案の定、彼の促しに乗ったように秀は口を開いた。
「…なぁ、もし…」
 だがそれでも、相当に話し難い懸案のようで、彼はその続きをなかなか言わなかった。何かに怯えている、或いは顔色が悪い訳でもないので、彼自身の失敗や病の告白などではなさそうだ。では、それほど口籠らせる話題とは何なのだろう?。
 と征士が考える中、正に思い掛けないことを秀は話し始めた。
「もし…、俺が伸のこと好きだって言ったら、どう思う?」
「は…?」
 この場合、寝耳に水と言う言葉は当て嵌まるだろか?。自分以外の仲間の共通認識ならともかく、秀だけが思うことは知りようがない。だからその慣用句は不適切に感じる。
 などと、どうでもいいことが征士の頭を巡っていた。つまりまともな思考が停止しているのだ。それだけ驚いていることに他ならない。まさか秀が、最も健康な友人として存在していた秀が、何事にも複雑さを嫌う秀がそんな話を…、と、そこから考えが進まないでいる。
 理性的な思考はできない状態だったが、征士は上辺を繕うように正論で返した。
「別に…、好きになるのは勝手だ」
 ところが、動揺しまくっている征士とは対照的に、秀の方はやや首を傾げ、落ち着いた様子で考えながら言った。
「いやそう言うことじゃねぇな?。…んじゃ、もし俺が本気で奪うと言ったらどうする?」
 どうやら秀自身は、何を訊ねたら目的に辿り着けるか、模索しながら話している状態のようだ。それならば、話す内容は単なる例えなのかも知れない。征士の困惑も少しばかり鎮まり、
「受けて立とう」
 と、溜息混じりだが、彼らしい返事ができていた。
 特に怪し気な空気も感じられない朝、とんでもないヨタ話を聞かされ混乱したが、平常心が戻って来れば、征士独特の強気な会話の仕方が戻って来る。しかし、
「じゃなくてよぉ、」
「??」
 秀は再度話の方向を訂正した。
「じゃあ、『俺の方が絶対気が合うと思うし、俺に乗り換えた方がいいぞ』って伸に言ったら、おまえはどんな行動に出る?」
 そして、それまでにない具体的な内容を耳にすると、征士の眉がピクリと動いた。話の信憑性はともかく、自尊心を刺激される内容だったからだ。
「何故乗り換えた方が良いとわかる?」
 当然その点が引っ掛かっただろう。秀の目的に合う方向かどうかは不明だが、征士の態度は明らかに、前のふたつの質問の時とは変わっていた。今は多少怒っているような、不機嫌さを感じさせる低い声色を使い、ある意味威嚇するような態度を見せている。勿論、落ち着いているようで内心穏やかではない。
 それを知ってか知らずか、秀の方は段々と調子を上げて来ていた。
「例え話だぜ?。一応な」
「一応とは何だ」
 征士はとにかく、この一連の話が現実なのかそうでないのか確認し、早く落ち着きたがっているようだ。それに対し秀は、何故だか妙に曖昧な態度を見せている。故意かどうかは判らない、本当に言いたいことが別にあるのかも知れないが、そんな様子は相手の不安を煽り続けている。
「一応って言ったら一応だ。で、答はまだなのか?」
 変わらず軽妙な返事をして、彼は笑うでもなく真面目に征士と向き合っていた。
 今に至り秀を恐れる気持はない。恋敵が居る状況と言うのもそれなりに面白いと思う。だが、己の幸福の影で、誰かの気持が蔑ろになっているとしたら、やや問題だと征士は考えていた。
 どうせなら「異常だ」、「気色悪い」と言って、それについて触れずにいてくれた方が良いとも思う。これまでもずっと知らぬ振りだった。と思うのだが、実際はそうではなかったのかも知れない。もし、本当に現実を見間違えていたとしたら、それは自分に取って痛恨の汚点となるだろう。
 何故なら己は決して、視界を曇らせない立場だとの自負がある…。
「そんな話に伸が乗る訳がない」
 取りあえず征士は、秀の話した場面を想像しながらそう返した。けれど、
「伸の考えはどうだっていい、おまえがどうするかって聞いてんだぜ」
 彼の言う通り、それでは答になっていない。ただ、例え話に本心を晒すような馬鹿はしない、征士は矛先を躱しながら話すしかなかった。
「何故そんなことを聞きたいのか…」
「いやぁ、ちょっとな」
 秀の方もまた、核心に触れそうになるとお茶を濁そうとした。このやんわりと何かを誘導するような、奇妙な場の空気が居心地を悪くさせる。征士は遂に、それを撃ち破るように声を張って言った。
「こっちこそ聞きたい、何故突然そんなことを言い出すんだ!?」
 ところが、意を決した結果はまた予想外の方へ傾いて行く。征士の思惑とは裏腹に、秀はまた思わぬことを口にして、増々相手の思考を乱していた。
「突然って訳じゃねぇよ、俺はずっと伸とは親友なんだからな。おまえが知らないことで、俺が知ってることだって普通にあるんだぜ?」
 そう言われれば、確かに征士には反論できなかった。今も容易に思い出せる、まだ鎧の真の姿を誰も知らなかった頃に、伸の実家では家庭内のゴタゴタが起こっていた。その時彼の様子を心配し、事態を見に出掛けたのは秀だけだった。
 その頃は、まだ誰もがそこまで深入りしない間柄だった。否、その頃から徐々に親密になって行ったのだ。故に秀以外の仲間が誰も、伸の実家を訪ねなかったのは問題ではない。寧ろ当時の秀が、よく伸に気を掛けていた証拠だと思う。
 そう、それこそが事実だ。
 と思うと、後の経過を特に考慮しなかった征士には、何も言えなくなって行った。
「・・・・・・・・」
 確かにある意味、ある面では、伸と秀は自分より親しいのかも知れない。だがそれはそれとして、秀の訴えが何処に向いているのか、彼の真意は何なのかがまるで掴めない。例え話と言いつつ本当に例えなのか、嘘か真か嫌でも疑わしく感じさせている。ただ、過去の事実を出されれば何を喚こうと無力だ…。
 すると、石のように黙り込む征士を見兼ねたのか、
「ま、いいけどよ」
 秀はそこで話を切り上げてくれた。無論何の解決でもなく、非常にすっきりしない状態ではあるが、取りあえず不穏な流れからは解放され、征士はホッと胸を撫で下ろしている。
 全く、知らぬが仏とは言うけれど、
『まさか、秀がそんなことを考えているとは思わなかった…』
 正直なところ、征士はその事実だけで思考が止まっていた。質問に対する回答などは、今はまだ何も考えられないでいる。昨日まで何食わぬ顔をしていた友人が、突然態度を豹変すれば誰でも驚くだろう。それがまた、今は征士の泣き所とも言える、伸に関する話だったので。
 人の心は何処へ行く。恋する気持は何処へ行く。



 その日の午後、五人が顔を揃える賑やかな昼食を終え、それぞれが思い思いに寛いでいると、
「お茶入れるよ?、いつも通りでいいかい?」
 伸が、ダイニングテーブルに向かい合って座る、征士と当麻にそう声を掛けた。
「ああ、済まない」
 と征士は答えたが、当麻は声を発するどころか、手元の本から視線を外すことさえしなかった。没頭し過ぎて聞こえない時もあるが、それで「変更はない」と言う合図でもある。そんな暗黙の了解が成立していることも、彼等の親しさの証しだろう。
 それから暫しの後、伸はふたり分の飲み物を両手にして運んで来た。今大広間にはこの二名しか居ないが、他のふたりとナスティには、後から別に運んで行くつもりだろう。今更ながら彼の行動はいちいちマメだ。全てをトレイに乗せ、各部屋に配り歩いても良いだろうに。
 そして、
「はい、当麻は砂糖よっつね」
 テーブルの上の、読書の邪魔にならない程度の場所に、伸が静かにマグカップを下ろすと、
「サンキュ」
 とだけ当麻は返した。
「よくそんな甘いコーヒーが飲めるな」
「頭を働かせる為に糖分が必要なんだってさ」
 征士と伸が呆れて話す会話など、全く何処吹く風のような彼だった。
「それはともかく…」
 いつも思うが飲みにくくないのか?、と言う顔で、暫く向かい側の人物を眺めていた征士。伸の気配が大広間から消えてしまった後、当麻はふと顔を上げ、遅ればせながらのコメントを出していた。
「ともかく、伸は人の好みを完璧に憶えてるな。俺に関して間違えたことはない」
 そして思い出したようにカップを手に取ると、涼しい顔で一気に半分くらい飲み干していた。胸焼けしそうに甘いコーヒーと知らなければ、極普通の動作に見えた。
「そのようだな」
 好みとは人それぞれあるものだから、自分には恐ろしく気持の悪い飲み物を普通に飲む、当麻のような人間が居ることは否定できない。否、寧ろ目立つ特徴だから憶え易いのではないか、と征士は考えていた。
 単に我侭に育ったのかも知れないが、当麻は食べ物の好き嫌いが多い奴だ。そう言えば、その代わり好きな物なら一週間同じメニューでも、文句は言わないと伸が言っていた。食事を作る側には楽な存在だが、変化に富んだ食材や調理法を楽しんで食べる、と言う行動は頭に無いらしい。
 それが徹底していればいる程、端からは目立った個性に映るだろう。征士はそれを、別段羨ましいとは感じないが、自分は少し優等生過ぎるかも、と思うことがあった。手の掛かる子供ほど愛着が湧くこともあるのだから。
 すると、丁度征士がそんな考えに辿り着いた時、
「なんだかんだ言って伸は有能な奴だ。アシスタントとしての能力が高過ぎる」
 不意に当麻がそんなことを口走った。
「確かに…」
 彼が珍しく人を誉めている。今考えていた通り、当麻から見ても伸は有難い存在だと、自然に受け入れている様子が征士にも判る。そして午前中の出来事を嫌でも思い出す羽目になった。「親しいのはおまえだけじゃない」、と秀は言ったけれど…。
 その時、
「…もし…」
 嫌な出だしの文句だと、征士の耳は不吉な響きを受け取っていた。そして悪い予感とは当たるものだ。
「ん?」
「俺が伸をほしいと言ったら、おまえはどうする?」
 悪夢再び。冗談めかした態度ならまだしも、真顔で言われたところまで同じだった。
「どうする、と言われてもな…」
『何故今日はこんな話題ばかり…』
 悪い事は重なると言うが、自分としては最も話題にしたくない類の話が、何故こう次々降り掛かって来るのか征士は悩む。彼が俄に頭を抱える様子を見せると、当麻はニヤリと笑いながら返した。
「急に振られた話に答えられないようじゃ、何かあった時どうするんだよ?」
「何の話だ?」
 結局秀の時と同様、征士はまともな思考ができなくなっていた。「何かあった時」とは何を指しているのか、何故答えられないとマズいのか、普段なら話の流れから想像できる物事が、さっぱり頭に浮かんで来ないのだ。故にごく短い文句を返すことしかできない。
 対して当麻は、特に意地悪な態度でもなく、前の発言の意味をきちんと解説してくれた。
「よく言うだろ、不幸は突然起こるようで、目立たない些細な変化が必ず前の時点にあると。おまえがそんな適当な態度でいるんじゃ、今起こってる事なんか見えなくて当然だ」
 ただ、その内容には強く興味を惹き付けられる征士。
「何が起こっていると?」
 如何にも今、水面下で何かが動いていると言いたげではないか。否、明らかにそれを示唆しようとしている。すると当麻は、ほぼ征士の予想通りのことを話して聞かせた。
「俺はこれまで時々考えて来たんだ。砂糖の量がどうとか、誰かが生活の煩わしさを引き受けてくれれば、俺はそれだけで最高に幸せだろうとね。…金や名誉にはさして興味もないが、ひとつの事に集中したい自分を支えてくれる、助手なり、家族なりは重要な存在だと考える。だから俺は伸がほしい」
 それはない。合理的結論にも程がある。と征士は、瞬きを忘れる程呆れ返っていた。
 仮にも自分の伸に対する感情を知っていて、敢えて話す内容ではないと思う。だからこれは恐らく秀の時と同じ、例え話の議論だと気付いた。
 そう、例え少しはそんな考えがあったとしても、そうなって欲しいと望む訳ではないのだろう。願望の程度には微妙な、様々なレベルが存在するが、「それでも幸福かもしれない」と思うことと、「こうでありたい」と希望すること、「こうでなくては」と要求することはかなり違う話なのだ。
 そう思うと、当麻の思い付きのような発言を真面目に受け過ぎた、と征士は反省しながら返す。
「馬鹿な。家政婦でも雇えばいいだろう」
 ここまで、午前の出来事がフラッシュバックしていた為、更に混乱を深めてしまった。だが秀のような感情論とは違う、酷く打算的な理想を聞かされ目も覚めた。全く、例え話にしても質が悪いと。
 しかし当麻の訴えは、それで終わりではなかった。彼は相手の様子を見るでもなく、ただ淡々と自身の考えを述べ続けた。
「いや、本当の意味で支えになるのは家族だ。家族としての繋がりだ。そうでなきゃ愛情と言うものが湧かないだろう。だから既に仲間である伸が必要なんだ」
 落ち着きを取り戻したのも束の間、思わず征士は声を荒げていた。
「何を言い出すんだ!?」
「ほらな。考えもしなかったって態度だ」
 正に言われる通りの状況で、征士に整然とした反論ができる筈もない。続けて当麻はこうも言った。
「親密な付き合いをしてるのはおまえだけじゃないんだ。今はそれぞれ家族のように、充分に美点欠点を理解した状態になれた。だからこそ、将来パートナーとして付き合いたい個性に魅力を感じる。別に不思議なことじゃないだろう?」
「それは、そうだが、」
 同じ言葉を二度も聞かされた。今日はどれ程不運な星の巡りなのやら。
 それにしても、本来は稲妻の走るが如く閃き、何事にも対応の良い征士が、こんな晴天の霹靂の事態には固まっている。無論、目前の敵を倒すと言った単純なことではないし、親しい仲間同士の関係が平和であるよう、誰もが望んでいるから多少神経質にもなる。
 だが、滅多なことを言えない状態に追い込まれる、一番の理由は何より、彼が本当に伸の存在を大切に思っているからだ。
 この五人は誰もが大事な仲間だから、誰にも特定の人物を好きになるなとは言えない。その人が魅力的に映るからこそ、征士もその個性に惹き付けられ今に至る。けれど一度でも結び付いたら、もう誰にも邪魔されたくないと考えるだろう。仲間としての立場と個人的な感情が入り混じり、彼は何を反論すべきかも判らなくなった。
 確かに当麻の言う通り、人間の持てる能力の中で、最も強い力は愛情だと思う。
 しかし冗談のような会話から、これほど悩ましい事態に発展するとは。スパっと本音を言えることならまだ良いが、何が本音なのか判別し難い問題に征士は直面している。常に多面的な構造を持つ、心とは時に不快な持ち物だ。何故なら現状の平穏無事を一番に望んでいるのは、今は征士自身かも知れないのだ。
 いつも彼の人の心が安寧であり、自分を見ていてくれる存在であるように。
 ただ、そうして悩みまくる征士を余所に、当麻は奔放な理論を展開し続けている。
「ついでだが、俺とおまえは色々と似てる所があるよな。おまえが穏やかに付き合えてるところを見ると、俺も問題なく付き合えると思うんだ。どうだろう?」
 言いながら、何のつもりかウィンクまでして見せた。
「・・・・・・・・」
 からかっているのか、挑戦を仕掛けているのか、否、最早そんなことは征士の思考に無かった。何より自身の考えが纏まらないことが、内なる憤りとなり、それが部屋の空気にも伝わって行った。すると、
「いや、いい。それに答えろと言うのは酷だよな」
 自ら挑発しておきながら、当麻はすぐにそう返していた。あまり追い込んでも悪いと思ったのだろうか?。だが時既に遅しだった。
『私は本当に何も見えていなかったのか…?』
 ひとつの集団に属する人間関係の上で、最大の懸案に突き当たった。それが己の目を曇らせるようでは駄目だ、と、征士は本気で悩み始めていた。



 実は、こんなからくりがあった。
 征士と言う人は、滅多に本心を口にすることがなく、普段の会話はほぼ上辺の思考で行われているようだ。その代わり、本意に触れる話題となると口数が減り、暴かれそうになると黙り込む判り易い面がある。
 その際、顔の前の物に集中するように、自然に眼球が寄って来ると言う当麻の観察を、今日は秀と一緒に検証していたのだ。当然ふたりの投げ掛けた異常な話題は、心にも無い作り話だった。
 そして行われた実験に於いて、確かに当麻の指摘する表情の変化が見られたので、ふたりは内心大笑いしていたのだった。
 無論そんな悪戯は征士に限らず、誰もが一度や二度は経験していることだった。それだけ各々の個性が強く、各々に対する関心が尽きない集団だと、自ら認めていると言う平和な話…。
 ただ、当麻と秀には単なる実験でも、征士には無闇な緊張感が残されてしまった。まあ、これまで仲間内での迷惑を考えずに居られたのも、その仲間達の思い遣りなのだ。これを機に少し考えてみても良いかも知れない。

 征士がダイニングテーブルの席を立ち、隣の応接間を覗くとその窓辺には、白炎を間に話す遼と伸の姿が見えた。
 もう午後三時を過ぎて、少しばかり赤味を帯びた光線が、暖かそうに彼等の居る場所を包んでいるように見える。背景に見える青々とした草木も、庭の花や石ころに至るまで、全てが同じ階調に同化し馴染んでいる。天然の美しさとは正に調和の美だと征士は思った。
 そこで穏やかに談笑するふたりの絵も、何とも自然なイメージだった。
 伸が、
「遼と白炎はホントに会話してるみたいだね」
 と言うと、当人は少しはにかんだように笑いながら返す。
「そんなことはない。だが、何て言うか、不思議と通じ合えるんだ」
「いいね、そう言うの」
 本当に、言葉のように不自由な手段でなく、伝えたいことをそのまま伝えられる方法があれば、争いは絶えなくとも、人間の苦悩は遥かに軽くなると考えられる。勿論全てオープンな状態が良い訳ではないが、と、征士は思い倦ねながらふたりの会話を聞いている。
 そして暫くすると、彼はふたりの傍に寄って行ったが、遼は「もし俺が…」などとは言い出さなかった。漸く普段通りに接してくれる相手を見付け、征士はホッと安堵の息を漏らす。
 ただその穏やかさの中に、
『もし遼が本気で伸をほしがったら、私は負けるかも知れない』
 と真摯に思う征士だった。

 魔の一日はこうして過ぎて行った。









コメント)いやー、予告通り馬鹿馬鹿しい話だったです(笑)。たまには他からちょっかいを出される征伸、のような話を書いてみたいと思っただけで、あまり深読みしないでください(^ ^;。シリアスなのは絶対ムリです!。
ところで当麻の、「砂糖よっつ」にゲッと思った方すみません、私がそうなんです(笑)。180ccくらい入るマグカップだと普通に12gくらいです。外でお茶を飲む時も、3gのスティックシュガー3本使うことが多いですが、最近1本しかくれないお店もあって我慢してます…。




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